色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第57回 判決と和解と強制執行

2015/01/16

1 訴訟提起がなされた場合の主な解決手段としては,判決と和解があります。一般的には,和解による解決には,以下のようなメリットがあるとされています。

 ①判決よりも早期の解決が可能であり,時間・費用が節約できる。

 裁判は三審制ですので,あくまで判決による解決を求めることになると,優に1年以上の期間を要しますし,その都度,手数料や弁護士費用等が生じます。

 ②柔軟な解決が可能となる。

 判決は,請求を認容又は棄却するという一刀両断的な解決方法ですが,和解では,当事者双方の言い分を汲み取った解決が可能となります。

 ③任意の履行が期待できる。

 和解は,当事者双方の合意を前提としていますが,判決は,そうではないので,満足を得るために強制執行をしなければならない可能性が高まります。

 ところで,私は最近,不動産の明渡しの強制執行に携わる機会を得ました。前段階として訴訟を提起しましたが,被告が頑なに明渡しを拒否したため,判決を得ることとなり,結局任意の履行はなされませんでした。そこで,強制執行の申立をしましたが,依頼者・弁護士共に負担が大きく,改めて和解による解決のメリットを実感することとなりました。その際の印象がとても強かったことから,この度,本コラムで取り上げようと考えた次第です。以下,当該具体的ケースを離れて,一般論としての手続きの概略について,皆様に紹介致します。

 

2 一口に強制執行といっても多岐にわたりますが,本コラムでは,建物収去土地明渡請求訴訟(要するに,土地の上に建物を建てて居座っている者に対して,建物を取り壊したうえで,土地の明渡しを求める訴訟をいいます)において判決を得たことを前提として,その後に実施する強制執行について説明します。このような判決が出された場合,被告は,自分の費用で建物を取り壊して土地を更地にし,原告に返却しなければなりませんが,被告が任意に履行しない以上は,原告側においてその強制執行を裁判所に申し立てる必要があるのです。便宜上,建物収去土地明渡を求める者を原告,それを受ける者を被告と統一します。

 ①事件記録の存する裁判所の書記官から,判決正本に執行文(強制執行ができるという証明書)の付与を受ける。

 ②執行裁判所から,建物収去命令・代替執行費用前払決定を得る。

 判決は,被告に建物収去土地明渡を義務付けるだけであって,原告にそれらを実施する権原を与えたものではありません。そこで,裁判所から建物収去命令(授権決定)を得る必要があります。

 また,建物収去の代替執行費用を前払いするよう被告に命ずる代替執行費用前払決定を得ることも必要となります。もっとも,現実には,費用の前払いを受けることは期待できず,業者に支払う必要のある高額の解体費用(規模にもよりますが,通常は100万円単位の金額となります)を原告が負担することになるでしょう。

 ③裁判所の執行官に強制執行の申立を行う。

 執行に先立って,執行予納金を納付する必要があります。

 ④被告に対して催告を行う。

 申立を受けて執行官は現地に赴き,土地の使用状況を確認して,期限を定めて,建物を収去し土地を明渡すよう催告します。

 催告と同時に,催告の内容,引渡期限,占有移転の禁止等記載された公示書を掲示します。

 催告の際には,被告が不在であることも多いのですが,この公示書の掲示でもって催告を行うことになります。

 ⑤断行を行う。

 期限までに被告が応じない場合,建物収去土地明渡の断行を行います。執行官は,原告が依頼した業者に指示をして建物を解体させます。

 強制執行の対象外である動産(以下,目的外動産といいます)が建物内に残置されていることが多いですが,その場合は,それらの動産を処分する必要があります。目的外動産が有価値であれば,未払賃料等がある場合,別途動産執行の申立を行い,売却代金から配当を受けることもあり得るでしょうが,無価値であればそうはいかないため(ほぼゴミに近い物が残置されていることもよくあります),その処分にまた費用が発生します。

 最終的には,建物を収去し,目的外動産を取り除いて土地を更地にしたうえで,やっと原告が占有を取得することとなります。

 なお,以上はあくまでスムーズに手続きが進行した場合の話です。時に被告は,様々な方法を使って執行の妨害を企てますので,一筋縄ではいかないこともままあります。

 

3 このように,強制執行を実施することによる時間的・金銭的な負担は大きく,100%の満足を得ることができなくとも,和解により,早期にかつコストを抑えた解決を目指すことは望ましいといえます。

 もっとも,相手方がまったく譲歩しない場合や双方の希望の開きが大きい場合のように,そもそも和解をなし得ないこともあります。また,経済合理性は関係なく,心情的にどうしても和解に応じることができない場合など,判決を求めること自体に意味がある場合もありますし,そのような場合に無理をしてまで和解する必要はありません。

 そうすると,判決によるべきか和解によるべきかは,結局のところケースバイケースということになりますが,感情的になって選択するのではなく,以上のようなメリット・デメリットを十分に理解したうえで,慎重に判断することが重要になります。当事者は,自分自身の大切な権利が問題になっていますから,とにかくヒートアップしてしまう傾向にありますが,こういう時だからこそ視野を広く持ち冷静になる必要があるでしょう。

執筆者:加古 洋輔

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