色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第23回 公職選挙法改正とネット選挙

2013/08/16

 みなさまもすでにご存じのことかと思われますが,公職選挙法(以下「公選法」といいます。)が改正され,平成25年7月21日に投開票が実施された参議院議員通常選挙にかかる選挙運動において,いわゆるネット選挙が解禁されました。

 特定の政党を支持する趣旨のコラムではありませんので,各党の具体的な利用状況に触れることはしませんが,ツイッター,Facebook,Line等様々な手段を用いて選挙運動が行われたようです。

 周囲の方と話をしていますと,たまに,ネットで投票できるようになるなんて便利だね,と言われることがありますが,今回解禁となったのは,投票ではなく,あくまで選挙運動です。

 選挙運動とは,判例・通説上「特定の選挙について,特定の候補者の当選を目的として,投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされています。選挙運動と単なる応援の区別は難しい問題ですが,この定義に含まれる4つの要件である,ⅰ選挙の特定性(例えば,今回の平成25年7月21日に投開票が実施された参議院議員通常選挙と特定すること。),ⅱ候補者の特定性(例えば,○○党の山田太郎と候補者を特定すること。),ⅲ当選の目的(例えば,政党等がその主張を国民に訴えることを目的として行う活動は,結果的に所属候補者の当選に資するものとなったとしても,一般的には,選挙運動ではないとされています。),ⅳ投票獲得に直接間接に必要かつ有利な行為(例えば,選挙事務所の借入れの内交渉,ポスター制作の手配といった選挙運動の単なる準備行為にすぎない場合は,これに含まれないとされています。一方で,単に特定候補者の名前を選挙人に知らせることであっても,選挙運動となりえます。)を基準として判断することとなります。

 選挙運動期間は,選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までとされています(公選法129条。今回で言えば,公示日は7月4日で,選挙期日は7月21日ですのでその前日である7月20日までの,17日間ということになります。)。

 文書・図画による選挙運動については,資金力の大小により候補者間に差が生じやすく,選挙の公正や候補者間の平等を確保するという公選法の趣旨に反するおそれが高いため,厳しい規制が設けられていました。インターネット等による情報の伝達は,この文書・図画の頒布に含まれると考えられており,しかも一切の例外なく規制されてきました。それが,今回の公選法改正により,インターネット等を利用した選挙運動の一部が解禁されることとなったのです。

 主なものでは,①ウェブサイト等を利用する方法,②電子メールを利用する方法が挙げられます。

 具体的には,①は,「何人も」,ウェブサイト等を利用する方法により,選挙運動を行うことができるというものです(改正公選法142条の3第1項)。ウェブサイト等を利用する方法とは,インターネット等を利用する方法のうち,電子メールを利用する方法を除いたものをいいます。例えば,ホームページ,ブログ,SNS,動画共有サービス,動画中継サイト等です。また,選挙運動用ウェブサイト等には,その者に連絡するための電子メールアドレス等を表示することが義務づけられます(改正公選法142条の3第3項)。具体例としては,電子メールアドレスの他,返信用フォームのURL,ツイッターのユーザー名が挙げられます。

 ②は,電子メールを利用する方法による選挙運動用文書図画については,「候補者・政党等に限って」頒布することができるというものです(改正公選法142条の4第1項)。一般の有権者は引き続き禁止されています。もっとも,一般の電子メールを用いずにフェイスブックやLINEなどユーザー間でやりとりするメッセージ機能は,電子メールを利用する方法ではなく,ウェブサイト等を利用する方法に含まれますので,候補者・政党等以外の一般有権者も利用できます。また,電子メールの受信を希望しない者等に無秩序に送信されることを防止するため,選挙運動用電子メールの送信先は,あらかじめ電子メールが送信されることに同意した者に限る等,一定の制限がありますし(改正公選法142条の4第2項),選挙運動用電子メールで送信される文書図画には,送信者の氏名・名称や電子メールアドレス等,一定の事項を表示することも義務づけられています(改正公選法142条の4第6項)。

 特に,主体が制限されている②は注意が必要です。SNSと同じ感覚で,友人に電子メールを送信することで,うっかり,公選法に抵触してしまうおそれがあります。

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 ネット選挙解禁により,国民の選挙運動へのアクセスは容易になりました。候補者のつぶやきへのリツイート,選挙運動の様子を動画共有サイトに投稿する等であれば,携帯電話やスマートフォンを用いて,指1つで行うことができます。特に,普段から携帯電話やスマートフォンをよく利用される方であれば,あまり深く考えずに投稿することもままあるように思います。

 しかし,ネット選挙が解禁されても,依然として,未成年者による選挙運動は禁止されています(公選法137条の2)。未成年者の中には,毎日当たり前のようにツイッター等を利用していて,それこそ1日に何十回もツイートする方もいるでしょう。未成年者の場合,そのような何気ない行動によって,うっかり,公選法に抵触してしまうおそれがあります。携帯電話やスマートフォンを利用するお子様がいらっしゃる方は注意が必要です。

 インターネット等が普及した現在の社会状況に鑑み,ネット選挙を合法化したことは,選挙人に多種多様な情報を提供するという観点からすれば,公正な選挙の実現に資するものといえます。

 一方で,上述のような規制は国民一般には分かりづらいうえ,どこまでが単なる応援にすぎず,どこからが選挙運動に含まれるのかも明確ではなく,法律上許容されるインターネット等を利用した選挙運動に該当するかの判断は大変難しいといえます。今後,「うっかり」による法律違反は当然生じることでしょう。善意(法律用語としてではなく,日常用語としての意味。)で応援メッセージを投稿した方が,うっかり違反してしまったり,選挙で立候補した方が,うっかり違反したがために,多くの方の支持を受けることができる状況にありながら,その選挙活動に悪影響が及ぶような事態になったとすれば,本当に残念なことです。

 まだ始まったばかりの制度ですし,今後の法改正や実際の運用については今後の推移を見守るしかありません。改正公選法附則においても,「電子メール…を利用する方法による選挙運動については,次回の国政選挙…後,その実施状況の検討を踏まえ,次々回の国政選挙…における解禁について適切な措置が講ぜられるものとする。」とされています。事実,今年9月には,与党が,上記②のメールを使った投票の呼び掛けについて,候補者・政党等に限定せず有権者にも認めること等について検討する方針のようです。選挙運動に該当しうる投稿については,総務省のホームページ(http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo10.html)でも制度の説明がなされていますし,今後の選挙においては,それらをしっかりと確認したうえで慎重に行うべきでしょう。

以上

執筆者:加古 洋輔

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