色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第96回 休眠預金活用法について

2017/02/21

「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(以下単に「法」といいます。)が議員立法により平成28年12月2日に成立しました[1]。施行は、平成30年となる見込みといわれています。

当日の新聞報道では、「忘れられた預金 人助け 活用法成立、数百億円を福祉に」(朝日新聞・夕刊平成28年12月2日)などの見出しで大きく報道されました。このリード文や「10年以上放置された口座のお金を福祉に使う」という説明により立法の骨格がわかると思われます。簡単にこの法律の概要についてみることにします[2]。

 

1 どうして休眠預金ができるのでしょうか

なぜ預金が放置されるのでしょうか?これにはいろいろ理由がありますが、たとえば、就職や引っ越しを重ねるうちに預金口座のことを忘れてしまったり、預金者が家族に預金口座を知らせず亡くなったりすることで、金融機関[3]で作られた口座を忘れてしまわれることがあります。途中で気が付けばよいのですが、最後の取引(お金の引き出し等)から一定の期間放置されることがあります。うっかり忘れられ、そのままになるということです。

 

2 これまでの取り扱い

これまでは、一般には10年以上預金者等が名乗りを上げないまま放置された預金を「休眠預金[4](睡眠預金と呼ばれることもあります)」としておおよそ次のとおり取り扱われてきました。

①    残高が「1万円未満」であれば金融機関の収入とされてきました。

②    残高が「1万円以上」であれば、金融機関から預金者に通知して、届いたと判断
されれば通常の預金として取り扱われます。通知が届かなかったと判断されれ
ば、「1万円未満」と同様に金融機関の収入とされてきました。

③    なお、金融機関は預金者からの払い戻しがあれば、消滅時効[5]が成立していて
も、これを主張してこなかったのが実際の取り扱いでした。

 

3 休眠預金はどのくらいあったでしょうか

休眠預金の大半は、残高の金額が1万円未満です。ただ、その合計額は年に約1000億円が発生しているといわれています。このうち、預金があることに気が付いて預金者から払戻を求められた金額は年に約400億円から500億円とされています。したがって差し引き、約500億円から600億円が金融機関の収入になっていました。

 

4 これからの取り扱い

法では、このように金融機関の収入とされてきた休眠預金について、発想を転換して広く国民に還元することにしました。

もちろん、その前提として金融機関において休眠預金について払い戻す努力を尽くすことが必要です。そのような払い戻し義務を尽くした上でもなお、払戻請求がなされなかった休眠預金について広く国民に還元することには合理的な理由があるとされたのです。

 

5 預金者はどうしたらよいでしょうか

法律の施行後は、金融機関から預金者に対する通知・公告手続を経た上で、休眠預金の元金及び利子は預金保険機構に納付されることになります(納付される金銭を「休眠預金等移管金」といいます。法4条1項)が、この時点で休眠預金債権は消滅します(法7条1項)。このようにいったん預金保険機構に移行された後も、預金者等からの申し出に基づき預金同等額(預金元金と利息です。これを「休眠預金等代替金」といいます。休眠預金債権自体は消滅しているのでこのような請求権を考えたものと思われます。)が支払われることになります。この支払は預金保険機構から委託を受けた金融機関が行います(法10条)ので、預金者としては従前の金融機関の窓口で手続きができることになると思われます。金融機関としても利益金に計上した預金の預金者から払戻請求があれば現状でも応じていますので、その取扱いは変わらないといえるでしょう。

 

6 休眠預金は何に使われるのでしょうか-国民に還元するとは?

(1)それでは預金保険機構に移管された休眠預金は何に利用されるのでしょうか。

国民一般にどのように還元するのかについては、民間公益活動の促進に活用されることが妥当であるとされました(基本理念については法16条に規定されています)。具体化には、①子ども及び若者の支援に係る活動 ②日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動 ③地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動 ④①から③までに準ずるものとして内閣府令で定める活動(法17条)に使われるものとされています。

(2)手順はどのようになるでしょうか。

具体的な休眠預金の活用は、有識者の審議会である「休眠預金等活動審議会」(法35条以下)で議論されます。

法によると、使われる先が大都市に偏らないようにすること(法16条4項)や、複数年度にわたる活動にもあてられるような(法16条5項)対応を要請しています。たとえば、①難病の子供を抱える家族への支援 ②児童養護施設の退所者や障害者の自立支援などが想定されています。

手続としては、内閣府が監督する「指定活用団体等」を通じて公益活動に携わるNPO法人や自治会などを公募し、選ばれた団体(資金配分団体)などに助成や、貸し付け、出資がされます。残念ながら現状では、NPOなど民間団体の一部には,補助金や寄付の使い方が適正でない例が散見されるところです。そこで休眠預金を使うことができる民間団体をいかに適切に選定するかが重要な課題となります。なお指定活用団体は一般財団法人で全国で1つとされています(法20条)。

簡単にまとめますと休眠預金は以下のような流れで使用されることになります。

金融機関 → 預金保険機構 → 指定活用団体 → 資金配分団体 → 現場の団体

移管       交付    助成・貸付  助成・貸付・出資

 

7 その他の課題

(1)預金者への周知

法の施行日は、預金保険機構の業務に関するものは公布日(平成28年12月9日)[6]から6月を超えない範囲内で、その他については公布日から1年6月を超えない範囲内でそれぞれ政令により定められます(附則1条)。

附則2条には、「施行日以後に最終異動日等から9年を経過することとなる預金等」について適用するとされています。また施行は平成30年1月1日以降になる見込みのようです。したがって、法の対象となる休眠預金は、平成31年1月1日以降の預金になると思われます。

施行後は法に預金者への通知・公告が必要とされておりますが、現在でも「休眠預金」という言葉を知らない人も多いという調査結果もあります。したがって金融機関のみならず政府においても一旦休眠預金とされても、預金者からの払戻要求があればこれに応じることとされている点を預金者に周知し、預金の払いもどしを受けられるという地位に変更がないことを理解してもらうことが必要だと思います。このように施行までに預金者に対する周知が最も重要だと思われます。

これに関連して英国や韓国では、預金者が休眠口座の情報をインターネットで検索できるシステムを構築し、預金者が金融機関から払い戻しを受けられるようにした例があります。これは休眠預金を少なくする方向に向けて工夫ですが、わが国でも参考になるものと思われます。

(2)その他の金融機関の対応

(1)の預金者に対する周知のほか、預金を預かっている金融機関においては、以下の対応が必要だといわれています。

まず、 休眠預金の定義・計上時期が法律上規定されたことで明確になりました。そこで現在金融機関で計上されている雑益勘定が計上できなくなりますので、これに対応することが必要です。金融機関になかには休眠預金の計上時期を5年間(注4)としているところが相当数あるといわれていますので、そのような金融機関においては、法により6年目から預金保険機構に移管するまでの間、その預金残高を管理するための会計処理とシステム対応が新たに必要になると思われます。

さらには預金保険機構への休眠預金の納付、同機構への求償金・手数料(法11条)の請求・受領等を確実かつ効率的に行うためには、金融機関の本部において、窓口を一元化したうえで、システムによる管理を行うことになると思われますが、その対応も必要です。なお、会計処理については、今後公認会計士協会等から具体的な要領が提示されるように思われます。[7]

 


[1] これまで、平成24年に民主党政権の下で休眠預金を民間の公益活動に役立てようという動きあり、いったん政権交代により中断しましたが、平成26年に自民党、公明党を中心に超党派の休眠預金活用推進議員同盟が設立され、具体的な検討が進むことになった経緯があります。

[2] 休眠預金活用推進議員連盟のホームページがこれまでの経緯と今後の予定などについて詳しく解説しています。また注7の文献をご参照ください。

[3] 法2条に定義があり、銀行法2条1項に規定する銀行、長期信用銀行法2条に規定する長期信用銀行、信用金庫、信用協同組合など16の金融機関が規定されています。

[4] 銀行のなかには10年ではなく、5年、さらには3年や2年と短期間としているところもあるようです。法2条6項には、「預金等であって、当該預金等を原資に係る最終移動日等から10年を経過したもの」と定義されています。

[5] 商事の場合は5年(商法522条)、民事の場合は10年(民法167条1項)です。

[6] 公布日は平成28年12月9日です。預金保険機構が休眠預金等管理業務の実施に必要な準備行為など公布日に施行されるものもあります(附則第1条2号)。

[7] 金融機関として留意すべき点については「金融法務事情」法務夜余話「休眠預金の活用」(2057号88頁)、「銀行法務21「休眠預金活用法と金融機関への影響」(810号4頁以下)に詳しい解説がされており、有益な資料といえます。

執筆者:森 恵一

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