コラム

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第157回 YouTuber「企業案件」契約の公開保証条項を考える

「企業案件」契約とは何か?
YouTuber/Vtuber等の動画投稿者が、クライアント企業の依頼を受けてPR動画を制作等することを、「企業案件」ということがあります。有償で依頼されることもありますが、PR対象商品の提供等と引き換えに、無償で[1]依頼されることもあります。
「企業案件」契約とは、クライアント企業が、YouTuber又はそのマネジメント事務所等との間で締結する契約です。法的には、企業が業務を委託し、YouTuber側がそれを受託する準委任契約(民法656条)と整理できるものもありますが、有償の「企業案件」契約の中には、請負(民法632条)の性質を有するものもあります。

公開保証条項とは何か?
この「企業案件」契約には、通常、いわゆる公開保証条項が盛り込まれています。その典型的な内容は、YouTuber側が、「企業案件」契約に基づいて制作する動画を、一定期間継続して公開する義務を負う、というものです。

公開保証の期間はどう考えるべきか?
YouTuber側の立場からみると、利用規約違反、著作権侵害等によるチャンネルまたはアカウントの停止、終了等により、動画を公開できなくなるリスクがあるので、公開保証の期間は、短いほうが有利です。いわゆるカップル系チャンネル[2]であれば、破局により、元カップルの一方から動画の削除を要求されるリスクもあります。
クライアント企業の立場からみると、公開保証の期間は、もちろん、長いほうが有利です。ちなみに、公開保証期間の「相場」について、雑誌等に掲載された「企業案件」契約書のひな形の中には、1年または6か月などの期間が記載されているものもありますが、実務では、そもそも契約書を締結しない案件もあることなどから、現時点では、はっきりとした「相場」があるとまではいえないのではないかと思います。

公開保証条項が定められなかった場合、クライアント企業の期待は保護されるか?
東京地判令和 3年10月14日(令和2年(ワ)11440号)[3]は、大要、
・委託者である原告クライアント企業が報酬648万円(税込)を支払い、受託者である
被告コンテンツ制作企業がPR動画を制作して人気YouTuberのチャンネルに動画を公
開した
・上記業務委託につき、契約書は作成されなかった
・公開から約3か月後に当該YouTuberのアカウントが削除された結果、PR動画の閲覧
が不可能になった
という事案です。
裁判所は、
・原告側が再生視聴の目標を公開後2か月間で50万回としていたこと
・同チャンネルに公開された動画の再生数は、公開当初に急増し、その後は微増にとど
まる傾向がみられること
等の事情を認定して、
・契約当事者の合理的意思解釈により、契約上、被告が少なくとも1年程度にわたり動
画の公開が継続する状況を作出する義務を負っていたと認めることはできない
と判断しました[4]
この裁判例自体はやや特殊な事案[5]について個別の判断を示したものですが、明文で公開保証期間が定められていなければ、648万円(税込)という相当の対価の支払いがあっても、一定期間継続して公開がなされるだろうという期待が当然に保護されるわけではないという点で、参考になります。
クライアント企業、YouTuber側いずれの立場で考えても、紛争を予防するためには、明文で公開保証期間を定めておくことが適当でしょう。

以上


[1] 業務委託料の支払いなしに。

[2] 夫婦、恋人等の「カップル」が共同で運営するチャンネル。

[3] ウエストロー・ジャパン文献番号2021WLJPCA10148019。

[4] 同裁判例は、そもそも原告側が「動画が削除されないであろうと期待したとは認め難い。」と認定しています。

[5] 詳細は裁判例DB等を参照してください。