色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第49回 レリゴー

2014/10/14

 大ヒットしたディズニー映画「アナと雪の女王」。その主題歌”Let It Go”(注1)は、なかなか良い歌です。(私のように)自分がちょっとばかし変わっているのではないかと思っている者を非常に勇気づけてくれます。クレジット・ロールでデミ・ロヴァートやMay J.(日本人の方だけアルファベットで記載するのもちょっと奇妙ですが)の歌う本編の挿入歌とちょっと違う歌詞とアレンジのこの曲を聴きながら映画の余韻に浸るのもまた一興です。本編が終わるとクレジット・ロールを見ないで席を立つ人もいますが、最近の映画では、(本作もそうですが、)クレジット・ロールの後におまけもあるので、最後まで見ましょう。折角見ているのに目の前を歩かれると大迷惑です。

 

 ところで本作のクレジット・ロールには次のような件があります。

“The views and opinions by ××× in the film that all men eat their boogers are solely his own and do not necessarily reflect the views or opinions of The Walt Disney Company or the filmmakers. Neither The Walt Disney Company nor the filmmakers make any representation of the accuracy of any such views and opinions.”(注2)なお「×××」は作中の登場人物の名前が入ります。ご覧になっていない方もいらっしゃるかもしれないので、ネタばれにならないように伏せ字にしておきます。

 まあ確かに×××の発言は問題発言ではありますから、これは、俺は男だがそんなことはしないぞといったクレームを避けたいウォルト・ディズニー・カンパニーと映画制作者の置いたディスクレーマー(disclaimer)です(注3)。

 

 契約条項のディスクレーマーは免責条項です。商品や役務の提供者は、契約書に、責任を負わないために、これでもかと免責事項を置いてきます。例えば、瑕疵担保責任は一切負わないとか、損害賠償の限度額は契約額に限定されるとか、このような場合に責任は負わないとか、このような場合しか責任を負わないとか、一切責任は負わないとかの条項です。某メーカー相手の契約交渉で、そのメーカー側があんまり免責条項に拘るので、私は、あんたらメーカーとしての矜持は無いかと言ってしまったことがあります。しかし、日本民法では債務不履行や不法行為に基づく損害賠償の範囲がかなり広範であり、賠償すべき損害額が高額になりかねない面もあり、他方で自らコントロールできない事象によって法的責任を負うことは避けたいという気持ちがあろうことも理解できなくはありません(注4)。

 

 商品等の説明書の中のディスクレーマーは注意書きです。取扱説明書の中にきちっと誤った使い方をしないように注意書を入れておかないとおかしな使い方をして損害を被った利用者から損害の賠償を請求されかねません。注意しましょう。猫チン事件をご存じでしょうか。アメリカで老婦人が電子レンジをプレゼントされた、老婦人が、雨の日に外に出てずぶ濡れになった飼い猫を乾かそうと電子レンジに入れてチンしたら、猫は死んでしまった、老婦人は、電子レンジのメーカーを相手に、猫が死んでしまったのは電子レンジの説明書に「猫を入れないでください」という注意書きがなかったからだと訴訟を起こしたところ多額の賠償を得た、とこのような内容です。昔、日本で製造物責任法の制定が検討されていたころ、アメリカのような訴訟社会(注5)になって良いのかというネガティブキャンペーンでこの話が人口に膾炙したことがありました。さすがに、これは所謂都市伝説というべきもので、実際にはこのような訴訟は無かったそうです。電子レンジの取扱説明書にも料理にだけ使用しろとか、たまごをそのまま入れるなといった注意書きはありますが、猫を乾かすなというのは(少なくとも私は見たことが)ありません。

 

 私個人的には、形式的に、責任を免れるために何でもかんでもディスクレーマーを書いて置こうとか逆にディスクレーマーさえあれば責任を免れるといった風潮には疑問を感じています。もっとも世間の目というものがだんだんと厳しくなってきているので、やむをえない面もあるのかもしれません(注6)。でも大切なのは「真実の愛」(注7)だとは思いませんか。

 


                                                                       

(注1)

 日本語の歌の題名は「ありのままで」です。”Let It Go”はそんなことどうでも良い、ほっとけといったちょっと捨て鉢な雰囲気を伴いますが、「ありのままで」はもっと積極的な感じがしてニュアンスの違いを感じます。「レリゴー♪レリゴー♪」を「ありのー♪ままのー♪」と訳したのは英語に合わせて動くアニメの口の形が吹き替え版で違和感のないようにした結果だとも言われています。

(注2)

 そんなに難しくない英語なので、敢えて訳しません。”boogers”だけは学校では多分習わない単語ですが、キーワードなので知らないと意味が分からないかもしれません。知らない人は辞書を引いてください。ついでにこの件を確認するために3回も映画館に足を運んだ私を褒めてください。

(注3)

 老婆心ながら申し上げておきますと、実際のところ、これは多分ウォルト・ディズニー・カンパニーや映画制作者のジョークであって「クレームを避けたい」というのは本心ではないと思います。そう言えば、この前、ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーという映画を見ていると、クレジット・ロールでアライグマは傷つけていませんというディスクレーマーがあって「この映画でそんなことを言う?」と笑ってしまいました。

(注4)

 結局契約は当事者の力関係で決まってしまいます。しかし、消費者相手の契約であまりに企業が責任を負わないことにするとそのような条項は無効とされてしまいますので気をつけてください(消費者契約法8条、同法10条)。事業者間の契約であっても完全免責は無効であるという法制もあるようですし、何事もやりすぎはいけません。

(注5)

 ディスクレーマーとはあまり関係ありませんが、訴訟社会ということで猫チン事件と同じく引き合いに出されるのが、マクドナルド・コーヒー事件です。これまた老婦人(ステラさんといいます。)がマクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買い、膝に挟んでミルクと砂糖を入れようとしたところ、こぼれて火傷しました。マクドナルドに対し、火傷の原因が熱すぎるコーヒーにあるとして損害賠償請求訴訟を起こしたところ、多額(約3億円)の損害賠償が認められたという事件です。この事件は本当にあったようです。しかし、最終的にはもっと少ない金額で和解しているし、かなりひどい火傷で治療費やリハビリにかなり時間がかかったという事情があったり、マクドナルドが同種の事件がいくつも起きているのに対策をしてこなかったといった事情があったりしてそんなにおかしな訴訟ではなかったとも言われています(平成12年5月30日第20回司法制度改革審議会議事録参照(http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/dai20/20gijiroku.html))。

(注6)

 私は、世の中がだんだん悪くなっているという見方には反対です。少なくとも私の若かったころに比べて世の中は格段に良くなっています。しかし、世の中が廉潔になった分ちょっと息苦しくなってきた面はあると思います。金運財布で、実際に金運が上昇するかのような表示行ったのが景表法違反だとか(公正取引委員会平成15年12月5日平成15年(排)第22号排除命令)、夜店のくじ引きに当たりがないのは詐欺だとか(大阪で逮捕されたとの新聞記事がありました。)いうのを聞くと誰もそんなこと信じてないんじゃないのと思うのは私だけでしょうか。

(注7)

 “An act of true love”

執筆者:三浦 彰夫

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