コラム

Column

第41回 比較広告

「勝ったのは,ペプシNEX ZERO。」

「Q:おいしいコーラはどっち?」というアンケートに対し,

pepsi NEX ZEROは61%,コカ・コーラゼロは39%という結果でした。

http://www.pepsi.co.jp/hikaku/index.html

私はこの記事を確か電車の中吊り広告ではじめて見たのですが,私のように何でも美味しいと思える味覚の持ち主であれば,いずれのコーラも甲乙つけがたい結果になるように思いましたので,500名の方からアンケートをとって,分からないという回答が一切ないのがとても印象的でした。回答が二者択一であるからと言われるとそれまでなのですが,私であればとても選べそうにありません。

ひねくれ者の私の些細な疑問はさておき,多くの方は,この広告を見た際に,特定の企業名を摘示した過激な広告を作って法的に問題はないのか,と疑問に思ったのではないでしょうか。

 

 本件のように,他社商品と比較して自社商品の優位性を表示するような広告を「比較広告」といいます。公正取引委員会が昭和62年4月21日に策定した「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(以下「ガイドライン」といいます。)では,「自己の供給する商品又は役務(以下「商品等」という。)について,これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合を含む。),商品等の内容又は取引条件に関して,客観的に測定又は評価することによって比較する広告」と定義づけされています。

 比較広告は,海外では昔から広く行われ,許容されてきました。しかも,日本におけるそれよりも表現が過激です。1例をとりあげるならば,これもペプシコーラとコカ・コーラですが(ちなみに両社はこれら以外にも過激な比較広告でお互いを攻撃し合っています。),MCハマーという有名なミュージシャンに,コカ・コーラを飲ませると途端に元気がなくなり,ペプシコーラを飲ませるとまた元気になるという内容です。

これに対して日本では,他社の製品等の欠点を指摘したり,他社と自社の製品を比較して自社の優位性を強調することをためらうといういかにも日本的な風潮からか抵抗が強く,海外と比べて比較広告を行うことに消極的でした。1987年には公正取引委員会が,消費者への情報提供,競争促進の観点からガイドラインを公表して,日本においても比較広告を行いやすいように環境の整備がなされましたが,それでも,ストレートな表現は避けて,あまり角が立たないよう配慮する傾向は変わらないと思います。典型例では,携帯電話会社が他社と通信速度等の比較を行う場合に,他社をA社,B社等と表示し,他社の名称を出さないことが挙げられます(もっとも,国内の携帯電話事業者は極めて限定されているため,容易に想像がつくのですが。)。

 

ガイドラインでは,比較広告が許容されるためには,以下の3つの要件をすべて満たす必要があるとされています。

①比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること

②実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること

③比較の方法が公正であること

これは景品表示法4条が禁止する不当表示とならないための要件ではありますが,他の法令違反を検討する際にも参考になると考えられます。

 景品表示法4条以外の比較広告に対して規制を行う法律としては,不正競争防止法2条1項1号・2号・13号・14号,商標法2条3項,著作権法2条1項1号・2項,民法709条,刑法230条,231条等が挙げられます。

 これらのうち,最近の裁判例で,不正競争防止法2条1項13号(品質等誤認表示)・14号(虚偽事実の陳述流布)に該当するとして,差止めや損害賠償請求を認容した事案がありますので,下記で紹介します。

 1つ目が,知財高判平成18年10月18日(NBL845号4頁)です。これは,グリコが「ポスカム」という商品を販売するにあたって,ロッテの「キシリトール+2」を比較対象として「ポスカム〈クリアドライ〉は,一般的なキシリトールガムに比べ約5倍の再石灰化効果を実現」との広告を掲載した点につき,ロッテがグリコに対して当該比較広告使用の差止めと損害賠償等を求めた事案です。

裁判所は,グリコが広告の根拠とした実験に用いられた画像を,ロッテが解析した結果,実験結果と大きな相違が生じたにもかかわらず,グリコが再現実験を行わなかったため,必要な立証を自ら放棄したものと同視すべきとして,不正競争防止法2条1項13号・14号に該当するとして差止めが認められました。もっとも,損害賠償請求については,過失を直ちに認めることができないとして棄却されました。

比較広告の根拠について,科学的データの検証により厳格に判断したものであり,比較広告を行おうとする者にとっては厳しい判決であったのではないかと思います。

 

2つ目が,東京地判平成20年12月26日(判タ1293号254頁)です。これは,オールライフサービスらが烏龍茶のティーバッグの商品を製造・販売するにあたって,「烏龍茶ポリフェノール含有量2070mg 約70倍 サントリーなんかまだうすい!」等の広告を掲載した点につき,サントリーがオールライフサービスらに対して当該商品の製造・販売の差止めと損害賠償等を求めた事案です。

 裁判所は,一般需要者が通常認識するはずの方法によって作られたオールライフサービスらの商品350mlに含有されるポリフェノール量とサントリーの商品350mlに含有されるポリフェノール量とを比較した場合,後者の方がより多くポリフェノールを含有することが判明したのであり,そうすると広告の内容は,客観的真実に反する虚偽の事実であり,かつ,一般需要者に対してサントリーの社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められるとして,不正競争防止法2条1項14号,4条等に基づき損害賠償請求を認めました。差止請求に関しては,すでに商品の製造・販売が停止されていること等をふまえて棄却されました。

 比較の根拠となる検査方法がどのようなものであってもよいわけではなく,一般需要者が通常認識するはずの方法であることが必要であると判断したのです。

 では本件についてはどうでしょうか。上記ペプシのHP上では,調査概要について,「日時:2013年12月17日~2014年1月7日のうち7日間 ・対象者:都内のコーラ飲料週1回以上飲用者500名・手法:製品名を隠した味覚調査 ・質問項目:どちらの方が「おいしい」と思われますか? 調査機関:㈱シー・エンド・シー」と記載されています。裁判例の基本的な思考はガイドラインと相違するものではないと思われますので,ガイドラインに則して考えてみます。

 まず,比較するにあたっては飲み比べという判断基準が明快な方法によっていること,製品名を隠すという先入観を与えない方法であること,第三者機関による調査であること等をふまえると,①については基本的に問題がないように思います。

 また,②については,数値等の引用が正確になされているのであれば,問題ないでしょう。

 さらに,③については,市場価格もほとんど変わらないカロリーゼロの両社のコーラにつき,どちらがおいしいか比較するもので,比較方法は公正であるといえます。

 以上をふまえると,本件は,基本的に違法とはならないように思います。もっとも,調査方法に関しては,上記調査概要からは判然としない事実(対象者の抽出方法等)もあり,それら次第では結論が変わる可能性も否定できません。

 比較広告は,根拠となるデータが正確であれば,消費者が商品を選択するにあたって明確な判断基準を与えるものであり,有用であることは間違いないと思うのですが,いい加減なデータでもって容易に比較広告を行うことが許容され,他人の信用を軽々に毀損することは許されませんので,上記裁判例の判断は妥当であると考えられます。

 ただ,海外の過激な比較広告を目の当たりにして,日本のそれとを比較すると,風土の違いを感じざるを得ません。ネット上で容易に発見できますので,皆さんも一度ご覧になって下さい。

以上