コラム

Column

第168回 高年齢者雇用について

1.高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、「高年法」といいます)では、65歳未満の
 定年の定めをしている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するた
 め、定年の引き上げ、継続雇用制度(希望する高年齢者を定年後も引き続いて雇用する制度)
 の導入、定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じなければならないとされています(高年法
 9条1項)。
  この点、従前は、一定の要件のもとで、かかる継続雇用制度の対象者を限定する基準を定め
 ることが経過措置として認められており、その基準に基づいて継続雇用の対象とする高年齢者
 を限定することが可能でしたが、当該経過措置は令和7年3月31日に終了したため、同年4月以
 降は、65歳までの継続雇用制度を導入する場合には、希望する高年齢者全員を引き続いて雇用
 する制度を設ける必要があります。
  以下においては、高年齢者雇用における実務上の留意点について、ご説明をします。
 
2.まず、上記のとおり、65歳までの継続雇用制度を導入する場合には、現在では、希望者全員
 を対象とする必要がありますが、一方で、「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置
 関係)」においては、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著
 しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等、就業規則に定める解雇事由又
 は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができるとさ
 れており(同A1-1)、このような場合には継続雇用の対象としないことが可能です。
  また、継続雇用に際して事業主が提示する労働条件に関して、高年法は事業主に定年退職者
 の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではないため、必ずしも労働者が希望す
 る労働条件を提示する必要はありません(上記Q&A A1-7)。この点、学究社事件(東京地立
 川支判平30.1.29労経速2344号31頁)では、事業主が提示した労働条件について、労働者にと
 って到底受け入れ難いような内容であるとまでは認められないことなどとして、定年前の労働
 条件との比較をすることなく、不法行為責任の成立を否定していますが、定年前の労働条件と
 比較して継続雇用における労働条件の提示について不法行為責任の成立を認めた裁判例もあ
 り、留意が必要です。
  さらに、継続雇用制度を導入し、期間1年の有期労働契約を締結したような場合には、継続
 雇用中の雇止めの可否が問題となります。この場合、更新に対する合理的な期待は認められ、
 雇止めに客観的な合理性があり、社会通念上相当と言えることが求められると考えられますが
 (労働契約法19条)、例えば、キヤノン事件(東京地判令5.6.28労経速2539号20頁)において
 は、所定労働日の半数以上で労務提供できなかったこと、再雇用契約終了までに診断書を提出
 せず、労務提供できる状況に回復していたとはいえないことなどを踏まえて、裁判所は雇止め
 を肯定しています。
  以上のほか、継続雇用制度を導入し、期間1年の有期労働契約を締結したような場合には、
 継続雇用中における契約の更新時期に労働条件を変更することができるかどうかが問題となり
 ます。この点、東光高岳事件(東京高判令6.10.17労判1323号5頁)では、同一の労働条件で契
 約が締結されると期待することには合理的な理由がなかったこと、労働条件の変更の提案には
 合理性があったことなどを踏まえて、異なる労働条件で契約締結を申し込み、従前の労働条件
 での更新を拒絶したことが許容されており、参考になります。
 
3.他方、高年法では、65歳以上70歳未満の定年の定めをしている事業主や65歳までの継続雇
 用制度を導入している事業主等は、定年の引上げ、65歳以上継続雇用制度の導入、定年の定め
 の廃止等の措置等を講じる努力義務を負うこととされています(高年法10条の2第2項)。
  もっとも、65歳以上継続雇用制度の導入は、このように努力義務とされているため、同制度
 を導入する場合であっても、継続雇用しない事由を解雇事由と別に定めることは可能であると
 されており(高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)⑩)、対象者基準を設け
 ることも可能です。
  この点、対象者基準については、事業主が恣意的に特定の高年齢者を対象から除外しようと
 するなど、高年法の趣旨や他の労働関連法令に反する、又は公序良俗に反するものは認められ
 ないとされ、具体的には、『会社が必要と認めた者に限る』、『上司の推薦がある者に限る』な
 どの基準は適切ではないとされていますが(上記Q&A⑬)、他方で、かかる法の趣旨等に反し
 ない客観的な基準の設定は可能です。65歳以上継続雇用制度においては対象者基準は十分に活
 用されていない印象がありますが、、その利用を積極的に検討してみることも考えられます。

以 上