コラム

Column

第160回 労働基準法施行規則等の改正について

1.令和5年3月30日に,労働基準法施行規則,有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準(以下,「雇止め告示」といいます)等が改正されました。

 同改正においては,労働条件の明示事項の追加やこれに伴う労働者に対する説明事項の追加等に関する事項のほか,裁量労働制に関する改正がなされており,あわせてこれに関連する指針・告示も改正されていますが,ここでは,労働条件の明示事項の追加やこれに伴う労働者に対する説明事項の追加に関する内容に絞ってご説明します。

 

2.労働基準法施行規則5条が改正され,労働契約の締結時と有期労働契約の更新時には,従前の明示事項に追加して,就業場所・業務の変更の範囲を明示すべきこととされました。

 これは,有期労働契約に関しては,更新のタイミングごとに,「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加えて,これらの「変更の範囲」,すなわち将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲についても明示を必要とするものです。

 次に,労働基準法施行規則5条が改正され,有期労働契約の締結時と更新時に,更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容を明示すべきこととされました。

 この点に関して,雇止め告示の改正により,最初の労働契約の締結より後に更新上限を新設する場合や,最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合には,その理由を労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明することが必要となりました。

 さらに,労働基準法施行規則5条の改正により,無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時には,無期転換を申し込むことができる旨,及び無期転換後の労働条件の明示が必要となりました。この点に関して,明示を求められる無期転換後の労働条件は,現行法のもとで労働契約の締結に際して明示を求められる労働条件の内容と基本的に同じであり,一定の事項を書面により明示しなければならないことも同様です。

 そして,これにあわせて雇止め告示が改正され,無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに,無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって,就業の実態に応じて,正社員等とのバランスを考慮した事項について,有期契約労働者に説明するよう努めなければならないこととされました。具体的には,通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項(例:業務の内容,責任の程度,異動の有無・範囲など)について,有期契約労働者に説明するよう努めなければならないこととされています。

 これらの内容の改正後の労働基準法施行規則の施行及び改正後の雇止め告示の適用は令和6年4月1日とされています。

 

3.有期労働契約の更新上限の設定に関しては,契約の当初から契約更新の上限が設定されていた場合において,例えば,満65歳以降の契約更新をしない旨を定めていた日本郵便(期間雇用社員ら・雇止め)事件(最判平30.9.14 労判1194号5頁)において,その時点での雇止めが認められるなど,設定した上限での雇止めが基本的に認められる傾向にあります。上記の改正による契約当初からの更新上限の明示は,上限にそった対応を安定的に行うことに資することにも繋がるものと言えます。

 また,有期労働契約の更新に関して,合理的な期待が生じた後に更新上限を新設するような場合,例えば,日本通運事件(東京地判令2.10.1 労判1236号16頁)においては,更新の上限あるいる不更新の条項のある労働契約書に労働者が署名押印していたことにより,合理的な期待が放棄されたとまでは認められなかった一方,労働契約の更新がないことを労働者が契約更新の際に個人面談を含めて複数回説明を受けたことや契約書に不更新条項が設けられたこと,その他の事情を考慮して,更新の合理的期待は打ち消されたなどと判断され,結論として使用者の主張する雇止めが認められました。このような裁判例を踏まえれば,契約更新の際に更新上限を新設する際に,上記の改正内容にそって,その内容を明示するとともに,その理由をあらかじめ労働者に説明することは,上限にそった対応を安定的に行うことに資するものと言えます。

以 上