コラム

Column

第1回 子会社管理における親会社取締役の責任

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福岡で起きたひとつの事件が注目を集めています。グループ企業の破綻について親会社の取締役に任務懈怠責任を認めた福岡魚市場株主代表訴訟事件です。昨今、国内・国外でM&Aを積極的に展開する企業も多い中、子会社管理・支援の在り方に一石を投じる1事例として、ご紹介します。

 

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この事件の論点の1つは、株式会社福岡魚市場(親会社)の完全子会社が、ある特殊な取引(「グルグル回し取引」といわれています。)により不良在庫を抱えて経営危機に瀕していることが発覚した段階で、親会社が取締役会を開催して決議・実行した①救済融資と債務保証(以下「救済融資等」といいます。)、②債権放棄と新規貸付が問題とされたものです。被告とされたのは、親会社の取締役のうち、子会社役員を非常勤で兼務していた3名ですが、親会社の取締役としての善管注意義務違反・忠実義務違反の有無が争われました。
一審の福岡地裁判決は、子会社の損害拡大について親会社の取締役としての善管注意義務違反および忠実義務違反を認め、救済融資等について18億8,000万円の損害賠償責任を認めました(資料版商事法務327-51)。今年4月13日に言い渡された福岡高裁判決(商事法務1970-15)も一審判決を維持しましたが、取締役側がこれを不服とし、最高裁への上告および上告受理申立がなされています。

 

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従来、①子会社といえども親会社とは別個の法人格を有する以上、その運営については子会社の取締役が監視・監督すべきであって、特段の事情がない限り、親会社の取締役が責任を負うものではない、②特段の事情としては、子会社に指図するなどして子会社の意思決定を支配したと認められる等の場合に限定される、というのが一般的な考え方でした(例えば、東京地裁平成13.1.25判例時報1760-144)。
しかし、最近はグループ経営が一般化し、内部統制システム構築義務(会社法362条5項、4項6号、416条2項、1項1号ホ、会社法施行規則100条1項、112条2項)の観点からも、グループ全体での企業価値の向上やコンプライアンスの要請が高まっています。また、親会社の取締役としても、重要な資産である子会社株式の価値を毀損しないよう監視・監督するのは当然ともいえます(ちなみに、会社法改正要綱案ではいわゆる多重代表訴訟の創設が提案されていますが、多重代表訴訟の基本は、親会社の株主が子会社のために「子会社の取締役」に対して代表訴訟を提起できるというものですので、「親会社の取締役」の責任が問われた上記事件は、これと直接関係するわけではありません。)。
今回の判決は、従来の考え方をベースとしつつ、会社法下での子会社管理・支援の在り方に重要な1事例を加えたものと評価することができますが、これについて最高裁がどのような判断を示すか、注目されるところです。

 

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