コラム

Column

第46回 団体交渉への弁護士の出席について

1.団体交渉では、通常、会社側は労務担当の役職員が、労働組合側は組合役員が出席して行われますが、会社から弁護士に同席してもらえないかとの要望を受けることがたまにあります。

どのようなケースかというと、当該の労働組合が企業内の多数組合ではなく、トラブルを抱えた労働者がかけ込み加入した、いわゆる合同労組である場合が多く、なぜ弁護士に出席してほしいのかと尋ねると、「法的知識や交渉力で負けるのではないかと不安だ」という答えがかえってきます。

私の事務所では、特に取り決めがあるわけではありませんが、私自身はお断りしてきました。その理由として、次のように説明しています。

(1)労働者の労働条件に関して、労働者(あるいは労働組合)に説明し、説得するのは経営者の基本的な役割であり、それを代理人に頼るという姿勢は賛成できない。

(2)後日、当該事案が訴訟等の法的紛争となり、団体交渉の場での会社側の応答が問題となったとき、出席した弁護士は証人となる可能性があるから、当該紛争の訴訟代理人を兼ねることは事実上難しいこととなる。

(3)法的な解釈が問題となるのであれば、事前に相談しておけばすむ話だし、その場で答えられないのであれば、即答せず席を改めればよい。

(4)威圧的な言動が心配だというのであれば、そのような言動はやめるよう注意し、やめなければ交渉を打ち切ればよい。

以上のような説明で概ね、「判りました」という返事はいただいていますが、何となく不満が残っているような雰囲気を感じることがあります。

 

2.私が経験した裁判事案で、私が関係する前に会社の顧問弁護士であった人が労働組合との団体交渉に出て、発言された内容のメモや交付された書面が不利な証拠として提出されたことがあります。このため、その弁護士に事情聴取し、その結果次第では証人として出廷を求める必要があるかを検討しましたが、そのプラス・マイナスの評価は難しく、結局事情聴取は断念しました(幸い、その証拠とは無関係なところで訴訟の決着はみました)。このように弁護士の出席が会社側に不利な状況を作るというのは特異な例だとは思いますが、それにしても、弁護士が団体交渉に出席することには慎重でなければならないということを示す一例といってよいでしょう。

 

3.最近、親しい使用者側弁護士の話を聞くと、若い弁護士の中には団体交渉に参加することを積極的に引き受ける人もいるようです。弁護士の数は近年加速度的に増えており、弁護士業務の拡大が求められていることから、そういった事例が増えていっているのではないかとも推測されます。

企業社会において弁護士の活躍の場を拡げることは必要かつ有益なことと考えますので、そのような方向をあながち否定するつもりはありません。しかしながら、そのときには会社と弁護士の双方が上記のようなリスク、マイナスを十分承知の上、これに備えた役割分担の明確化と慎重な言動に努めることが肝要で、安易に依頼し、安易に引き受けることは好ましいものとは思えません。