色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第110回 アカウント利用停止措置(いわゆる垢BAN)対応のまとめ

2017/10/16

1 このコラムの目的
 SNSのアカウント凍結が話題となっていますが、アカウント利用停止措置(いわゆる垢BAN[1])一般について法的に解説したものはあまり見当たりません。市販の書籍も、「利用規約違反があればアカウント利用停止措置ができる」程度の言及にとどまるものが多いと思います。本コラムは、私が日常の法律相談対応のため調べて得た知識と私見を、簡単なまとめとしてご提供するものです。
 

2 ユーザーからみたアカウント利用停止措置
 ⑴ 現状
  SNSやオンラインゲームにおけるアカウント利用停止措置の多くは、ユーザーが当該
 SNS等の利用規約に違反する行為をしたことを理由としてなされます。国民生活センタ
 ーが公表している「よくある情報提供」等によれば、運営者からユーザーに対して利用
 停止の理由が説明されないこともよくあるようです[2]
 ⑵ 訴訟によるアカウント復活は可能か
  アカウント復活請求の可否について通説的見解は存在しないようですが、実際の裁判
 例として、アカウント利用停止措置を受けたユーザーから運営者に対して、
 ・SNSのアカウントを利用できる旨のサービス利用契約上の地位にあること
 ・SNSのサービスを引き続き提供すること
 等を請求した例があります[3]
  この裁判自体は請求棄却(つまり、ユーザー側の敗訴)で終わりました。しかしなが
 ら、「訴えの却下」ではなく「棄却」ですから、アカウントを利用できる地位につい
 て、「確認の利益なし」と判断して門前払いしたわけではなく、きちんと審理をしてい
 ます。この裁判例は、SNSの利用規約の中の禁止条項の意味を解釈し、ユーザーの行為
 が当該禁止条項に該当するか否かを丁寧に認定しています[4]
  したがって、実務上も、アカウントの利用停止措置に対して、訴訟により、アカウン
 トを利用できる契約上の地位の確認」を請求し、アカウントの復活を試みる価値はある
 ことになります[5]。個人だけでなく、企業によるアカウント開設が一般的になった現
 代では、企業の法務部においても、このような請求ができる可能性を認識しておくこと
 は重要と思われます。
 ⑶ 利用停止措置により想定される利益侵害
  利用者の主張として想定されるのは、利用停止措置の根拠である利用規約の無効、利
 用契約への利用規約の組入れの否認、利用停止措置の権利濫用該当性等ですが(「3」
 で後述します)、いずれの主張も、利用停止措置により利用者の何らかの利益が侵害さ
 れることがその基礎にあるはずです(実質的に不利益のない措置であれば、裁判所が救
 済してくれる可能性は高くないと思われます)。この点に関する利用者の主張としては
 ①アカウントを利用できる地位という財産的利益
 ②アカウントの利用に付随する財産的利益
 ③人格的利益
  等が想定されます。
  ①は、利用自体が有償の場合には、その地位の財産的価値が認められやすいと思いま
 す(「基本無料」であっても、別途課金している場合を含みます。)。
  ②は、上記裁判例における利用者(原告)の主張が参考になります。同裁判例の原告
 は、当該SNS自体を無料で利用していたと思われるものの、SNS上で利用できるポイン
 トの価値相当分を損害として主張したようです。上記裁判例は損害を論じていません
 が、「ポイント」により(「ガチャ」等の)何らかのサービスが受けられるSNS等であれ
 ば、(仮に無料での利用であったとしても)「ポイント」等を財産的利益と主張すること
 が想定されます。
  ③も、上記裁判例における利用者(原告)の主張が参考になります。この点、上記裁
 判例の判示によれば、原告は、「(当該SNSに)掲載していた日記、ハムスター等の写
 真及び動画の閲覧ができなくなったこと」、「(当該SNSを)通じてのみ連絡が取れて
 いた友人と連絡が取れなくなったこと」を「精神的損害」として主張しています。日記
 等を閲覧できないことが財産的損害とは別個の精神的損害を構成するかは、個別の事案
 によると思いますが[6]、友人と連絡をとる利益については、社会的交際関係も人格的
 利益の一種として不法行為法の保護を受けるとされていることから[7]、①②に吸収さ
 れない別個の利益を構成する、と主張することも十分に想定されます。その他、利用停
 止措置に至る過程におけるプライバシー侵害(注4参照)を人格的利益の侵害と構成す
 る主張も想定されます。
 ⑷ 損害
  また、同時に損害賠償請求がなされた場合には、上記⑶の①②③のような利益の金銭
 的評価を中心に損害(の額)について主張がなされることになると思います。
 

3 運営者からみたアカウント利用停止措置
 ⑴ 根拠は利用規約
  上記裁判例のような考え方に従うのであれば、運営者によるアカウント利用停止措置
 の根拠は「利用規約の禁止行為に該当する行為を行ったこと」になります[8]。そこで
 ・利用規約には「禁止事項」と「違反した場合に利用停止措置ができること」を必ず規
  定する
 ・上記裁判例でも「禁止事項」の解釈が争われていることから、「禁止事項」は明確か
  つ具体的に定める
 ・利用規約の禁止行為に該当する事実をスクリーンショット等で証拠化する
  以上のような対策を事前に行っておくことが有用と考えられます。地位確認請求訴訟
 を提起された場合、上記裁判例のように確認の利益が認められるときには、具体的に規
 約違反の事実の立証を求められると思われますので、証拠化は重要です。
  プログラムにより機械的に特定の単語を使用したユーザーに対して利用停止措置を行
 うタイプのサービスでは、そもそも禁止条項該当性を意識していない例も多いと思われ
 ますが、大原則は明確かつ具体的な禁止条項の整備です。
 ⑵ 利用規約の契約への組入れ
  せっかく整備した利用規約も、ユーザーとの間の契約に組み入れられなければこれを
 根拠にアカウント利用停止措置をなすことはできません。ざっくりと説明しますと、利
 用規約を契約に組み入れるためには、
 ①ユーザーが利用規約の内容を事前に容易に確認できるように適切に利用規約をウェブ
  サイトに掲載して開示されていること
 ②ユーザーが開示されている利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定
  できること
  の2点が重要です。具体的には、会員登録する際の申込み画面に利用規約へのリンク
 を掲載する等のサービス構築が必要になります[9]
 ⑶ 禁止事項に該当する行為をしていない場合にアカウント利用停止措置をすることの
  可否

  ア 運営者の判断でいつでも利用停止措置ができる旨の規約を根拠とする場合
    この場合は、ユーザーの利益を一方的に害するとして、消費者契約法10条又は公
   序良俗違反等を理由に当該規約を無効と判断される可能性、利用停止措置自体を権
   利濫用と判断される可能性があります。
  イ 契約、規約を離れ、条理等を根拠とする場合
    Twitter、2ちゃんねる[10]等の投稿記事においては、実務上、人格権に基づく
   投稿記事の削除も認められており、投稿者だけではなく投稿がなされた掲示板等の
   管理運営者も条理等により削除義務を負う場合がありますが、法的に削除請求権が
   認められるのは、掲示板等の投稿のうち権利侵害部分だけであり、スレッドや掲示
   板丸ごとの削除は認められない、という説が有力です。削除請求の議論を参考にす
   れば、あるアカウントにおいて、一部に権利侵害的な書き込みがあったとして規約
   によらずに条理によりアカウント全部の利用停止措置を行った場合にも、訴訟で争
   われる可能性はありそうです。
 ⑷ 警告メッセージを送信する意味
  上記裁判例では、運営者がアカウント利用停止措置の前にユーザーに対し警告のメッ
 セージを送信し、ユーザーも自身の行為が利用規約に違反し措置の対象となることを認
 識できたことから、利用停止措置がユーザーに対する違法な行為とならない旨判示され
 ています[11]
  実務上の対応としても、利用停止措置の前に警告のメッセージを複数回送付し、ユー
 ザーに対し自己の行為が利用規約に違反し措置の対象となることを知らせておくことは
 措置が違法と判断されるリスクを減らすだけではなく、ユーザーに措置について納得さ
 せ訴訟リスクを減らすという意味があるものと思われます。

以上


[1] http://www.weblio.jp/content/%E5%9E%A2%E3%83%90%E3%83%B3

[2] http://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2014_45.html

http://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2013_03.html

[3] 東京地判平成27年4月8日(判例時報2221号70頁)。公刊物未収録の裁判例としては、オンラインゲームのアカウントを利用できる地位を確認した例もあるようです。

[4] 非常にざっくりと説明すると、運営者は、他のユーザーに出会い目的のメッセージを送ったことを理由として問題となる措置をしたようです。この点、労働裁判例において、企業による従業員のメール監視は「必要かつ合理的な範囲内」で許容されると判断されていることから、もしもユーザー側が運営者によるメッセージ監視の点を争った場合にはどうなるのか、プライバシーとの衝突があることから、非常に興味深いと思います。企業秩序のために一定の範囲で労働者のプライバシーを制約することは認められるとしても、オンラインゲーム(MMO世界?)の秩序のために一定の範囲でユーザのプライバシーを制約することは、当然に認められるものでしょうか。

[5] もちろん損害賠償請求を試みることも考えられます。上記裁判例も債務不履行、不法行為による損害賠償を同時に請求しています。

[6] 例えば、数千時間以上プレイしたオンラインゲームのアカウントについて利用停止措置を受けた場合、利用者側代理人は通常精神的苦痛を主張すると思われます。

[7] 新注釈民法(15)・324頁等。

[8] この点を問題とした裁判例や文献は見当たりませんでしたが、契約法的に、利用規約違反による利用停止措置は、解除条項に該当するとして契約の全部又は一部を解除する「解除権の行使」であるのか、それとも、利用契約に基づきユーザーの契約上の権利義務を変更するものであって契約関係自体は残るのか(あくまで「停止」であり、ユーザーの謝罪等による「復活」もありえることも考慮すれば、後者の構成もそれほど不自然ではないように思えます。)、どちらを原則として解釈すべきか、事例の蓄積を待ちたいと思います。

[9] 利用規約の契約への組入れ及び利用規約変更時についてはこれだけで別途コラムが一本書けてしまう分量のため、その概要は経産省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」25頁以下等をご参照ください。

[10] 最近の「5ちゃんねる」の登場(?)を受けて、投稿記事削除請求の実務がどのように変化していくのかという点も非常に興味深いところですが、省略します。

[11] その意味するところは必ずしも明確ではありませんが、上記裁判例では不法行為に基づく損害賠償も請求されていたことから、裁判所としては、不法行為の違法性について判断したものと思われます。

執筆者:増田 拓也

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