色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第80回 ヴェロキラプトル

2016/06/01

 RE-BOOOOOOOORNしたユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行ってきました。しばらく封鎖されていたジュラシック・パーク・エリアでは、逃げ出したという数匹のヴェロキラプトル(註1。以下「ラプトル」といいます。)が歩いていました。ラプトルと眼を合わすな、走るなといった係員の指示に従い、私はじっと立っていたのですが、後からそっと近寄って来たラプトルに頭を思い切りかじられてしまいました。ダイナソー・パニックというアトラクションの一幕だったので、無事このコラムを書いていますが、現実ならば、私は喰われてしまってもういません。

 

 私がテーマ・パークで飼育されている本物の恐竜に襲われたならば、次のような法律関係が生じます。まず、民事上、テーマ・パークは、入場者に対する安全配慮義務を入場契約に付随して負っていると考えられますから、この義務についての債務不履行に基づき私又は私の相続人に対し損害賠償義務を負います。また、不法行為の観点から、恐竜も動物であると考えられますから、飼い主は、その恐竜が他人に加えた損害を賠償する責任を負います(民法718条)。相当な注意をもってその管理をしていたときは免責されますが、免責はあまり認められません。刑事上は、パークの役職員は、業務上過失致死傷で5年以下の懲役又は禁固又は100万円以下の罰金に処せられることになるでしょう。現行の動物の愛護及び管理に関する法律上、恐竜は、取扱に第一種動物取扱業者の登録(同法5条)が必要な動物にはなっていませんし、特に人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物として飼育についての許可(同法26条)が必要な特定動物でもありませんが、現実に技術が発達して恐竜が再生したならば、当然これらの規制がかけられるようになり、上記登録や許可が必要となるでしょう。それでそのような事故が起これば、この登録や許可は取り消される可能性があります。(皆さん恐竜なんて関係ないと思っていらっしゃるかもしれませんが、恐竜は、危険なもののメタファーです。危険なものを所有したり占有したりしている者が、その適切な管理を行うと民事上、刑事上そして行政法上さまざまな制裁が加えられるということを忘れてはなりません(註2)。)

 

 私は、犬や猫を含む動物一般が大好きです。飼い主が適切な管理を怠り、危険とされる動物が逃げ出したり、人を襲ったりしたことで、その動物が殺処分されるようなことがよくあります。たとい(私に噛みついた)ラプトルであってもそのような目に逢うことは、大変悲しいことです。私は、動物飼育の禁止条項の付いた借家契約(註3)に違反して、犬猫を飼っている借主に対する法的対応を頼まれることもあるのですが、飼主が約束を守って、犬猫たちを適切に管理することを願ってやみません。

 

 ところでラプトルが私を襲うのを見ていた家族によると、ラプトルは、最初私と隣にいた男性のどちらの頭をかじろうかと物色していたそうですが、最終的に私が被害者となりました。こっそり見ているなんて冷たい家族です。でも、ラプトルにかじられるなんて、恐竜好きの私にはたまらなく光栄なことでした。

 

(註1) ラプトルは、白亜紀に生息した体長2メートル程度の恐竜です。映画『ジュラシック・パーク』のシリーズに出て来るラプトル(ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのラプトルも映画のラプトルと同じです。)は、ラプトルではなくて、もう少し大きめのデイノニクスという恐竜がモデルだと言われています。因みにラプトルはラテン語で泥棒の意味です。ラプトルの前のヴェロキは素速いということなのでヴェロキラプトルの意味は速い泥棒ということになります。

(註2) 最新の『ジュラシック・パーク』シリーズの映画である『ジュラシック・ワールド』は、企業の危機管理についての反面教師のような映画です。そもそも複数の関係者の勝手な思惑から破局を迎えることになるのですが、なによりパークの責任者である筈のヒロインは、自らの采配のミスから、部下である秘書をプテラノドン(翼竜。空を飛ぶ巨大な爬虫類)にさらわれ、プテラノドンごとモササウルス(巨大な水棲爬虫類)に喰われてしまうなど、多数の従業員と来場者を死傷させたにもかかわらず、その反省もなく、混乱に巻き込まれた自分の甥との再会を喜び、おまけに以前別れた恋人とよりを戻すというひどい奴です。因みに恐竜とは、脚が身体から地面に向かってまっすぐに伸びた爬虫類のことを言いますから、プテラノドンも首長竜やモササウルスも恐竜ではありません。

(註3) 特に共同住宅の場合、動物の飼育は他の借主に迷惑をかける抽象的危険があります。また、動物飼育禁止の約定のある賃貸住宅を借家しようとする者は動物アレルギーがあったり、動物嫌いであったりして、動物飼育が禁止されていることを前提に契約していることもあります。また、貸主にとっても、新たな借主の募集の支障となったり、動物の臭い、動物による部屋の傷等が残ってその修繕に時間がかかったりするなど借主の動物の飼育によって迷惑を被ることもあります。したがって、ペット飼育の意義がいかに崇高なものであろうとも、借家契約に動物飼育禁止条項を設けることには合理性があります。

執筆者:三浦 彰夫

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