コラム

Column

第75回 民事調停について

1.

皆様のご依頼やご相談の中で、民事調停(以下、単に「調停」といいます)の申し立てを受けたが、そもそも「調停」とはどういうもので、「訴訟」とどうちがうのか、どう対応すればよいのかというご質問を受けることがよくあります。また、こちらから「訴訟」を提起する前に「調停」を先行して行うか迷う場合もあります。

私は、平成14年より大阪簡易裁判所の民事調停委員を務めており、代理人として民事調停事件に関与することもたびたびありますので、今回は「調停」についての概要をご説明するとともに、どのように「調停」を活用したらいいかということについてもふれたいと思います。

2.

民事紛争の法的な解決方法として「訴訟」がありますが、「訴訟」は裁判官が双方の主張(事実に関する主張と法律上の主張)を聞いた上で、証拠に基づいて事実を認定し、その事実を法律に該てはめて「判決」という形で結論を出すという手続であり、紛争を強制的に解決するものです(「訴訟」の途中で「和解」という合意に似た形で解決することもありますが、「和解」は、それができなければ「判決」になるという前提で話し合いをするものです)。

これに対し、「調停」は、終始当事者間の合意によって紛争を解決しようとするもので、強制されるものではありませんが、当事者同士の話し合いによる解決と異なるところは、裁判所の調停委員会(通常は、裁判官1名と調停委員2名からなります)が、裁判所の庁舎において双方の言い分を聞いて調整を行ってくれること、話し合いが出来ればその内容にしたがって「調停調書」が作成され、この調書には判決と同じように強制執行が出来るという特別の効力が与えられているので一般の示談書・合意書とは違うというところにあります。

3.

「調停」の長所として一般に言われるのは次の点です。

(1)「訴訟」は、原告が取り上げている権利義務についての判断が示されるだけ

だが、「調停」では紛争解決の内容を自由に決めることが出来、場合によれ

ば、双方の紛争の背景となっている当事者の関係の改善も図れる。

(2)調停委員として、弁護士、会計士、税理士、建築士、医師など当該紛争にか

かわる分野の専門家がつくことがあるので、双方にとって納得のいく解決が

得 られやすい。

(3)申立ての費用も訴訟に比べると安くすみ、事件の終了までの期間も「訴訟」

ほど長期にわたらない。

(4)「訴訟」の手続は公開が原則だが、「調停」の手続は非公開とされる。

これに対し、短所としては次の点があるように思います。

(1)「調停」には強制力がないので、呼出状が届いても相手方が裁判所に出頭し

ないこともある。また、「調停」が行われたとしても最終的に合意ができな

ければ「調停」は打ち切られ、改めて「訴訟」を提起する必要があるため、

時間と手間が無駄になることがある。

(2)十分な証拠調べ(特に証人調べ)が事実上難しいので、事実関係の争いが大

きい紛争では、証拠を十分に検討してもらったという満足は得にくい。

(3)「調停」を事実上進める調停委員の能力や熱意にはバラつきがあり、十分な

「調停」が行われていないという不満の残ることがある(「訴訟」の場合も担

当する裁判官に同様のバラつきはありますが、その程度ははるかに少ないと思

われる)。

なお、「調停」では、1回毎に当事者双方より言い分を別々に口頭で説明を聞くことが多いため、毎回待たされる時間が長くなります。「訴訟」は「証人尋問」のときを除き、通常は弁護士のみが出頭して手続を行いますが、「調停」の場合には、事実関係の確認のため当事者本人や企業の担当者も出頭することが必要とされる場合が多いので、この時間的な負担は相当のものです。もっとも、このような負担は、キチンとした「調停」をしてもらうために必要なので、やむをえないものなのかもしれません。

4.

これらを見ると、「調停」は個人が個人あるいは企業を相手とする規模の小さい紛争の解決には向くが、企業同士の規模の大きい紛争の解決には向かないのではないかと思われるかもしれません。

しかしながら、後者の類型の紛争でも、弁護士が「調停」をお勧めする場合もあります。

その第1は、手続を起こそうとする方にも事実関係が明らかでない、あるいは法律判断が難しいといった場合です。この場合には、まず「調停」を申し立て、相手方の言い分を聞くことによって、事件の争点がはっきりすると同時に、「訴訟」をした場合の見通しが立てやすくなります。又、その結果、双方の法的なポジションがお互いに明らかになるとともに、調停委員会の示唆によって妥当な話し合い解決が望めることがあり、そのようなメリットは後者の類型の紛争でも十分にありうるということです。

もう1つは、当該紛争の解決のためには、「訴訟」ほど明確な解決ではないが「調停」という公的な解決をすることが必要とされる場合です。例えば、当該紛争の解決の方向について企業内で意見の対立がある(強気派と弱気派が拮抗している)場合には、一定の解決について「裁判所」(調停委員会)の勧告があったということが役に立つことがあります。地方自治体や第三セクターを当事者とする紛争の解決の場合、あるいは税金の処理上あるいは監督官庁への説明などの場面でも、当事者同士の話し合い解決では不透明で関係者に納得してもらえないという場合も役に立つことがあります。

また、「調停」が「非公開」ということに着目することもあります。どの企業も抱える民事紛争が公けになることを望むことはありません。「訴訟」になれば、公開の手続ですから、漏れることの覚悟は必要です。企業にとってコンプライアンスが重視される昨今、大きな民事紛争を抱えていることが公けになることによって、会社にとってどのような面でマイナスを生ずるかが判らないということは大きなリスクなのです。

以上は「調停」を申し立てる側の思いですが、逆に「調停」が申し立てられた側は、相手方がなぜ「訴訟」でなく「調停」を申し立てたかを考えることによって、申し立てられた「調停」をどのように有利に活用するか(「調停」に応ずるか否か、一旦応ずるとして、どこまで主張や証拠を出すのか、最後まで「調停」解決を目指すのかなど)を検討の上、対応していくことが重要となります。

5.

以上、「調停」についての雑感を述べましたが、総じていえば、「調停」は相当に有用な紛争解決の方法ですので、積極的な活用をお考えいただくことがよいと考えます。

以上