色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第78回 マイナス金利が利息に及ぼす影響について

2016/05/06

はじめに

 日本銀行が平成28年2月26日、金融機関が有する日本銀行の当座預金の残高の一部に-0.1%のマイナス金利を導入しました。そこで、金銭消費貸借に対する影響、預金に対する影響について簡単にみてみましょう。

 

1 マイナス金利の影響(主な例)

 (1)貸付金利

① 固定金利

 マイナス金利が金銭消費貸借契約一般に与える影響は次のとおりです。日本銀行が導入した金利は-0.1%ですが、以下では金利1%として説明します。たとえば100万円を金利年1%、返済期限を1年後として貸し付けると、借主は1年後には元金100万円と1万円(元利合計101万円)を返済することになります。これに対して、マイナス金利1%となった場合には、借主は1年後の返済時には99万円を貸主に返すことになり、貸主からすれば、貸し付けた元金全額を返還してもらえないことになります。

② 変動金利連動型

 また、銀行その他の金融機関が行っている融資には、変動金利連動型すなわち基準となる金利指標(LIBOR,TIBOR等)に一定のスプレッドを加えた利率(適用金利)を元本に乗じて利息を計算するものがあります。そこで、適用金利が計算上マイナスとなった場合には、貸付人が借入人からスプレッド相当額を受け取ることができるか、それとも貸付人は借入人に対して、所定の利払日に金利相当額を支払わなければならなくなるでしょうか。

 (2)預金金利

 さらに、銀行その他の金融機関は、市中金利がマイナスとなった場合に、普通預金等の適用される店頭表示利率としてマイナスの値を定めた場合、その絶対値を用いて計算した金額を利息として利息支払日に預金残高から差し引くことができるでしょうか。

 (3)そのほかにも、変動金利と固定金利を交換する金利スワップ取引において。適用金利が計算上マイナスとなった場合に、一方の当事者は他方当事者に対し、所定の支払日に固定金利に加えて変動金利相当額を支払う義務を負うかという問題などもありますが、以下では、(1)の貸付金利と(2)の預金金利について簡単にみることにします。

 

2 基本は当事者の合意による

 まず、マイナス金利の導入時にすでになされている金銭消費貸借契約や預金契約については、日銀のマイナス金利の導入によって、その契約における利息の約定は影響を受けることはないといえます。マイナス金利導入前の当事者間の合意によって定められているからです。

 ただ、金銭消費貸借契約であれ、預金契約であれ、当事者がもともとマイナス金利を想定して、明示の合意をしていれば、基本的にはその合意に従うことになります。しかしながら、このたびのマイナス金利の導入は当事者には突然に決定されたものですから、これを想定して当事者が明示の合意をしていたとはいえないと思われます。

 そして、契約中にマイナス金利を想定した明示の合意がない場合には変動利息・変動金利の内容として、当事者がどのような合意をしたと解釈できるかにより決まるものといえます。以下個別に見ていきます。

 (1)  貸付金利

① 貸主が金銭を消費貸借契約に基づき貸し付けた場合には、通常は元金とその利
 用の対価としての利息を取得できるものと貸主は考えているといえます。そこで、
 マイナス利息となった場合に,利息は受け取れないばかりか、貸し付けた元金全
 額が返済されない、いわば貸付金が「元本割れ」となってしまいますが、これは
 貸主にとって想定外だといえましょう。

② これに対して、基準金利に一定のスプレッドを加えた適用金利を元本に乗じて
 利息を計算する金銭消費貸借契約においては、基準金利がマイナスとなった場合
 には、そのスプレッドが確保されず、減少することになります。しかし、貸主は
 貸し付け当時このスプレッド幅を利息として確保できると考えて適用金利にプラ
 スして計算しているのが通例だと思われます。したがって、スプレッド幅を保証
 すると認定することが当事者の合理的な意思といえる場合も多いのではないかと
 思われます。

 (2) 預金金利

 金融機関が預金した普通預金・定期預金について、市中金利がマイナスとなった場合には、店頭表示利率としてマイナス値を定め、その数値をもとに計算した金額を利息支払日に預金残高から差し引くことができるでしょうか。

 預金契約は消費寄託契約と解されていますが、預金者としては預金した金額の「元本割れ」をするとは考えていないでしょう。やはり、上記(1)の消費貸借契約と同様に、金利は金融機関が預金者に支払うべきものというのが通常の当事者の意思といえます。

 これに対して、マイナス金利導入後、金融機関として、寄託の対価あるいは預金口座を通じたサービスの対価として預金約款に定めて今後徴求する余地はあるともいわれています。しかしながら、マイナス金利導入前からそのような徴求をしていたならともかく、マイナス金利導入後にそのような取り扱いをすることは、事業者や個人の預金者にとってマイナス金利により預金の元本割れを認める場合と結果としては変わりがなく不利な結果となります。したがって金融機関としてもただちに名目を手数料に代えて預金者から徴求することには疑問を呈したいと思います。

 なお、当事者の合意を認定するに際しては、たとえば取引の経済合理性、当事者の取引動機(特定の取引のヘッジ目的の有無、ヘッジ会計の利用可能性等)、金融機関による説明や顧客との交渉の経緯、顧客の属性等の個別事情等をふまえることが重要だと言われています。*1

 

3 なお、平成28年2月19日に公表された金融法委員会が「マイナス金利の導入に伴って生じる契約解釈上の問題に対する考え方の整理」は実務上の問題点を考えるに際して参考になると思われます。

 


*1 金融法委員会の「マイナス金利の導入に伴って生じる契約解釈上の問題に対する考え方の整理」においても触れられています。

執筆者:森 恵一

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