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第154回 公益通報者保護法の改正への対応(後半)

前回のコラム(前半)に続き、公益通報者保護法の改正を受けて、事業者が、内部通報制度に関する制度や内部規程が改正法に対応した内容となっているかを確認し、必要な改訂をするにあたって留意すべき点についてご説明します。
第1 公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置
1 全体像
改正法では、事業者は「公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない」とされています(法11条4項)。
これには大きく分けて、以下の3つの措置があります。
(1)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備に関する措置
(2)公益通報者を保護する体制の整備に関する措置
(3)内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
上記(1)の内容として、指針[1]では以下の4つの措置を挙げており(第4.1(1)~(4))、前回のコラム(前半)では以下の(イ)までご説明しましたので、今回のコラム(後半)では、以下の(ウ)以降についてご説明します。
(ア)内部公益通報受付窓口の設置等
(イ)組織の長その他幹部からの独立性確保に関する措置
(ウ)公益通報対応業務の実施に関する措置
(エ)公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
2 公益通報対応業務の実施に関する措置(上記(ウ))
指針は、窓口で受け付けた内部公益通報について以下のような措置を講じるものと定めています。
(1)正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。
(2)調査の結果、法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置
をとる。
(3)是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認する。
(4)適切に機能してない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。
これまで内部通報制度を設けている事業者では、(1)や(2)については社内規程で定め、そのように運用していたことと思いますが、(3)や(4)についてまで社内規程で定めて運用していた事業者は、それほど多くないと思われます。
(3)や(4)のようにその後のフォロー(確認し、改めての措置を講じる)まで行うことは内部通報制度の担当部署には大きな負担となりますが、弊事務所で内部通報の窓口(社外窓口)を経験する中では、通報を受けて会社が調査して一定の措置は講じたものの、しばらく時間が経つと元の木阿弥になっていて、再び内部通報が寄せられることもあります(例えば、セクハラの内部通報で調査が行われ、対象者に懲戒処分や人事異動が行われても、暫くするとまたパワハラ行為に及ぶなど)。
この指針を踏まえ、半年後など一定期間を定めて確認するなど事業者側からアクションをとるという対応も考えられますし、通報者に対して調査結果等をフィードバックする際に「今後、もし問題があれば改めて連絡するよう」伝え、通報者側からのアクションとすることも考えられます(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下「指針解説」といいます)p10参照)。
3 利益相反の排除に関する措置(上記(エ))
指針は、「事案に関係する者」を公益通報対応業務に関与させない措置をとることを定めています。典型的な例としては、内部通報の調査や是正措置を検討する部署の人物に関する公益通報については、当該人物を関与させないことが挙げられます。
また、公益通報の社外窓口を顧問弁護士(顧問法律事務所)に委託している事業者も多いと思われます。通報者は、「社外窓口」なので事業者とは密接な関係がない弁護士(法律事務所)と思って公益通報を行うことも考えられますので、指針解説では、その旨(顧問弁護士である旨)を明示し、通報先を選択するにあたっての判断に資する情報を提供することが望ましいとされています(p12)。
従って、顧問弁護士に社外窓口を委託している事業者は、通報先を記載したイントラネット、ポスターやパンフレットに、社外窓口が顧問弁護士である旨を付記する、といった対応をとることが考えられます。
第2 公益通報者を保護する体制の整備
1 不利益な取扱いの防止に関する措置
指針は、公益通報をしたことによって不利益な取扱いがされることのないよう、以下のような措置をとるものと定めています(第4.2(1))。
(1)不利益な取扱いを防ぐための措置をとる
(2)不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとる
(3)不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる
(4)不利益な取扱いが行われた場合に、懲戒処分その他適切な措置をとる
改正前の公益通報者保護法でも、公益通報をしたことを理由とした解雇は無効とされ(法3条)、また降格、減給その他の不利益取扱いは禁止されていましたので(法5条)、内部規程や社内周知文書で、公益通報を行ったことにより解雇その他の不利益な取扱いを行うことはない旨を明記している事業者は多いと思います。
しかしながら、たとえそのように明記されていたとしても、通報しようとする者において、不利益な取扱いを受けるのではないかと危惧して通報を躊躇うことが考えられます。そこで、そのような懸念を払拭するために、指針解説では、(1)不利益な取扱いを防ぐための措置として、次のような例を挙げています(p13)。
・労働者等及び役員に対する教育・周知
・通報受付窓口において不利益な取扱いに関する相談を受け付けること
・被通報者が通報者の存在を知り得る場合には、被通報者が通報者に対して解雇その他
不利益な取扱いを行うことがないよう、被通報者に対して、その旨の注意喚起をする
等の措置を講じ、通報者の保護の徹底を図る
また、(2)不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置としては、例えば、通報者に対して事業者側からアクションをとって確認する方法もあれば、万一不利益な取扱いを受けた際には担当部署に連絡するよう、その旨と当該部署名を通報者に予め知らせておく、といった方法も考えられます。
事業者の中には、自社の労働者、役員、退職者からの通報だけでなく、関係会社や取引先からの公益通報を受け付けている事業者もあります。このような先からの公益通報がなされた場合には、自社だけでなく、関係会社や取引先における対応も必要となりますので、指針解説では、通報を受け付けた事業者において、以下のような措置等を講じることが望ましいとされています(p14)。
・通報者が解雇その他不利益な取扱いを受けることのないように、関係会社や取引先に
対して、通報者のフォローアップや保護を要請する。
・関係会社や取引先に対し、是正措置等が充分に機能しているかどうかを確認する。
 

2 範囲外共有等の防止に関する措置
指針は、事業者の労働者等が、必要のない他者にまで通報について伝えたり(範囲外共有)、あるいは通報者を探索することのないよう、以下の措置を講じるものとされています(第4.2(2))。
(1)労働者等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、もし範囲外共有が行わ
れた場合には適切な救済・回復の措置をとる。
(2)通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
(3)範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、懲戒処分その他の適切な措置をと
る。
(1)の具体例としては、まず物理的に、通報事案に係る記録・資料を施錠管理することが考えられます。そして、これを閲覧・共有できる人を必要最小限に限定して範囲を明確にし、記録の保管方法やアクセス権限等を内部規程等で明確に定めること等が指針解説で挙げられています(p15)。
(2)の具体例としては、内部規程で、通報者の探索を行ってはならないこと、もし行えば懲戒処分等の対象になることを定め、これについて教育・周知することが考えられます(同上)。
第3 通報対応体制を実効的に機能させるための措置
指針は、通報が適切になされるためには、労働者等、特に公益通報対応業務従事者が、法律や事業者の公益通報対応体制について十分に認識している必要があり、また事業者による周知だけでなく労働者等からの質問や相談に対する情報提供の仕組みが必要であるとして、以下の(1)~(4)の措置を講ずるものとしています(第4.3(1)~(4))。

 1 労働者等に対する教育・周知に関する措置
以下の2つの措置が指針で挙げられています。
(1)法律及び内部公益通報対応体制について、教育・周知を行う。公益通報対応業務従
事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分な教育
を行う。
(2)労働者等から寄せられる通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相
談に対応する。
(1)の例としては、イントラネット、社内広報、ポスター掲示だけでなく社内研修を行う、退職者であっても1年以内であれば通報できること等を在職中に伝えておく、といった対応が考えられます。特に従事者に対して、どのような教育や研修を行うのかは、公益通報の意義、機能、重要性を充分理解できるよう、各事業者において工夫が求められるところです。
 

2 是正措置等の通知に関する措置
書面で内部通報を受けた場合には、事業者は通報者に対し、通報を受けて是正に必要な措置をとったときにはその旨、対象事実が確認されなかったときはその旨をフィードバックするものとされています。通報の中には、差出人の記載なく郵便で届くものもあり、このような場合(通報者に対するフィードバックが出来ない場合)には勿論フィードバックは不要です。
 

3 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等への開示に関する措置
これまでも事業者では、通報に関する記録を作成していたと思いますが、指針は、記録の保管のあり方や、通報対応体制についての評価点検、労働者等に対する開示についても以下のとおり定めています。
(1)記録を作成し、適切な期間保管する。
(2)通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、改善を行う。
(3)運用実績の概要を支障がない範囲において労働者等に開示する。
上記のうち(2)としては、例えば、労働者等に対してアンケート調査を行うこと、従事者同士で通報対応業務の改善点について意見交換を行うこと、中立・公正な外部の専門家等による改善点等の確認、といった例が指針解説で挙げられています(p22)。
なお、事業者が受け付ける通報には、公益通報者保護法で定める「公益通報」(刑事罰や行政罰の対象行為に限られますので、実際に事業者が受け付ける内部通報のうちのごく一部と思われます)だけでなく、それ以外の通報も多く含まれていて、事業者において「公益通報」と「それ以外の通報」とを分けて管理してないことが多いと思われます。法律で求められているのは「公益通報」の運用実績の開示ですが、指針解説では、これを厳密に区別しての開示は不要としています(p22)。
 

4 内部規程の策定及び運用に関する措置
前回の法律コラム(前半)でご説明したように、指針で求められる事項については、事業者の内部規程において定めた上で運用することが求められています。消費者庁のwebサイトには、内部規程の例も挙げられていますので、このような規程例を参考にしつつ、指針で求められている措置のうち対応していない部分がないかチェックし、内部規程の改訂を検討する必要があります。
第4 終わりに
 指針で求められている事項は多岐に及びますが、法改正前から、事業者において既に運用し、また内部規程で定めていた事項も多いと思われます。この法改正を契機に、自社の実態や実運用を改めて見直し、2022年6月1日までに、自社の内部規程や体制の構築について検討されることをお勧め致します。
以上


[1] 「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を諮るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)