色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第20回 フライングゲット

2013/07/09

 フライングゲット(フラゲと略することも多いようです。)とは、商品をメーカーの指定する正規の発売日より早く購入することです。商品といっても、音楽CD、ゲームソフト、雑誌などでよく使われます。フライングゲット(フラゲ)という言葉自体は、10年くらい前から使われている和製英語(注1)のインターネットスラングですが、あの国民的アイドルグループ(注2)の代表歌の一つとして、あるいは、その不動のセンターと言われた元メンバー(注2)に対する女芸人(注2)の物まねで、さらにその物まねを意識した本人の、あのお父さん犬と一緒に出る携帯電話会社(注2)のCMでこれを初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。

 フラゲは、正規の発売日よりも早く購入する訳ですから、正規のルートではなくコネや不正な手段を使用するようなマナー違反の購入であることが一般的です。さらにフラゲした音楽CDやゲームソフトは、違法コピーや違法アップロードの対象となることが多く、著作権侵害が問題となることがよくあります。もっとも、通常このようなフラゲ自体が違法であるという訳ではありません。

 ところで、情報のフラゲという観点ではインサイダー取引規制(注3)に注意しなければなりません。平成25年6月12日に成立した改正金融商品取引法では、昨今の多発する公募増資インサイダー取引事案を踏まえ、未公表の重要事実を知っている会社関係者(注3)が、他人に対し、「公表前に取引させることにより利益を得させる目的」をもって、重要事実(注3)の情報伝達等を行うことを禁止し、この情報伝達等により公表前の取引が行われた場合には刑事罰や課徴金の対象となることになりました。情報受領者によるインサイダー取引を防止するために、不正な情報漏えいをいかに抑止することが重要であるという判断によるものです。未公表の重要事実情報のフラゲをさせないということです。

 昭和62年9月、素材メーカーである某社(注4)が財テクの失敗により債券先物取引で数百億円の損失を被ったことが公表されました。これはこれで、債券市場だけでなく、株式市場にもかなりのインパクトを与えたのですが、同社の役員や取引銀行がこの公表の前に保有していた同社株を売却していたことが発覚します。ところが、当時はインサイダー取引についての明確な規制がなかったことから、法的には何の処分もされませんでした。この事件がきっかけとなり(外圧なんかもあったようですが)、平成元年4月、当時の証券取引法(金融商品取引法の前身)が改正され日本におけるインサイダー取引の明確な規制が始まりました。もっともインサイダー取引の明確な規制が始まった当時は、これが違法であるなどという意識どころか、不公正であるといった意識さえ希薄でした。株式取引というものは、「早耳」を競うものであり、「役得」の世界だったのです。しかし、インサイダー取引に対する意識は時代とともに劇的に変化しました。インサイダー取引規制を遵守することは、株式等の売買をする個人はもとより、発行会社のコンプライアンス(注5)という観点からも重要です。インサイダー取引については、証券取引等監視委員会、証券取引所、証券会社等が連携してきめ細かい監視がされています。証券取引等監視委員会の調査能力がそこまで高いと知っていたら、インサイダー取引などしなかったのにと言った人もいるようです。隠し果せるようなものではないことを肝に銘じておくべきです。

 フラゲするのは「君の気持ち」(注6)くらいにしておきましょう。

 

(注1)

 競走競技で号砲の合図よりも先にスタートすることをよく「フライング」といいますが、これと「得る」という意味の英語の「ゲット」を組み合わせた和製英語がフライングゲットです。そもそも日本でいう「フライング(スタート)」は英語では

”false start”と言います。”flying start”という英語の用法はありますが、これは、「好調なスタート」という意味で日本語の「フライング」とはかなりニュアンスが異なります。因みに日本語で「ゲット」を多用するようになったのは、おそらく「ポケモン、ゲットだぜ」あたりからかと思いますが、Pokémonは、”catch”するものであって”get”するものではありません。

(注2)

 誰でも知っているようなことで、何もこんな思わせぶりな書き方をする必要はなかったのですが、単にやってみたかっただけです。(順番に、「AKB48」、「前田敦子」、「キンタロー。」、「ソフトバンク」)

(注3)

 インサイダー取引規制とは、「会社関係者」及び「第一次情報受領者」は、上場会社に関する「重要事実」を知りながら、その「公表前」に、当該会社の株式の売買等を行ってはならないというものです。

 「会社関係者」とは、上場会社等の役職員、帳簿閲覧権を有する株主、監督官庁の職員のような法令に基づく権限を有する者、契約締結者、締結交渉中の者(交渉に関与する弁護士や会計士なども含まれます。) 等のことを言います。「第一次受領者」とは、会社関係者から「重要事実」の伝達を受けた者のことです。

 「重要事実」とは、投資判断に重要な影響を及ぼす事実についての情報です。決定事実と発生事実とがあり、金融商品取引法等を見ればどのような事実かが分かります。

 インサイダー取引規制に違反した者には、刑事罰(懲役刑もあります。)や課徴金が課せられます。

(注4)

 知る人ぞ知る事件で、何もこのような思わせぶりな書き方をする必要はなかったのかもしれません。しかし、何十年も前の不祥事であえて社名をあげて傷口に「塩」を塗るようなことはやめておこうと思いました。

(注5)

 コンプライアンスの観点からは、インサイダー取引が規制対象であることを役職員に徹底することと重要事実についての情報管理を徹底することが重要です。

(注6)

 私には「君のきもち」も関係なさそうですが・・・

執筆者:三浦 彰夫

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