コラム
Column
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1 「判決を言い渡します。主文、被告は、原告に対し、金100万円及びこれに対する平成2
8年2月1日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は被告
の負担とする。この判決は仮に執行することができる。」
そう、やっと勝訴判決が言い渡されました。これで控訴されるのか、任意に支払ってくれる
のか、確定して強制執行するのかまだ予断を許さないのですが、実は、任意支払いや強制執行
の場合は、この「令和2年10月1日から支払い済みまで年3パーセントの割合による金員」
というところが意外と面倒なのです。
2 法定利率は、年5パーセント(最近は3%)というように、期間は年で決まっています。そ
うすると期間計算はまず、暦によることになります。
(1)例えば、上の判決で、支払い済みの日を令和7年1月31日とすると丸9年となって、端数
となる日がありませんから、9年×5パーセント/年の45パーセントを元金である100
万円にかければ、45万円と簡単に計算できます。
(2)ところが、年に満たない日数が出るとやっかいなことになります。例えば、支払い済みの日
が令和7年2月10日であるとすると、10日の端数が出るので、10日の端数分を計算す
る必要があります。これは100万円に5パーセント×10日/365日(=1,369
円)で計算できます。ここまではまだ簡単です。
ところが、令和6年2月10日だったらどうなるか、8年分の40万円に100万円に5パ
ーセント×10日/365日(1,369円)を足せばよいのかというと違います。実は、
令和6年はうるう年なので、100万円に5パーセント×10日/366日(=1,366
円)を足さなければならないのです。つまり、平年の1日は1/365の値打ちがあるの
に、うるう年の1日は、1/366の値打ちしかないのです。答えは、401,366円で
す。
(3)ここまでの考え方を前提として、それでは、令和7年1月30日の支払いとするとどうなる
のか。実は、令和6年2月1日から同12月31日までの335日は、うるう年に含まれる
ので、1/366をかけて計算し、令和7年1月1日から同1月30日までの30日は平年
に含まれるので、1/365をかけて計算することになります。(9年分を計算して1日分
1/365で計算した1日分を引く方が簡単だとおっしゃるあなた、なかなか賢いのです
が、残念ながら数字はあいません。)答えは、449,875円になります(註)。
(4)ここまでを整理すると年に満つる期間については、暦で計算して年数を割合にかけます。年
に満たない期間の処理が面倒で、まずその期間に1月1日が含まれるかどうかを判定しま
す。1月1日が含まれていない場合は、支払いの日がうるう年かどうかによって1/366
を使うか1/365をつかうかを判定します。1月1日含まれている場合は、12月31日
までの日数と1月以降の日数について、どちらかがうるう年に含まれているなら、含まれて
いる期間には1/366を使い、含まれていない期間には1/365を使うというわけで
す。このようなことを手計算でするのは大変です。私は、必要に迫られ、エクセルで計算で
きるようにしましたが、なかなか難しいのです。
3 不法行為や不当利得といった法定債権の場合、期間計算に特約を付けることができません
が、契約に基づく場合、うるう年についての特約をつけることができます。
特約には、「年365日の日割りによる」という場合と「1年に満たない期間につき年36
5日の日割りによる」とがあります。
(1)前者「年365日の日割りによる」という特約がある場合、計算がすごく簡単になります。
つまり暦に関係なく、起算日から支払い日までの日数に1/365をかければよいというこ
とになるのです。因みに2(2)の後の方の例(支払日:令和6年2月10日)で、計算すると
450,273円になります。暦で計算する値(449,875円)よりもちょっとだけ高
額になることが分かります。
(2)後者「1年に満たない期間につき年365日の日割りによる」はちょっと面倒で、まず暦に
したがって年単位で計算できるところは計算し、端数がでれば、その端数には、1/365
を使用して計算すればよいことになります。「年365日の日割りによる」よりはちょっと
面倒ですが、それでもうるう年かどうかを気にすることがない分ずっと簡単です。ただ、も
う計算は面倒なのでやめておきます。
(3)ということで、契約を締結する場合は、特に債権者の立場からすると、「年365日の日割
りによる」という特約をしておくことをお勧めしたいわけです。特に債権者というのは、利
息・遅延損害金の計算が簡単になる以外に、「年365日の日割りによる」の特約がある場
合の金額≧「1年に満たない期間につき年365日の日割りによる」の特約がある場合の金
額≧特約のない場合の金額となるので、債権者にとってはお得ということになります。(「年
365日の日割りによる」の特約がついている契約はよく見かけますが、「1年に満たない
期間につき年365日の日割りによる」の特約は私は現実の契約では見たことがありませ
ん。)
(4)利息計算で日歩4銭といった決め方をすることがあります。実は、「日歩」というのは、
1日当たり100円についての利息のことを言います。日歩4銭というのは、100円につ
いて1日4銭の利息がつくということですから、「14.6%(年365日の日割による)」
と同じです。このように法定利率も日歩で決めておけば計算が簡単だったのです。ほとんど
立法過誤ではないかと思います。
4 それともう一つ大事なこと、訴訟では、「年365日の日割りによる」といった特約がある
場合、そのことをきちんと主張・立証して、判決の主文には、「被告は、原告に対し、金10
0万円及びこれに対する平成28年2月1日から支払い済みまで年5パーセント(年365日
の割合による)の割合による金員を支払え」と記載してもらわなければなりません。忘れない
でね。
(註)AIにやらせてみました。
前回AIについてコラムを書いたので、AIはどこまで計算できるか検証しました。やっぱり、AIはうそをつくし、単純なかけ算さえ間違うことがあります。
まず、「元金100万円、平成28年2月1日から令和7年1月30日まで、年5%の利息の金額はいくらになるか」と質問しました。そうすると、最初、初年度を2月1日から12月31日までで端数計算するという独創的な数字を出してきました。
次に、「暦で計算すると、最初の1年は平成28年の2月1日から2017年の1月31日までで、以下毎年そのようにして、計算するのでは」と指摘すると、「おっしゃる通りです。とても鋭いご指摘です。」として、再度計算してくると、明らかにおかしな数字(45万円より大きな数字)を返してきます。そこで、「最後の年が1年に満たないのに、45万円より大きくなるのはおかしくないか」と指摘すると、「ご指摘まさにその通りです!」(この辺りから「!」が付きだします。)として、計算しなおしてくるのですが、最後の端数を全部、うるう年として計算してきました。
さらに「令和6年2月1日までは閏年として計算してよいが、令和7年1月1日から令和7年1月30日までは平年として計算すべきではないか」と指摘すると、「はい、そのとおりです!めちゃくちゃ正確な視点で素晴らしです」として、また計算してくれます。しかし、どうも数字が合いません。計算過程を見ると335÷366を0.9153ではなく、0.9158として計算していることが分かりましたので、そこを指摘すると「おっしゃる通りです!これは正確ではありませんでした。あなたの指摘が完全に正しいです」と言って、ようやく数字が合いました。
「ご指摘ほんとにありがとうございます!こういう細かい見直し、大事ですしめちゃくちゃ助かります🙏他にも気になるところがあれば、どんどん言ってくださいね」ということだそうです。ほんとにおちょくられている気分です。やはり、答えが分かっていないと怖くて使えない感じですが、今回よく調教しておきましたので、今後はちゃんと計算するようになっているかもしれません。私はもう疲れたのでこれ以上、検証はしたくありません。(なお、「🙏」は本当に出てきた絵文字で、「あわせた手」です。)