色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第154回 公益通報者保護法の改正への対応(前半)

2022/03/03

第1 はじめに

 2020年6月に成立した公益通報者保護法を改正する法律が、2022年6月1日に施行される予定です。
 改正法は、法律上保護される公益通報者の範囲を広げ(2条)、公益通報対応業務従事者に、通報者を特定させる情報についての守秘義務を課す(12条)等しています。
 また、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に対して、①公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること、②公益通報対応業務従事者を定めることを義務付けました(11条)。
 内部通報制度およびそれに関する内部規程を有している会社が多いと思いますが、2022年6月までに、自社の制度及び内部規程が、改正法に対応した内容となっているかを確認し、必要な改訂をすることが求められます。そこで、本コラムでは、各事業者が対応するにあたって留意すべき点について説明します。

 

第2 内部通報制度に関する規程の見直し

1 指針の策定
 改正法は、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に対して、①公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること、②公益通報対応業務従事者を定めることを義務付け、これらの事項について指針を定めることとしました(11条)。
 そして、この規定を受けて、2021年8月、消費者庁は、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号、以下、「指針」といいます)を公表しました。さらに、同年10月には、「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下、「指針解説」といいます)を公表しました。
 この指針は、改正法11条に定める事業者の措置義務の内容を具体化したもので、法的拘束力があります。事業者が指針に沿った必要な措置をとらない場合は、消費者庁による報告徴収、助言、指導、勧告の対象となり(15条)、勧告に従わない場合は公表されることがあります(16条)。
 従って、常時使用する労働者数が300人を超える事業者は、指針に沿った措置を実施する法的義務があります。他方で、常時使用する労働者数が300人以下の事業者は、努力義務にとどまります。
 

2 指針解説の参照が必要であること
 指針解説は、指針の項目ごとに、①その趣旨・目的・背景等、②指針を遵守するために参考となる考え方(指針の解釈等)や指針が求める措置に関する具体的な取組例を示しています。さらに、③指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例も示しています。
 事業者がとるべき措置の具体的な内容は、事業者の規模、組織形態、業態、法令違反行為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等によって異なると考えられており、各事業者は、上記②の具体例を採用しなくても、事業者の状況に即して、指針解説に示された具体例と類似又は同様の措置を講じる等、適切な対応を行えばよいとされています(指針解説3頁)。
 従って、各社において、指針解説が示す具体例を参考にしながら、事業者に求められる措置の内容を一つ一つの個別具体的に検討して、各社の状況に即した措置を講じることが求められます。指針解説は、分かりやすく記載されていますので、その原文を参照しながら対応を進めてください。
 

3 内部規程の定めが必要であること
 指針で求められる事項については、内部規程に定め、当該規程の定めに従って運用することが必要です(指針第4の3(4)、指針解説23頁)。これは、担当者が交代することによって対応が変わったり、対応がルールに沿ったものか否かが不明確となる事態が生じないようにする観点から、ルールとして明確にすることを求めるものです。
 従って、内部規程には定めることなく、運用で対応するというのでは不十分です。内部規程の見直しが必要であることにご留意ください。
 

第3 内部規程の見直しにおいて確認すべき点

 次に、各社において、内部規程の見直しの際にチェックすべき内容について、ご説明します。

1 通報者の範囲の拡大
 改正前は、法律上保護される公益通報者は「労働者、派遣労働者、請負契約による労働者」に限定されていましたが、以下の者が追加されました(法2条1項)。
①労働者であった者(退職後1年以内)
②1年以内に派遣労働者であった者
③1年以内に従事していた請負契約による労働者
④役員
 従って、各社では、内部規程で通報を受付ける対象者として上記①~④が含まれているか確認し、含まれていなければ規程を改訂する必要があります。
 なお、「④役員」については、過去に役員であった者は含まれていません。また、「④役員」の事業者内部への通報の保護要件は労働者等と同じですが、事業者外部に行う公益通報が保護されるためには、原則として事業者内部で調査是正措置をとることに努めたことが必要とされています(法6条2号イ・3号イ)。
 

2 通報対象事実の範囲
 改正前の公益通報者保護法における通報対象事実の範囲は、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(対象法律)に規定する罪の犯罪行為の事実」(刑事罰の対象となる規制違反行為の事実)に限られていました。改正法により、「対象法律に規定する過料の理由とされている事実」(行政罰の対象となる規制違反行為の事実)が追加されました(法2条3項)。
 従って、各社において、内部通報制度に関する内部規程の通報対象事実に、上記追加された事実が含まれているかを確認する必要があります。
 もっとも、各社の内部規程では、対象法律を列挙してその違反行為という形で通報対象事実を限定することなく、より広く通報対象事実を定めている例が多く、この点について改訂を要する内部規程は多くないと思われます。
 

3 公益通報対応業務従事者の指定
(1)従事者の範囲
  改正法は、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に、公益通報対応業務従
 事者を定めることを義務付けています(11条1項)。
  指針は、従事者として定めなければならない者の範囲を「①内部公益通報受付窓口に
 おいて受付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、②当該
 業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者」と定めています。
  要件①については、職制上のレポートラインによって部下から報告を受けることまで
 含めると通常業務に制約が生じるので、「内部公益通報受付窓口において受付ける」も
 のに限定し、上司が部下から法令違反行為の報告を受け、事実確認等の対応を行う場合
 については、その上司を従事者として指定する必要はないこととしたものです。
  また、指針解説は、「受付、調査、是正に必要な措置の全部又はいずれかを主体的に
 行う業務及び当該業務の主要部分について関与する業務を行う場合に『公益通報対応業
 務』に該当する」としています(5頁)。例えば、調査におけるヒアリング対象者、調
 査担当者から資料提出要請を受けてこれに応じる者、品質不正事案において品質の調査
 を行う者等、公益通報の内容を伝えられ受動的に関与するにすぎない場合は含まれない
 ことになります。
  従事者としては、ホットラインを所管するコンプライアンス部、総務部、CSR部門
 の担当者や、これらのレポートラインにある取締役、幹部等からの独立性を確保した措
 置としてホットラインの案件について報告を受ける監査役、社外取締役、社外窓口担当
 者等を指定することが想定されます(包括指定)。また、ある事案について調査の委託
 を受けて調査を担当する者等、当該事案についてのみ上記①②の要件を満たすことにな
 る場合、必要が生じた都度、従事者として指定をすることになります(個別指定)。
 
(2)従事者の守秘義務
  改正前は、公益通報に関して守秘義務の規定は置かれていませんでした。改正法は、
 公益通報対応業務従事者に対し、公益通報対応業務に関して知り得た、通報者を特定さ
 せる情報の守秘を義務付けました(12条)。ただし、「正当な理由」がある場合(通
 報者に十分に説明して同意を得た場合、調査を進めるためにやむを得ない場合等)を除
 くとされ、守秘義務に違反した者については、30万円以下の罰金の対象とされていま
 す(21条)。過失による漏えいについての規定はありませんので、故意犯のみが刑罰
 の対象となります。
  法律上の守秘義務が課せられるのは、11条1項で定められた「公益通報対応業務従
 事者」と「公益通報対応業務従事者であった者」です。事業者から従事者として指定さ
 れていない者は、法定の守秘義務は負わないことになります。
  もっとも、その場合であっても、内部規程に定められた守秘義務違反として懲戒処分
 の対象となることはあります。また、事業者が従事者として指定すべき人物を指定しな
 かった場合、範囲外共有を防止する体制に不備があったとして、事業者が内部公益通報
 対応体制整備義務違反の責任を問われることがあります。
 
(3)従事者を定める方法
  指針は、従事者の指定にあたっては、書面により指定をするなど、従事者の地位に就
 くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法によることを求めています。
  従事者に対して個別に通知する方法の他、内部規程等において部署・部署内のチーム
  ・役職等の特定の属性で指定する方法もあるとされています(指針解説6頁)。その
 場合においても、従事者となる者自身に従事者の地位に就くことを明らかにする必要が
 あります。従事者として指定する者には、そのことを伝えた上で、従事者としての研修
 を受講させ、守秘義務等に関する誓約書を提出させるといった対応が考えられます。
 

4 公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置
 改正法が常時使用する労働者数が300人を超える事業者に義務付ける措置について、指針は、(1)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備、(2)公益通報者を保護する体制の整備、(3)内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置、の3つに大きく分けてそれぞれ具体的に定めています。

(1)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備
 (ア)内部公益通報受付窓口の設置等
   指針は、内部公益通報を部門横断的に受付ける窓口を設置し、内部公益通報を受
  け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定めることを求め
  ています。
   設置する窓口は、個々の事業部門から独立して、特定の部門からだけではなく、全
  部門ないしこれに準ずる複数の部門から通報を受付けるようにすることが必要です
  (指針解説7頁)。

 (イ)組織の長その他幹部からの独立性確保に関する措置
   指針は、組織の長その他幹部に関する事案については、これらの者からの独立性を
  確保する措置をとることを求めています。
   幹部が主導したり関与している法令違反行為では、これらの者が影響力を行使した
  り、従事者が幹部等の不当な影響力をおそれることにより、実効的な調査、対応が行
  われない事態が生じかねないことから、幹部から独立した内部公益通報対応体制の構
  築を求めるものです。
   既に内部公益通報受付窓口を事業者の外部に設置している会社は多いと思います
  が、通報の受付けに関する独立性を確保するのみならず、調査及び是正に関しても独
  立性を確保する措置が必要とされています(指針解説8頁)。
   具体例としては、幹部が関わる通報については社外取締役や監査機関(監査役、監
  査等委員会、監査委員会等)にも報告を行うようにする、社外取締役や監査機関から
  モニタリングを受けながら公益通報対応業務を行う仕組みが考えられます。

(後半につづく)

 

 

執筆者:髙橋 直子

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