コラム

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第162回 会社代表者住所の登記の非表示措置 

会社は、会社代表者の住所を登記する義務があり、現在は、誰でも、登記事項証明書を取得する(または登記情報提供サービスにより登記情報を閲覧する)ことにより、代表者の住所を知ることができます。個人情報保護の観点からこれを見直すべきとの議論があり、2024年4月16日に公布された商業登記規則等の一部を改正する省令[1]により、代表取締役等住所非表示措置の制度が創設されました。2024年10月1日より施行されます。

1 会社代表者住所の役割
会社代表者住所は、会社の代表者を特定する情報という意味があります。
また、会社代表者住所は、民事訴訟法上の裁判管轄の決定及び送達における重要な役割を有
しています。会社に対して訴えを 起こすときは、原則として、会社の主たる事務所の所在地
が管轄になりますが、これが判明しないときは、代表者の住居地によって管轄が定まります。
また、会社の住所に送達して、書類が受領されないときは、会社代表者の住所に送達をする
こととされています。

2 改正の内容
(1)住所の非表示
株式会社は、設立・代表者就任・住所変更など代表者住所を登記する登記の申請時に、会
社代表者の住所非表示を申し出ることができ、その場合は、登記事項証明書等では、当該代
表者の住所は市区町村までしか表示されないこととされます。
2022年9月1日以降、会社代表者がDV被害者等である場合は、会社代表者等からの申
し出により、その住所を非表示にすることができましたが、今回の改正により、住所を明ら
かにされることにより被害を受けるおそれがあるという事情がなくとも、住所を非表示にす
ることができるようになりました。
(2)代表者住所が表示される場合
もっとも、当該株式会社が本店所在場所に実在しなくなった場合、例えば、本店への郵便
物が届かないようになった場合には、登記官が職権で住所非表示措置を終了することになっ
ています。
(3)代表者住所の情報取得
改正される点は、登記事項証明書において会社代表者住所が表示されるかどうかであっ
て、登記申請時に、代表者住所を届け出る必要がある(登記義務がある)ことには変わりあ
りません。そして、一定の利害関係を有している場合には、登記簿の付属書類の閲覧請求を
して代表者住所の情報を取得したり、弁護士が弁護士法23条の照会を通して、代表者住所
を調査することはできます。

3 実務への影響
2024年10月1日以降に行う代表者就任等の登記の際から、代表者住所の登記の非表示
申出をするという選択が可能となります。なお、代表者住所を非表示とした場合には、登記事
項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関か
ら融資を受ける際や不動産取引等にあたって必要な書類が増えるなどの一定の影響が生じるこ
とはあり得ます。
また、これまで、債権保全・債権回収の場面において、取引先等の登記事項証明書を取得し
て代表者住所を確認し、当該住所地の不動産の所有者や担保余力を調査し、同不動産を担保と
して提供するよう交渉する、代表者の責任追及をする場合等に、同不動産を仮差押・差押えの
対象とするということが一般に行われていましたが、これが容易にはできなくなります。10
月の施行前にできることとしては、債権保全・債権回収の必要がある場合は、代表者住所登記
が非表示とされるより前に、取引先等の登記事項証明書を取得しておくことが考えられます。

                                       以 上


[1] 令和6年法務省令第28号