色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第25回 立つ鳥跡を濁さず?

2013/09/09

 先日、旅先のホテルでたまたま燕の水浴びを目にする機会がありました。夕方、浅く水を張った屋外のプール(といっても人が泳ぐためのものではなく、涼をとるためのもの)の近くで休憩していると、家路の途中らしき燕が次々と飛来し、プールの水面をかすめていきます。最初は水を飲んでいるのかなと思っていたのですが、じっと息をひそめているとチャポンという音が聞こえ、水紋が広がるのが見えました。どうも体全体を水につけているようです。

 

 そのうち、よく見ていると、水浴びの仕方にも上手下手があることに気づきました。水を浴びるには水面近くでスピードを落とし、ある程度の角度で水面に突っ込む必要がありますが、スピードが出たままだったり、進入角度が浅すぎたりすると、うまく水面に体を浸けることができません。また、鳥にも個性があり、プールの傍らの人影が動くと、とたんに飛行路を変えて水浴びをあきらめる慎重な鳥もいれば、お構いなしに突っ込む鳥、数羽で追いかけあいをしながら飛んで来る鳥もいれば、淡々と水浴びを繰り返す鳥もいます。

 泳ぐのが上手な子、下手な子、恐がりの子、ふざけるのが大好きな子など、いろんな友達とプールで遊んだ幼稚園や小学校のころの情景が目に浮かび、何となく私達の世界の縮図を見たような気がしました。

 

 しかし、同じ水浴びでも、燕の水浴びがきれいな夕景だったのに対し、人間の水浴びならぬ海水浴は、そうもいかないようです。

 海水浴客のマナー違反、特に歩きタバコやポイ捨てに苦慮している海水浴場は多く、今年5月には、神戸市が「神戸市ぽい捨て及び路上喫煙の防止に関する条例(歩きたばこ禁止条例)」に基づき、須磨海水浴場・須磨海浜公園地区を路上喫煙禁止地区に指定し、海水浴期間中、須磨海岸内の指定場所以外での喫煙者から過料を徴収することとしました。

 愛煙家からは溜息が聞こえてきそうなこの条例ですが、神戸市のホームページの、「海水浴期間中の須磨海岸での喫煙禁止指導件数が依然として多く、須磨海岸での喫煙問題は、安全・安心な海岸利用と環境美化の観点から重要な課題となっております」との記載や、市民からの苦情が絶えず、過去2年の海水浴期間中の指導件数はそれぞれ2000件ほどだったという報道からすると、罰則がなければなかなか喫煙マナーの改善が見られなかったという背景事情が推測されます。実際、過料の徴収がなされることとなった今年度は、8月18日時点で指導件数は685件と大幅に減っており、罰則を定めた効果が現れているようです(8月20日付神戸新聞NEXT)。

 

 この神戸市の条例で科されることとなった「過料」とは、金銭的制裁の一つですが、罰金や科料と異なり刑罰ではなく、行政上の秩序違反行為に対して科される「行政上の秩序罰」であるとされています。罰金や科料は刑罰であるため、刑法総則の規定が適用され、執行は刑事訴訟法の定める手続によりますが、過料には刑法総則は適用されず、例えば過料を科されたとしても前科にはなりませんし、その場で徴収することも可能です。

 一般的に行政犯は刑法犯ほど反社会性が重大ではなく、刑罰という制裁を科すことがためらわれる事例は少なくなく、また、刑罰を科すには刑事訴訟法に則った厳格な手続を要するため、違反に対して刑罰を科す法令が実際に適用されるケースは限定的です。したがって、行政犯については、刑罰ではなく過料を定める方が実効性が高いケースが多いようです。そのためか、平成11年の地方自治法改正により、地方自治体が条例または規則で5万円以下の過料を科すことが可能とされて以降、「地方自治体の独自規制において、罰金ではなく過料を選択する事例が増加している」との指摘もあります(地方分権の進展に対応した行政の実効性確保のあり方に関する検討会報告書)。

 

 近年、町民はりんごのまるかじりの普及に努めなければならないという条項を盛り込んだ条例(青森県板柳町)や日本酒での乾杯を勧める条例(京都市、佐賀県、西宮市など)など、独自の条例が産業振興に一役買っている例もあり、条例の役割にも広がりが見られます。

 マナー違反の類に対して過料を科さざるを得ないという状況は残念ですが、神戸市の条例改正では効果が出たということからしても、今後は同様に、マナー違反に過料を科す条例が増えるのかもしれません。

 

 ちなみに、犬のふん害に悩む泉佐野市では、今年7月から、犬のふんを放置した飼い主から過料1000円を徴収することにした[1]とか。人間社会では、海岸でも街中でも、なかなか立つ鳥跡を濁さずとはいかないようです。

 


[1]泉佐野市では、平成24年1月に、ふんを公共地に放置した場合に過料を徴収できるよう環境美化推進条例を改正施行しましたが、実際は徴収していなかったとのことです。

執筆者:高坂 佳郁子

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