コラム

Column

第48回 民法(債権関係)要綱仮案

1 去る9月8日、民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案が公表されました。[1]

平成21年(2009年)10月、民主党政権下で千葉景子法務大臣が法制審に諮問してから早や5年。いよいよ新しい民法(債権関係)が法文に近いカタチで示され、改正が現実化してきた感があります。

 

2 現行民法は、明治29年(1896年)4月に公布され[2]、同31年(1898年)7月に施行されました。今からおよそ120年前、司馬遼太郎が描いた「坂の上の雲」の時代のことです。なお、公布の年は直後の6月に巨大津波が三陸地方を襲い(いわゆる明治三陸大津波)、約2万7000人もの犠牲者が出たまさに激震の年だったようです。

その後今日まで約120年間、戦後の親族編・相続編改正や現代語化など部分的な改正はありましたが、現行民法の土台は、まだ人が牛馬とともに宿泊していた当時[3]つくられたもののままです。

「なぜ壊れてもいないものを直す必要があるのか?」という根強い反対論もありますが、法律を利用者である国民一般に身近なものにし、グローバル競争時代に日本のプレゼンスを高めるという観点から、社会・経済状況の変化に対応し土台から見直そうというもので、時代の流れに沿ったものだと思います。

 

3 言うまでもなく、民法は、我々の市民生活を規律する最も基本的な法典ですから、国民一般に理解できるものでなければなりませんが、とりわけ我々弁護士にとっては、医師の聴診器・大工の鉋のように(?)職務上自由自在に使いこなせなければならない基本ツールです。

民事再生法ができ、会社法ができ、リーニエンシーや裁判員裁判が制度化され、今後、司法取引も導入され、そして遂に民法まで変わる・・・。既存の法制度が大きく変革される中、民法まで変わるならもう引退する、と冗談をいう弁護士もいますが、正直、自分が弁護士をやっている間にこんなに法律が変わるとは想像していませんでした。

基本ツールが大きく変わることは、文字どおり「大変」ですが、半面、インターネットのおかげで法情報へのアクセスが容易になり、調べたいことは簡単に手がかりが得られる便利な時代になりました。思考(その前提となる情報収集)のツールが増えたともいえます[4]。要綱仮案やそれに先立つ中間試案等も法務省のHPに掲載され、学者や実務家、各界有識者らがどんな議論をされてきたのか、その気になれば容易に確認することができます。それらを紐解くことは、古い知識や「勘と経験」に頼ってサボりがちな左脳を刺激し、活性化させてくれます(老化防止にもなり、一石二鳥です。)。

 

4 さて、民法改正については日々その動きをウォッチされている方もおられると思いますが、「なにがどう変わるのか?」「当社の契約書はそのままでいいのか?」「要するに、なにを、どうしたらいいのか?」等、様々な疑問や不安をお持ちの方も多いと思います。実際、今回の改正は、従来の判例法理や解釈を明文化するものだとされながら、個人保証や債権譲渡等、従来の規律を大きく変更する部分も少なくありません。

そこで、当事務所でもチームを立ち上げ、連続セミナー(勉強会)を実施すべく準備を進めています。裁判実務や弁護士が日常的に与っている法律相談やトラブル事例等を踏まえ、実務上留意しておくべきポイントを整理・抽出し、できれば皆さんとの意見交換も通じて共に実務の指針を探っていきたい、と考えています。

シリーズ第1弾として、

(1)裁判所からみた契約・契約書の留意点

(2)要綱仮案の留意点

① B to B取引

② B to C取引

を骨子としたセミナー(勉強会)を11月下旬に開催する予定です。

その成果は適宜、このコラム欄で紹介させていただきたいと思います。どうぞ引き続き、気軽にお立ち寄りください。

 


[2] 公布の段階では、親族編・相続編は除かれていました。

[3] 改正前第317条では「牛馬ノ宿泊料」に関する先取特権を定めていました。

[4]「吾れ嘗て終日にして思えども須臾の学ぶ所に如かざるなり」(荀子)