色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第142回 固定資産税をめぐる訴訟について

2020/09/02

1.はじめに
 最近,固定資産税をめぐる訴訟が多く提起され,注目すべき裁判例もいくつか出されています。このコラムでは,固定資産税をめぐる訴訟の概要について説明したいと思います。
 ご承知のとおり,土地,建物や償却資産に対する固定資産税[1]は市町村が課税する地方税の一種であり,原則として,その所有者に対して賦課されます(地方税法343条1項)。所有者等の納税者が,この固定資産税の金額や固定資産の評価額[2]が不適当であるとして市町村に申入れた場合,もし市町村において「過誤納」であると判断すれば,更正のうえ地方税法に基づく還付[3]が行われます(同法17条)。
 しかしながら,市町村において「過誤納」とは判断しない場合や,払い過ぎた固定資産税について地方税に基づく還付分を超えて納税者が返還を求める場合には,納税者が訴訟を提起することも選択肢となります。その場合,固定資産税の金額や固定資産の評価額に不服があるとして市町村に対して訴訟等が提起されますが,大きく分けて次の2つのケースがあります。
 ① 固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」といいます)に対する審査の申出
   (同法432条1項)を行い,審査委員会において申出が認められない場合に,審査
   委員会の決定に対する取消訴訟(同法434条)を提起する
 ② 地方自治体の長や徴税吏員の職務執行に注意義務違反があったとする国家賠償請求
   訴訟を提起する

 以下,それぞれの手続について概説します。

2.①審査申出及び取消訴訟について
(1)基準年度
  固定資産の評価額については,3年に1度「評価替え」が行われており,この評価替え
 の年度を「基準年度」といいます。直近では平成30年が基準年度でしたので,次は令和
 3年です。
  固定資産税の賦課期日は毎年1月1日で(同法359条),基準年度の固定資産税を算定
 するための課税標準額は,土地課税台帳や家屋課税台帳等(以下,単に「課税台帳」と
 いいます)に登録された金額をいいます(同法349条1項)。また,第2年度・第3年度
 (基準年度の翌年度・翌々年度)の課税標準額は,基準年度の額が原則として引き継が
 れますが,土地の区画・形質の変化など特別の事情があった場合には変更されることが
 あります(同法349条2項以下)。
  課税台帳に登録される価格(以下「登録価格」といいます)は「適正な時価」である
 必要があり(同法341条5号),審査申出では,この登録価格が「適正な時価」かどう
 かが審理されます。

(2)審査申出の手続
  納税通知書の交付を受けた日の後3ヶ月を経過するまでの間に審査委員会に対して審
 査の申出をすることができます(同法432条1項)。納税通知書は,多くの市町村では4
 ~5月頃に所有者等の納税者のもとに郵送で届きますので,もし不服があれば7~8月頃
 までには審査の申出を行う必要があります。

(3)審査申出の要件
  基準年度ではない年度(第2年度,第3年度)に関しては,当該不動産について「地目
 の変換,家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」が生じた場合を除き,
 審査の申出をすることができません(同法432条1項,同法349条2項1号)。
  一方で基準年度に関しては,このような制限はありません。

(4)審査委員会における審理
  審査委員会はそれぞれの市町村に設置される中立的な機関で,申出をした納税者と市
 町村の担当部局双方の意見を聞いて審理を行い,審査申出にそれなりの理由がある場合
 には審査委員会が適正と判断した評価額を決定し,審査申出に理由がない場合には却下
 又は棄却の決定を行います。

(5)取消訴訟の提起
  納税者において,審査委員会の決定に不服があるときは,決定を知った日の翌日から
 起算して6ヶ月以内に,市町村を被告として[4]取消訴訟を裁判所に提起することができ
 ます(同法434条1項)。

(6)取消訴訟における審理
  この取消訴訟では,固定資産の登録価格が違法なものかどうかが審理されます。固定
 資産の評価に関しては,その基準,評価の実施方法や手続について,総務大臣の定めた
 評価基準が告示されています(昭和38年1月25日自治省告示第158号)。日本全国には
 膨大な数の不動産(土地,家屋)があり,各市町村によってその評価基準や評価方法が
 区々だと地域による格差や不公平が生じるため,全国一律の基準を定めたものです。
  もっとも,これは全国一律の基準ですので,個別具体的な基準や評価の実施方法につ
 いては,市町村ごとに要綱や要領を作成するなどして,その市町村の不動産の状況等に
 応じた基準や評価方法などを定めています。
  さて,取消訴訟では登録価格が「適正な時価」かどうかが審理されますが,この「適
 正な時価」の意味について,最高裁判所は「正常な条件の下に成立する当該土地の取引
 価格,すなわち,客観的な交換価値をいう」との判断を示し,「土地課税台帳等に登録
 された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば,当該価格の決
 定は違法となる。」と判示しました(最高裁判所平成15年6月26日第一小法廷判決)。
 この判決だけを踏まえると,例えば,Aという土地については登録価格が100万円とさ
 れているところ,この土地の客観的な交換価値が90万円であることを鑑定評価書などを
 提出して訴訟で主張立証すれば良い,と思われるかもしれません。しかしながら,国が
 「評価基準」を定めて市町村の徴税吏員はこの基準に従って不動産を評価しているの
 に,1個1個の不動産について,(この「評価基準」によらずに)客観的な交換価値に
 ついて審理するとすれば,応訴する市町村には過大な負担がかかりますし,裁判所にも
 多数の訴訟が持ち込まれることになりかねません。
  そこで最高裁判所は,以下のような判断枠組みを示しました(平成25年7月12日第二
 小法廷判決)。
  すなわち,登録価格の決定が違法となるのは,登録価格が
  ① 当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回
    るものであるときか,又は,
  ② これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として
    一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価
    を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって,当該土地の
    客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき
 である。
  この考え方に従えば,徴税吏員が,評価基準の定める評価方法に従って決定した場合
 には,登録価格=評価基準による価格となるので,①には該当しません。そのため納税
 者の側で,②評価基準の定める評価方法に合理性がないか,又は,その評価方法によっ
 ては適正な時価を適切に算定することができない「特別の事情」があること,また土地
 の客観的な交換価値としての適正な時価を上回ること,を主張立証して初めて登録価格
 の違法が認定されることになります。

3.②国家賠償請求訴訟について
 地方税法では,「固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同項[5]及び前項[6]の規定によることによってのみ争うことができる。」と定めています(434条2項)。この条文に照らせば,登録価格に不服がある納税者は別途の国家賠償請求訴訟は提起できないのではないか,という疑義が生じます。しかしながら,審査の申出については前述のとおり不服申立ての期限が定められていますので,過年度に審査の申出を行っていなければ登録価格について争う道が閉ざされ(特に,第2年度,第3年度については審査の申出が特段の事情のない限り認められません),そのため固定資産税の返還を受けられないことになります。
 この点について最高裁判所は,次のような判断を示しました(平成22年6月3日第一小法廷判決)。
 「地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって,当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない」
 「たとえ固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである」
 以上のように,不動産の登録価格に不服がある場合には,審査の申出を経て取消訴訟を提起する方法のほかに,公務員が職務上の法的義務に違背したという要件を主張立証できるのであれば国家賠償請求訴訟も提起することが可能とされています。

4.さいごに
 最近出された最高裁判決(令和2年3月24日第三小法廷判決)は,ある年度の固定資産税等の税額が過大に決定されたことによる損害賠償請求権は,その年度の固定資産税等にかかる賦課決定がされて所有者に納税通知書が交付された時から20年間の除斥期間が進行する旨を明らかにしました。この裁判で争われた事例は,昭和57年に新築された家屋の評価に誤りがあり,これを基礎に算出されたその後の毎年の評価にも誤りがあり,納税者は,毎年,過大な固定資産税等を納付したことにより損害が生じたとして,過去20年に遡って過大に納付した固定資産税等相当額の損害賠償を求めたものです。課税誤りが起きたのは家屋が新築された翌年の昭和58年のことで,それ以降の徴税吏員は,過去の評価を基礎にして評価して税額を決定したのですが,最高裁判所は,違法行為と損害は,所有者に納税義務を生じさせる賦課決定等を単位としてみるべきで,損害賠償請求権は年度ごとに発生するという解釈を示しました。
 つまり,現在の徴税吏員が従来の判断を踏襲して固定資産の登録価格を決めて賦課決定を行ったときでも,毎年の公務員の職務の違法性が問題にされ得ることが明らかにされました。
 これまでも固定資産税等をめぐる訴訟は多く提起される傾向にありましたが,最高裁判所が上記のような判断を示したことによって,更に注目されて訴訟に至る事例が増えるかもしれません。市町村で徴税業務に携わる職員の方々にとっては,膨大な数の不動産の評価を行い税額を決定する中でも相応の注意を求められることになります。裁判でも判断基準になるのは主に「評価基準」の定める評価方法に従って決定されているか否かですので,これに依拠しているかどうか,これまで以上に問われることになります。

以上


[1] 固定資産税の課税標準額を基準として都市計画税も賦課されます(同法702条1項2項)。そのため固定資産税評価額が適当ではない等として訴訟を提起する場合には,併せて都市計画税についても訴訟が提起されることが多いですが,本コラムでは固定資産税に限定してご説明します。また,償却資産に係る固定資産税は本コラムの対象外とし,不動産(土地,建物)に係る固定資産税について解説します。

[2] 固定資産税の金額や評価額ではなく,固定資産税の賦課手続などに違法があるとして争う場合には,行政不服審査法に基づく審査請求,また課税処分の取消訴訟といった手続があります。

[3] 原則として過去5年分に限られます(地方税法17条の5)。

[4]その場合の代表者は,市町村長ではなく固定資産評価審査委員会です(地方税法434条の2)。

[5] 固定資産評価委員会に対する審査の申出

[6] 取消訴訟

執筆者:小林 京子

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