コラム

Column

第44回 キルギス経済団体強化研修と法整備支援

1 先日、官から民への移行を目指すキルギス政府・経済団体の方々が「自主規制団体」の1つとして大阪弁護士会を歴訪され、「弁護士会と弁護士自治(団体自治・構成員自治)」をテーマにお話をさせていただく機会がありました。以下に雑感をご報告します。

 

2 この話があったとき、最初に私の頭に浮かんだ言葉は、「キルギスって何処?」でした。

キルギス(旧キルギスタン)は、モンゴルの南西部の新疆ウイグル自治区(中国)のさらに西隣、世界史に出てきた「匈奴」(「李陵」(中島敦)を連想します。)があった辺りに位置する中央アジアの小国です。面積は日本の半分程度、人口は約540万人、現在の公用語はロシア語です。イスラム教徒が多いようで、歴訪時はまさにラマダンの真っ最中でした。

来日された方々は、ロシア風(スラブ系)の方もおられましたが、全体的にはどことなく中央アジア系の顔立ちで、体格は日本人に似た感じでした。ただ、放牧した羊肉を主食としているせいか(牛舎にいるようなヤワなお肉は口にあわないそうです。)、しっかりとした体躯です。ネットでみると、「キルギス人と日本人は、昔、きょうだいだった。肉が好きな者はキルギス人となり、魚が好きな者は日本人となった。」という伝説(?)もありました。

来日された皆さんは、知識欲がいたって旺盛、かつ数字好きで、当日は、講義後も1時間にわたって絶え間なく質問が続き、活発な意見交換の場となりました。その中で私が一番印象に残ったのは、「何人も」(誰でも)懲戒請求ができるという我が国の弁護士制度について、「それは強いシステムだ」とする発言でした。

 

3 ところで、キルギスに関しては、ラジオで「キルギスの誘拐結婚」という話も耳にしました。キルギスでは今でも誘拐婚が実際にあるというのです(もちろん普通の恋愛結婚もあります。)。誘拐された女性は、最初、激しく抵抗しますが、男性側の身内の女性から、「自分たちもそうやって結婚した」「彼はいい男だ」などと説得され、また、数日間、祝宴や説得が続くと、世間の目もあり次第に諦めるケースが多い、しかし中には自殺する女性もいる、ということです。

 

4 キルギス政府はこのような風習を禁止していますが、地域独自の長年の風習は一朝一夕に変わるものではないようです。

世界は広く、私たちの常識では考えられないような慣習や風習、風俗があちこちに残っています(といっても、日本もちょっと前までは、髷を結って帯刀したり、お歯黒をしたりしていたのですが。)。それを、いいとか悪いとか、自分たちの価値観を一方的に押し付けることはできませんが、個人の意思を完全に無視した誘拐婚となると、(結果的に安定した結婚生活を送る人がいるにしても)やはり善良な風俗・風習とはいえません。

そのような国や地域においても、情報化・グローバル化が進む中で、異なる文化や考え方に触れ、人々の意識も次第に変わっていくのでしょうが、それを積極的に後押ししていこうというのが「法整備支援」です。

地域独自の文化や慣習を尊重しつつ、対話を通じて真に人々の意思を反映したルールを作り、自由で公正な社会の実現のお手伝いをしようとする法整備支援活動は、わが国では、JICAが中心になって取り組んでおり、近年は、名古屋大学がアジア地域の支援に積極的です。私も以前、その一環でベトナムに行かせていただきましたが、現地の人と直に接し、草の根レベルで交流することで、人々に日本の法制度を知ってもらうことができる一方、その土地の人びとの言葉や生活、風習、文化に触れることができ、また日本のよさをあらためて認識する得難い機会となりました。

 

5 3年前には、東日本大震災という未曽有の苦難に直面しながら秩序と規律を保った日本人の国民性が、また、最近では、FIFAワールドカップでゴミを持ち帰る日本人サポーターの姿が、世界の人々の賞賛や共感を集めましたが、このような民間レベルにおける静かで地道な活動を通じて、日本という国が国際社会の中でさらに名誉ある地位を占めることができれば…などと、今回の研修を機に、柄にもなく考えた次第です。