色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第82回 人工知能(AI)と紛争

2016/07/15

 本年4月に色川事務所に入所いたしました高坂佳詩子と申します。初めて法律コラムを担当させていただきます。よろしくお願いいたします。

 今年3月に行われた人工知能(AI)「アルファ碁」と韓国のプロ棋士との囲碁5番勝負では、AIが棋士に4勝1敗と圧勝し、世間を驚かせました。

一方で、AI技術の未熟性を印象付けるニュースもありました。米テスラ・モーターズは、6月30日、自動運転機能を搭載した自社の車「モデルS」を使った死亡事故が発生したと発表しました。テスラ社によれば、自動運転機能を使った車による初の死亡事故ということで、現在、アメリカ運輸当局が、事故の詳しい原因を調査しているとのことです。

 功罪どちらのニュースが増えるかは別として、今後、AIが様々な分野に進出し、我々にとって身近なものとなっていくのは時間の問題であると思われます。

 AIが進出した分野では、AIが関係する紛争が一定程度、不可避的に起こると思われます。例えば、AIを家庭教師として使っていたら、誤った知識を伝えられ、受験に失敗した、医師業務を行うAIを使っていたら、誤った診断がされ患者が死亡した、といった事案です。

 かかる紛争の法的責任(民事責任)を誰に負わせるのかという問題は、将来大きな社会問題になり得ます。(※)

 AIは、ディープラーニング、つまり大量のデータを取得して自ら学習し、与えられた目的を達成しつつ、同じサイクルを繰り返し続けるというものですから、サイクルが進めば、プログラム開発者の管理を離れていきます。そういったプログラム開発者の手を離れた学習過程で、事故や誤作動の原因が発生したら、ハード開発者、プログラム開発者及びデータ提供者に、法的な責任を負わせられるのでしょうか。

 仮に、そのような責任をプログラム開発者等に負わせるとすると、萎縮効果が発生しAIの進歩が滞ってしまう可能性があります。一方でAIの発展過程で生じるリスクをすべてその利用者に負わせるということになると、利用する者がいなくなり、結局のところ、AIの発展は期待できないということになるでしょう。

 したがって、社会全体として、AIを巡る紛争に関し、どのような法制度、被害者救済のスキームを構築するのかの検討が重要になってきます。

 振り返れば、これまでも似たような事象が生じていたといえそうです。

 自動車という当時画期的な乗り物が普及し、その有用性が認識されるようになったものの、交通事故により、生命や身体といった重大な損害が不可避的に生じ、大きな社会問題となりました。そこで、自賠責保険等の保険制度の発展、過失割合や損害額の算定における基準の明確化といった実務の工夫がされ、現在では、紛争の大部分については被害の救済、迅速な解決が図られています。

 AIの発展に伴うリスクの取り方についても、同じように、法制度の整備や実務の工夫により解決されるべきであり、またそのようになっていくと思われます。

 ところで、AIによって弁護士も危機にさらされるという意見があります。すなわち、弁護士業がAIにとって代わられ、仕事が奪われるというのです。

 現に、米国のある大手弁護士事務所が、法的調査業務のために、AIを導入するとの発表がされました。このAIは、破産分野を担当し、質問を投げかければ、膨大な法律の資料から根拠のある回答をしてくれるそうです。確かに、ある行為が違法であるかどうかといった法律相談業務や、自己破産するときに免責が認められるかどうかといった、集積された判例や先例の分析によって、一定の基準が予測できるような分野については、AIにとって代わられる可能性は十分あるように思います。

 もっとも、弁護士業務の大半は、単純に判例等の分析により回答ができるというものではありません。

 紛争のほとんどは、それぞれ個性があり、その相談に対しては、紛争の背景、その隠れた原因、クライアントのニーズを十分把握した上で、法的な知識を基礎としたきめ細かな解決方法を提供することが必要です。その前提として、「人(クライアント)の話を聞く」ことが必須で、いわば業務の出発点です。そのためには、文字通り血の通った会話が前提として必要であり、少なくとも、この部分について、AIにとって代わられることはないし、AIの進歩によってとって代わられるようになるとしても、それは相当将来のことになるのではないかと思います。

 ただ、将来、AIが今我々が提供している業務をすることが可能な時代が来たとしても、AIの過誤により損害を受けたとして損害賠償をする被害者は、二度とAIに依頼しないでしょうから、AI相手の仕事については、我々弁護士に、一定の需要はあるということにはなりそうです。

 

(※)テスラ社製自動車に搭載のものをはじめ、現在実用化されている自動運転機能は、運転者に代わって自動車が責任をもって運転を行う完全自動運転ではなく、運転者を支援する技術にすぎず、事故が起こった場合は、原則として、現在の法的枠組みに従い、運転者が責任を負うとされているようです。今後AIを利用して完全な自動運転が行えるようになった場合に、事故について、同様に運転者に法的責任の追及ができるのかは、別途検討すべき課題となるでしょう。

執筆者:高坂 佳詩子

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