色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第85回 資金決済法の改正について

2016/08/25

 本年5月25日に,仮想通貨について規律する改正資金決済法が成立しました。現時点で施行日は未定ですが,公布後1年以内の施行が予定されています(公布日は6月4日)。

 2014年に発覚したマウントゴックス社の破綻により,仮想通貨の存在,また仮想通貨をめぐる問題が広く世間に明らかになりましたが,ご承知のとおり仮想通貨を規律する法令がなく,また監督官庁も存在しなかったために,仮想通貨をいかに規制するかが喫緊の課題となっていました。

新しい法令を制定すべき,金融商品取引法で規制すべきといった議論もありましたが,最終的には資金決済法で規制することとなり,同法の改正という形で,主に仮想通貨交換業について規制がなされることになりました。

 

1.仮想通貨とは?

(1)定義

  仮想通貨は,中央銀行などの公的発行主体や管理者がないのが特徴とされ,600
 以上の種類があるとされています(日本経済新聞平成28年5月26日)。改正後の資
 金決済法では,要旨,次のように「仮想通貨」を定義しています(2条5項)。

  ①物品の購入などを行う場合に,その代価の弁済のために不特定の者に対して使
   用することができ,かつ,不特定の者を相手方として購入などができる財産的
   価値(電子的機器などに電子的方法で記録されているものに限る)であって,
   電子情報処理組織で移転することができるもの

  ②不特定の者を相手方として,前号に掲げるものと相互に交換できる財産的価値
   であって,電子情報処理組織を用いて移転できるもの

  このように,仮想通貨は,支払手段であって通貨としての機能を持つものと定義
   されました。

(2)仮想通貨と通貨とは,どこが違うのか?

  通貨とは,法貨としての強制通用力が法律による付与されたもので(「日本銀行
   法」46条2項は紙幣について,「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」7条は
   貨幣につき額面価格の20倍まで,それぞれ法貨として通用すると定めています),
   どのような場面でも,誰でも,何にでも,支払や決済の手段として利用できるもの
   です。

  一方で,仮想通貨には法貨としての強制通用力はありませんので,その利用が認
 められた場面でしか使うことができません。従って,例えば,お金を借りた債務者
 が,債権者が同意していないにもかかわらず,(通貨ではなく)仮想通貨で債務を
 返済することはできません(民法402条で弁済に使うことができる「通貨」には,
 仮想通貨は含まれないと考えられています)。

(3)仮想通貨と電子マネーとは,どこが違うのか?

  仮想通貨は,前払式支払手段の一種である電子マネーと,支払手段である点は同
 じです。しかしながら,前払式支払手段は,利用できる範囲が,発行者自身,また
 発行者と契約関係にある事業者に限られている点が,仮想通貨とは大きく異なりま
 す。例えば,WAONやPontaを利用できる事業者は一定範囲に限定されています
 が,仮想通貨は「不特定の者を相手方として購入などができる」ものであり,利用
 範囲は限定されていません(改正法における仮想通貨の定義も,前払式支払手段と
 の違いを意識して作られています)。

  また,前払式支払手段(電子マネー)は,「金額」や「物品又は役務の数量」に
 応ずる対価を得て発行されるものですが,仮想通貨には,そのような条件はありま
 せん。

 

2.仮想通貨について,どのような規制がなされるのか?

  大きな点としては,仮想通貨交換業について登録制が導入されました(改正法63
 条の2)。仮想通貨交換業とは,仮想通貨の売買,他の仮想通貨との交換,その媒
 介,取次や代理,これらに関して利用者の金銭や仮想通貨の管理を行うことをいい
 ます(改正法2条7項)。

  交換業者は,利用者の財産を自己の財産と分別して管理し,定期的に公認会計士
 等の監査を受けなければなりません(改正法63条の11)。また,帳簿書類及び報告
 書の作成などの義務も負います(改正法63条の13,14)。

  仮想通貨に関しては,マネーロンダリングやテロ資金の移動に使われるのではな
 いかとの懸念が強く,その対策のために犯罪収益移転防止法が改正されました。こ
 れにより,口座開設時における本人確認義務や,確認記録の作成,取引記録の作
 成,保存や疑わしい取引に係る当局への届出義務などを負う「特定事業者」の中
 に,仮想通貨交換業者も含められることになりました(同法2条31号)。

 

3.今後の動向

(1)仮想通貨による支払

  現在は,現金以外の支払手段としては,クレジットカード,電子手形,(資金決
 済法で規律されている)前払式支払手段などが主流です。しかしながら,仮想通貨
 は低廉な手数料で海外送金できるといった利便性があり,既に国際送金において用
 いられています。このような潮流の中で,上記のとおり日本国内でも仮想通貨が法
 制化されたことを受けて,今後は,海外送金だけでなく様々な支払の局面におい
 て,仮想通貨も支払手段の一つとして使われることが予想されます。

(2)金融機関によるフィンテック(IT技術を活用した新規の金融サービス。仮想通
 貨もその一つと言えます)の活用

  今回の資金決済法の改正は,情報通信技術が急速に進展する等,金融を取り巻く
 環境の変化に対応し,金融機能の強化を図るという目的の下,金融機関がフィンテ
 ック企業に出資し提携し易くするという銀行法等の改正と併せて行われました(
 「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法
 律」により一連の法律が改正されています)。

  メガバンクを含む金融機関は,今後,フィンテックを活用したサービスを開発
 し,提供するものと思われます。

(3)フィンテック拡大に向けた動き

  金融庁は,本年4月27日に「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」を
 立ち上げ,6月8日には「決済高度化官民推進会議」を設置,7月28日には,金融審
 議会「金融制度ワーキング・グループ」(第1回)を開催しました。

  今後も,フィンテックを活用した金融(決済)制度の改革は更に加速するものと
 予測されます。

(4)最後に

  フィンテックとは,ITを活用した従来にはない新しいサービスを指すため,一
 口にフィンテックといっても,その具体的なサービスの内容を直ちにイメージする
 ことは難しく,茫漠としています。ただこのことは同時に,フィンテックを活用し
 た有用なサービスを開発する可能性は無限に広がっていると言えます。

  金融機関だけでなく事業会社においても,今後はフィンテックを利用したサービ
 スを模索することになると思われます。我々弁護士もそのサポートができるよう,
 世の中の動きについてゆく必要性を痛感します。

 

以上

 

執筆者:小林 京子

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