コラム

Column

第4回 メンタル不調者の無断欠勤に対する懲戒処分の留意点


精神的な不調を理由として欠勤を続けた労働者に対する論旨退職処分について、これを無効とする最高裁判決(日本ヒューレット・パッカード事件 平成24年4月27日最二小判決、労働経済判例速報2148号)が出ました。
一審判決では、同処分は有効と判断されましたが、控訴審判決では無効と判断され、最高裁が控訴審判決に対する上告を棄却したものです。

同判決は「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば、上告人の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして論旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとは言い難い。」と判示しています。
一審判決をみますと、原告は一審では自らが精神的不調であることを前提とする使用者の配慮義務を主張してはおらず、控訴審になって、仮定的な主張として、このような主張を追加し、その主張が認められたものです。

判決で認定されている原告の被害妄想的な言動からは、明らかに異常と思われますので、最高裁判決の指摘するような措置をとるべきであったとすることに、あまり異論はないものと思われます。
しかしながら、同人の言動に照らせば、仮に使用者が同人に精神科医による健康診断の受診を命じていたとしても、受診しなかった可能性が高いものと思われます(判決文からは、原告の精神的不調を裏付ける診断書等は出されていないようですし、上記のような訴訟上の主張の推移からみても、原告自身は、訴訟を通じて自らの精神的不調は否定していたのではないかと推測されます。)。
そして、受診を拒絶した場合には、最高裁が判示する「治療」はもとより「休職」あるいは「経過を見る」といった配慮を行うこともおそらく困難であり、結局は解雇せざるをえないのではないでしょうか。もっとも、その場合でも、解雇に至るまでには種々の配慮が必要で(控訴審判決では、この部分が詳細に判示されています)、使用者は悩ましい立場に立つことになります。また、解雇するにしても要件の厳しい懲戒解雇ではなく、普通解雇を選択すべきものと思われます。

精神的不調と思われる言動から職場が乱される例は増えつつあると思われますが、その対処の仕方について参考となる点の多い事案ですので、ご紹介する次第です。