色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第53回 個人保証の見直しと経営者保証ガイドライン

2014/11/07

(保証人の責任とは)

 保証は、他人(以下主たる債務者といいます)が金融機関などの債権者から融資を受け、その結果貸付金返還債務を負う場合に、主たる債務者が支払えない場合に代わって債務を支払う義務を引き受けるものです。

 保証人が個人の場合には、保証した主たる債務者の債務の金額が増加し続け、しかもそのような増加の事実を知らせられないままに、主たる債務者が返済できなくなり、債権者から請求をされた段階で保証時には予想もしていなかった額の請求を受けることがあります。個人の保証人が返済できる資力には自ずと限界がありますので、このような場合には、これまで事案に応じて過酷な支払の負担から保証人を解放するような解決が判例などによりなされてきました。

 

(最近ではどのような対策が取られたか・・・法律の改正)

 これに関連して、保証についての見直しは、民法の改正により平成17年4月以降包括根保証の廃止(456条の2以下5まで)、書面によらない保証契約は無効である(446条2項)、極度額の定めがない根保証は無効である(465条の3第1項)、期限の定めがないものは3年とみなす(465条の3第2項)、期限についても5年を上限とする(465条の3第1項)などの改正がされました。

 

(行政による解決方策)

 このような法改正と並行して、平成18年3月末に中小企業庁では政府系金融機関では第三者による保証は行わないこととされ、信用保証協会の保証についても一部の例外(自発的なもの)を除いて、第三者保証はやめるという方針が打ち出されました。さらに、平成23年7月には金融庁から民間金融機関においても第三者保証はやめるというように監督方針が出されました。これに対して主たる債務者が中小企業の場合に経営者が保証人となっている「経営者保証」については金融機関も経営者も以下のように一定の場合にはその必要があると認識されてきていました。

 

(経営者保証ガイドラインの登場)

 このような動きのなかで、中小企業の経営者においては、事業資金のために融資を受ける場合に、保証を求められるケースが多いのが実情とされてきました。

 ただし、事業がうまくいかなかった場合には、当該事業について民事再生あるいは破産手続きという裁判所における法的倒産処理手続がとられた場合には、これまでは保証人についても自己破産あるいは個人再生手続きによる整理がなされることが多かったといえます。ことに破産手続きによれば、自由財産として99万円を超えて財産を経営者である保証人に残すことができませんでした。このような対応では、窮境に陥った場合に経営者に早期の事業再生あるいは事業の整理の着手を期待しても、現実には困難で、いわば事業が「危篤状態」になってはじめて法的手続きを取ることが多かったといえましょう。

 早期の事業再生あるいは整理に着手すれば経済の活性化につながります。そこでこのように早期事業再生等に取り組めば、その見返りとして保証人に自由財産をこえる一定期間の生計費(1月33万円として年齢に応じて3ヶ月から11ヶ月までが目安)と場合によっては「華美ではない自宅」の保有を認めることとし早期事業再生等を促す目的で平成25年12月に「経営者保証のガイドライン」が研究会報告として公表され、平成26年2月1日から利用されています。さらにこのガイドラインに即して具体的な実務を行う上でのポイントQ&Aとして取りまとめられていますので、ガイドラインを理解する上で参考になります(なお10月1日にQ&Aについて、規定の意味をより明確にするために一部の改定がされました。その内容はたとえば全銀協のホームページなどから入手することができます)。このガイドラインには法的拘束力がないとされますが、金融機関を監督する金融庁の監督指針が公表されており、金融機関、事業者など関係者はこれを尊重して取り組むこととなります。したがって事実上の指針として重要な役割を果たすものといえます。

 このガイドラインの導入の背景には、過度に保証に依存せずに経営者の事業収益による返済を正面から正しく評価して事業資金を融資するという方向に融資の考え方を転換しようというものといえましょう。事業者には、法人と経営者の関係を明確にし、財務基盤を強化し、適時適切に経営の情報を金融機関に開示することが求められます。

① 契約時の対応とその後の見直し

 すなわち、金融機関として目指すべきは融資時において「保証に依存しない(頼らない)融資」であり、少なくとも物的担保で十分なものについては、さらに人的担保としての保証をとらないということです。また保証を取る場合であってもその必要性を説明し適切な保証金額の設定をすることになります。そして、融資後返済完了までにも、保証が必要なくなればこれを見直し、解放することもありうることになります。たとえば事業承継がなされる機会には、従前の経営者の保証を解除し、新経営者について保証が必要かどうかを見直す好機といえましょう。

 そのためには、金融機関には中小企業との対話を通じた信頼関係の醸成・維持に向けた努力が必要でしょう。そして中小企業において、透明性の高い経営をしているところには保証を取らずに融資するという姿勢あるいは努力が必要ではないでしょうか。

② 整理手法

 また、整理の手法としては、これまでのように法的倒産手続き(典型的には破産手続き)によらずに、合理的な「保証債務の整理」という私的整理制度を構築しようとする発想があると言われています。保証債務の整理手続としては主債務の整理と一体として行う場合(一体型)と保証債務のみの整理を行う場合があります。

 

(実際にガイドラインは利用されているか)

 現在まで適用から8ヶ月が経過した段階ですので、それ程多くの利用例があるわけでもないようですが、なかには事業再生ADRにおいて経営者保証ガイドラインを利用し保証人の社長が自宅を残す債務整理案が成立した事例(金融法務事情1993号6頁以下)や法人については和解型の特別清算を行い、経営者保証についてはガイドラインを利用しつつ特定調停により保証債務を整理した事例(NBL1030号4頁以下)などが紹介されています。

 今後ともこの制度を普及し促進することがのぞまれるところです。

 

(今後の立法について)

 民法(債権法)の改正が予定されていますが、本年9月8日に「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案が公表されました(http//www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html)。

 ここで保証債務に関する改正点の詳細は触れることができませんが、根保証に関するもののほか、保証人保護の方策の拡充として以下の項目があげられております。上記のとおり経営者保証ガイドラインと同じ視点による個人保証の保護がはかられているといえそうです。

① 個人保証の制限 

② 契約締結時の情報提供義務 

③ 保証人の請求による主たる債務者による主たる債務者の履行状況に関する情報提供義務 

④ 主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務

 今後の法改正の進行に眼が離せません。

執筆者:森 恵一

ページの先頭へ