コラム
Column
Column
1.はじめに
令和7年5月23日、マンションに関する基本ルールを定める区分所有法(正式名称は「建
物の区分所有等に関する法律」)についての改正法が成立し、令和8年4月1日から施行され
ることとなりました。
新たな制度の導入や、決議要件の緩和などを含む大きな改正となりますが、本稿ではその概
要をご紹介いたします(以下、改正前区分所有法を「旧法」、改正区分所有法を「新法」と表
記します)。
(なお、今般の改正では、他に4つの法律も一括して改正が行われましたが、本稿では区分所
有法改正を中心に取り上げます)
2.改正の背景
近時、多くのマンションにおいて、①築年数を重ねることによる建物の老朽化と、②居住者
の高齢化という「二つの老い」が進行していると指摘されています。
2023年末の時点で、日本に存在する約700万戸のマンションのうち、築40年以上の
ものは、約2割に相当する約137万戸とされています。築40年以上のマンション数は、
10年後には約274万戸、20年後には約464万戸へと、さらに増加すると予想されてお
り、外壁の崩落や配管設備の損傷などの建物の老朽化にともなうトラブルが今後増加していく
ことは必至です。
また、築年数の高いマンションほど、高齢世帯の割合は高くなるほか、相続等を経て非居住
化(賃貸・空き住戸化)も進行するなど、トラブルに適切に対処するための集会決議を行うこ
とすら困難な状況も発生しています。
このような、マンションにおける「二つの老い」の進行による諸問題への対処をめざして、
改正が行われることとなりました。
3.改正の概要
⑴ 集会決議の円滑化
従前の区分所有法では、普通決議は区分所有者全体での多数決によることとされており
(旧法39条1項)、さらに欠席者は反対と扱われていました。そのため、無関心から決議に
参加しない区分所有者の存在が、円滑な決議への障害となっていました。
このところ、法改正により、建替え決議など区分所有権の処分を伴う決議を除いて、出席
者の多数決によって議決できることになりました(新法39条1項)。
また、所在が不明であったり、連絡がつかない区分所有者については、裁判所の除外決定
を得ることによって、すべての決議の母数から除外できる制度が導入されました(新法38
条の2)。
⑵ 裁判所による管理人の選任制度の導入
専有部分にゴミが放置されている、共用部分である廊下やテラスに危険物が放置されてい
る等、区分所有者による専有部分、共用部分の適切な管理がなされていないために他人の権
利が侵害されるおそれのある場合に、裁判所が管理人(管理不全専有部分管理人、管理不全
共用部分管理人)を選任して、適切な管理処分を行わせる制度が導入されました(新法46
条の8、46条の13)。
また、必要な調査をしても区分所有者が不明である場合に、裁判所が管理人(所有者不明
専有部分管理人)を選任して、専有部分の管理を行わせる制度も導入されました(新法46
条の2)。
⑶ 国内管理人制度の導入
海外投資家による投資目的での保有などにより、区分所有者が国内に住所を有しない場合
に、その専有部分及び共用部分の管理に関する事務を行わせるため、国内管理人を選任する
ことが可能こととなりました(新法6条の2)。
国内管理人の選任は法律上の義務ではありませんが、規約において義務付けることは可能
とされています。
⑷ 共用部分の変更の要件緩和
従前の区分所有法では、共用部分の変更(形状や効用を確定的に変える行為をいいます)
は、4分の3以上の多数決によると定められていましたが(旧法17条1項)、4分の3と
いうハードルは高く、バリアフリー化など必要な工事を行う障害になっているとされていま
した。
改正法では、原則として従前の4分の3という多数決割合を維持しつつも、①共用部分の
設置・保存の瑕疵により権利侵害のおそれがある場合、②バリアフリー化のために必要な場
合に限って、多数決割合を3分の2に緩和することとされました(新法17条5項)。
⑸ 建替え決議の要件緩和
従前の区分所有法では、マンションの建替え決議は、5分の4の多数決によると定められ
ていました(旧法62条1項)。
改正法では、原則として5分の4という多数決割合は維持しつつも、①耐震性の不足、②
火災に対する安全性の不足、③外壁等の剥落によって周辺に危害を及ぼすおそれ、④給排水
管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、⑤バリアフリー基準への不適合、のい
ずれかに該当する場合には、多数決割合を4分の3に緩和することとされました(新法62
条2項)。
また、建替え決議がなされても、専有部分の賃貸借等が当然に終了する訳ではなく、賃借
人の存在が円滑な建替え工事の実施を阻害する一因となっていました。
改正法では、建替え決議がされた場合には、賃貸人でなくても賃借人に対して賃貸借の終
了を請求でき、6か月を経過することで賃貸借を終了させることができるとされました(新
法64条の2)。
⑹ 建物・敷地の一括売却、建物の取壊し、一棟リノベーション工事
従前の区分所有法では、抜本的なマンションの再生方法として、建替え決議が規定されて
いるのみで、①建物と敷地を一括売却する、②建物を取り壊して敷地を売却する、③建物を
取り壊すといった方法についての定めはなく、決議するには区分所有者全員の賛成が必要と
解されていました。改正法では、建替え決議と同様の多数決によって、これらの3つの方法
を実行することが可能となりました(新法64条の6、64条の7、64条の8)。
また、既存の躯体を補強して、建物全体を改良することで実質的な建て替えを実現する一
棟リノベーション工事(建物の更新)についても、建替え決議と同様の多数決によって行う
ことが可能となりました(新法64条の5)。
⑺ 団地内建物の一括建替え、建物敷地一括売却の要件緩和
従前の区分所有法では、団地内建物の一括建替えは、団地全体の5分の4による多数決
(全体要件)と、各棟での3分の2による多数決(各棟要件)によって決議すると定められ
ていました(旧法70条1項)。
改正法では、全体要件については、原則として5分の4という多数決割合は維持しつつも
①耐震性の不足、②火災に対する安全性の不足、③外壁等の剥落によって周辺に危害を及ぼ
すおそれ、④給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、⑤バリアフリー基
準への不適合、のいずれかに該当する場合には、多数決割合を4分の3に緩和することとさ
れました。また、各棟要件については、3分の1を超える反対がない限り要件を充たすもの
とされ、実質的な緩和が図られました(新法70条1項)。
また、建物敷地一括売却についても、団地内建物の一括建替えと同様の多数決決議による
こととされました(新法71条)。
⑻ 団地内建物の建替え承認決議の要件緩和
従前の区分所有法では、団地内建物の建替え承認決議について、4分の3の多数決による
とされていました。
改正法では、①耐震性の不足、②火災に対する安全性の不足、③外壁等の剥落によって周
辺に危害を及ぼすおそれ、④給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、⑤
バリアフリー基準への不適合、のいずれかに該当する場合には、多数決割合を3分の2に緩
和することとされたほか、出席者の多数決によることとして、決議要件が緩和されました
(新法69条8項、1項)。
4.おわりに
今般の改正は、新たな制度、再生手法の導入や、各種決議要件の緩和など、主要な点につい
て大きな変更を加えるものとなっています。
また、マンションの一括売却、リノベーションなど、マンションの再生を促すための規定も
複数設けられました。これまでマンションの建替えが実現した例は極めて少なく、今般の改正
を経てどれだけマンションの再生が進むのか注目されます。
本稿が、改正区分所有法の理解の一助となれば幸いです。
以上