コラム

Column

第12回 反社会的勢力の潜在化

もうかれこれ1年近く前に起こった事件ですが,次のようなニュースをみつけました。

ある中学校の教頭は,評判の良い廃品回収業者の話を聞きつけました。早速連絡をとってみたところ誠実そうな印象を抱き,それ以来,中学校の廃品回収を依頼することとなりました。中学校と業者はそれからおよそ2年間取引を続けてきましたが,実際に業者が誠実に作業をこなし続けたこともあり,教頭がその後赴任した別の中学校においても改めて依頼することになりました。

赴任先の中学校では,業者とは正式に契約を締結することとなり,業者が持参した契約書に同校の校長が署名しました。当該契約書には,「市暴力団等排除措置要綱に基づく入札等除外措置を受けた時は契約を解除する」と明記されていたそうです。これが平成23年頃のことです。しかし,この業者は,実は現役の指定暴力団組員で,そのことを隠匿したうえで中学校の廃品回収業を請け負っていたのです。程なくして業者は,実在しない架空のリサイクル会社の印鑑を使い契約書を交わしたということで,有印私文書偽造・同行使罪で逮捕されました。

同校の担当者も,業者が暴力団に所属していると想起させる事情は一切見当たらず,しかも暴力団排除条項付きの契約書を持ってきた本人が組員であるとは思いも寄らなかったとのことです。

このように反社会的勢力は善良な仮面をして我々に忍び寄ってきますが,いつその善良な仮面を脱いで牙をむいてくるか分かりません。

 

平成4年3月1日に,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(いわゆる暴対法,暴力団対策法。)が施行されて以来,表だった不法行為は減少傾向が見られたものの,社会の裏側で潜在的に活動が行われるようになりました。

このような情勢に鑑みて,政府の犯罪対策閣僚会議は,平成19年6月には,幹事会申合わせとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」を策定し,反社会的勢力の資金活動の不透明化に対処するための指針を打ち出しました。平成22年4月に福岡県で暴力団排除のための総合的な規定が設けられた暴力団排除条例が制定されたのを皮切りに,平成23年11月には全国すべての都道府県で同条例が制定・施行されました。

社会全体で反社会的勢力排除の気運が高まり,上記のとおり国・地方公共団体による対策が厳格化する中,それでも反社会的勢力は巧妙に規制をかいくぐって,より社会に潜在化する形で活動を継続しています。経済活動に携わる企業としても,これまで以上に対策を講じて,反社会的勢力介入によるリスクを回避する必要があります。

 

対策としては,①表明保証条項や情報開示義務を規定するなど契約書の記載を工夫する,禁止事項を具体化し企業内ルールを整備する,専門対策部を設置する等,内部統制システムを充実化させる,②警察,暴力団追放センター,弁護士など専門家との連携を強化することが考えられます。

特に本件との関係に則せば,③取引の相手方に対する情報収集の強化も考えられます。上記専門家との連携を深め情報収集を図る他,過去の新聞記事が掲載されたデータベースの利用,インターネット検索,暴力団情報を掲載する週刊誌の検索等が考えられます。個人情報保護法との関係で壁はあるでしょうが,反社会的勢力の情報集約に特化したデータベースが構築されることが望まれるでしょう。

 

現在,反社会的勢力に対する対応はいたちごっこの状況にあります。だからといって,対策を怠ったりいい加減な対応をすることで,実際に反社会的勢力と関与してしまった場合,事後的な対応で甚大な労力・費用を要することとなります(蛇の目ミシン事件(仕手筋による恐喝に屈した会社が,多額の融資や債務の肩代わりを行い,会社に多額の損害を生じさせた事案。),神戸製鋼所株主代表訴訟(総会屋に対し,会社が継続的かつ組織的に利益供与を行い,会社に損害を生じさせた事案。)を参照)。

このような反社会的勢力介入によるリスクの高さを考えると,日頃から最新の対策・情報収集に神経をとがらせておく必要があるといえます。

以上