色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第56回 社内リニエンシー

2015/01/07

 平成18年1月施行の改正独占禁止法において導入された課徴金減免制度[1]ですが、最近ではよく知られておりますので、万一社内でカルテルや談合といった独占禁止法違反行為(以下、「独禁法違反行為」といいます)を発見した場合には課徴金減免申請を検討することにしているという会社も多いのではないでしょうか。課徴金減免制度導入時には、仲間を裏切るような制度は日本では利用されないとも言われていましたが、課徴金の減免というメリットのせいか、最近では積極的に利用されており、平成23年度の課徴金減免申請件数は平成19年度に比べると約2倍に増えています[2](ただし、平成24年度以降は減少傾向)。課徴金減免申請をしないことが取締役の善管注意義務違反になるのではないかとの議論もありますので、取締役にとっても関心の高い制度かと思います。

 

 課徴金減免申請を行う場合には、公正取引委員会(以下、「公取委」といいます)の調査開始前であれば、独禁法違反行為の対象となった商品又は役務及び独禁法違反行為の態様を記載した報告書(様式第1号)を提出して仮に順位を確保し、続いて提出する報告書(様式第2号)でこうした事実の詳細等を報告することになります。公取委の調査開始後の課徴金減免申請であれば、当初から報告書(様式第3号)に独禁法違反行為の対象となった商品又は役務及び独禁法違反行為の態様の詳細等を記載しなければなりません。課徴金減免申請は時間との戦いですので、独禁法違反行為を早期に発見し、迅速かつ正確な事実調査を行うことができるか否かが重要なポイントとなります。そこで考えられるのが社内リニエンシーの導入です。社内リニエンシーには様々な制度設計があり得ますが、ここでは一旦「社員が、自ら関与した独禁法違反行為を会社に自主申告した場合、懲戒処分が減免等される制度」と定義しておきます。独禁法違反行為を行った社員に懲戒処分の減免等のメリットを提示することで、自主申告を促進し、独禁法違反行為の早期発見を可能にする制度といえます。過去に独禁法違反で処分を受けた会社の中には社内リニエンシーを導入したと公表している会社がありますし、独禁法違反行為が発生した場合に備えて社内リニエンシーの導入を検討している会社もあるようです。

 

 もっとも、社内リニエンシーには上述したメリットがありますが、独禁法違反行為をしても社内リニエンシーを利用すればよいと誤った受け止め方をする社員がいると社内のモラルが低下するリスクもあります。そのため、社内リニエンシーを導入するのか、導入するとしてどのような制度とするのかは、自社の社風等に鑑み、こうしたメリット、デメリットをよく検討して決める必要があります。

 

 社内リニエンシーを導入すべきか否かという点については、社内で独禁法違反行為が発生した場合に、速やかに課徴金減免申請を行って課徴金の減免を受けるメリットが大変大きいですので、その端緒となり得る社内リニエンシーを導入する価値はあると思います。勿論、社内のモラル低下というデメリットも懸念されるところですが、懲戒処分が免除される場合を限定したり、免除になるか軽減になるか、どの程度軽減されるかが一律には決まらない制度にする等、制度設計を工夫すればモラル低下は一定程度防止できるのではないでしょうか。これに対し、自らの独禁法違反行為の報告というハードルの高い要求をする以上、社員に社内リニエンシーを利用させるには、社内リニエンシーで得られるメリットを明確化(例えば、独禁法違反行為を自主的に報告した社員に対しては一切の懲戒処分を免除する等)するべきであるとする見解もありますが、そこまで割り切って制度設計することに抵抗がある会社が多いように感じます。

 

 社内リニエンシーの導入を決定した場合に問題になるのが、社内リニエンシーの対象行為の画定です。社員のモラル低下を心配する立場からは、対象行為はなるべく限定すべきであって、課徴金減免制度のある独禁法違反行為に限定すべきとの意見もあるところですが、贈賄行為等の他の懲戒対象行為を行った社員との均衡や、景品表示法の改正[3]を考慮しますと、社内リニエンシーの対象を独禁法違反行為に限定するのは難しいと思います。なお、公取委が企業における独占禁止法コンプライアンスに関する取組の現状を調査し、その結果を公表している「企業における独占禁止法コンプライアンスに関する取組状況について」(平成24年度版)[4]では、社内リニエンシーとは「社員が独占禁止法違反行為に関与した場合において、当該社員が自主的に当該事実について所用の報告等を行った場合、最終的な懲戒内容の軽減について考慮する取扱い」と説明されていますが、これは当該調査の対象を独占禁止法コンプライアンスに関する取組としたためであって、社内リニエンシーの対象を独禁法違反行為に限定する趣旨ではないと思います。

 

 社内リニエンシーを常設の制度とするのか、緊急時における臨時の制度とするのか(例えば、独禁法違反行為を発見した場合に、事実調査への協力を得る目的で社内リニエンシーを一時的に制度化する等)という問題もあります。社内のモラル低下を心配すれば、常設の制度にはすべきではないということになりますし、独禁法違反行為を早期に発見するメリットを重視すれば常設の制度にすべきということになりそうです。これは、社風や独禁法違反行為が発生する可能性に応じて各社が決める問題なのでしょうが、独禁法違反行為がいつ起こるかは分かりませんし、万一独禁法違反行為が発生した場合に、早期に発見して対処することが重要ですので、常設の制度とすることに相応のメリットがあると思います。ただし、過去に独禁法違反行為があり、現在再発防止に努めているという場合には、常設の社内リニエンシーを導入すると、かえって再発防止の緊張感を欠くことにもなりかねませんので、注意が必要です。

 

 このように見てきますと、独禁法違反行為の自主申告を促し、他方で社内のモラル低下も防ぐという観点からは、「刑法や独占禁止法、景品表示法その他の法令違反行為を行った社員に対しては厳罰で臨むものの、自主的に当該行為を報告した社員に対しては、自主的な報告がなされた事やその後の調査協力を情状の一要素として考慮する」というような柔軟な社内リニエンシー制度にすると使い勝手が良いように思います。上述した公取委の「企業における独占禁止法コンプライアンスに関する取組状況について」(平成24年度版)では、「貴社の社員が独占禁止法違反に関与した場合において、当該社員が自主的に当該事実について報告等を行った場合、最終的な懲戒内容の軽減について考慮することとしていますか」との質問に対し、回答者の約86%が考慮する方向で回答しているものの、そのうち社内リニエンシーを社員に周知している会社は約20%に止まっています。この結果を見ますと、会社は明示的に社内リニエンシーを導入することに抵抗があるのが現実のようですが、上述したような社内リニエンシーであれば、これまでも同様の運用をしてきた会社が多いと思いますので、上記の限りで社内規程の形で明文化しても社内の抵抗は少ないのではないでしょうか。

 


[1] 事業者が、自ら関与したカルテル・談合について、公正取引委員会に対し、その違反事実を報告し、それを裏付ける資料を提出した場合に、その報告順位等に応じて課徴金が免除又は軽減される制度。

[2] 公正取引委員会 平成25年度における独占禁止法違反事件の処理状況について(http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h26/may/140528.html)

[3] 優良誤認表示及び有利誤認表示を対象とした課徴金納付命令が新設され、あわせて当該違反行為を自主申告した事業者に対し、課徴金額の2分の1を減額する自主申告制度も導入されます。(http://www.caa.go.jp/representation/index7.html)

[4] http://www.jftc.go.jp/dk/konpura.files/12112801honbun_2.pdf

執筆者:嶋野 修司

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