色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第137回 アドバネクス株主総会決議取消判決

2020/05/19

 平成31年3月8日、東証一部上場企業の精密ばねメーカーである株式会社アドバネクス(以下、「Y社」と呼ぶことにします。)の株主総会役員選任決議が取り消されるという興味深い東京地裁判決[1]が言い渡されました。そして、原告・被告とも控訴後、昨年(令和元年)10月17日に原告の請求を棄却ないし却下する控訴審判決[2]が出されました(令和2年5月現在、上告受理申立て中)。本件では色々と争点がありますが、特に法人株主の担当者が総会に出席する場合の議決権の取扱いについては今後の株主総会の参考になると思われますので、本コラムで紹介いたします[3]

 
1 争点
 平成30年6月21日のY社の株主総会で事件は起きます。取締役選任の議題の際に、取引先持株会の理事長から会社提案に実質的に相反する修正動議が提出され、書面投票が行われることになりました。この書面投票において、持株会の理事長は、電子投票により事前に会社提案に賛成する旨の議決権を行使していたにもかかわらず、修正動議に賛成票を投じました(争点①)。また、Y社の株主であるO銀行は、事前に会社提案に賛成する旨の議決権行使書を提出した上で担当者を総会に出席させていましたが、この担当者は書面投票の際に傍聴に来ているに過ぎないと述べた上で投票用紙を提出しました(争点②)。議長の交代や会場の移動などすったもんだがあったのですが、最終的には、
 ・持株会の議決権は修正動議に賛成(会社提案に反対)
 ・O銀行の議決権は会社提案に棄権
と取り扱って、Y社は集計しました。そして、会社提案は否決され、修正動議は可決されました。
 原告は、会社提案が可決されていたとして同提案にかかる取締役の地位確認[4]、修正動議の不存在確認を求めて東京地裁に訴えを提起しました。第1審では、持株会の議決権は会社提案に賛成、修正動議に反対としてカウントするべきであり、取消事由があったと判断されました。他方、控訴審では、持株会の議決権につき第1審と同様の判断が行われ、実質的には原告勝訴に近い内容の判決ですが、取消しの対象となっている決議により選任された役員が既に辞任しているため、訴えの利益がないと判断されています。
 裁判では複数の争点がありましたが、今回は、①持株会の議決権、②O銀行の議決権の取扱いについて検討します。

 
2 争点①
(1)概要
 争点①は、持株会の理事長が総会当日に行った修正動議に賛成する旨の議決権の代理行使が有効となるのかが問題になりました。

(2)裁判所の判断(第1審及び控訴審とも同じ判断)
 裁判所は、本件の修正動議は事前に持株会会員の意思確認がなされたものではないため、会員から修正動議について明示的な特別の指示があったとはいえない。そこで、持株会の理事長は会員から、原案(会社提案)に関する指示(意思)から合理的に導き出せる内容により議決権行使をする権限(代理権)が与えられていると述べました。
 そして、会社提案に賛成するとの会員の指示(意思)からは、修正動議に反対すべきことが合理的に導き出されるため、結論として、修正動議に賛成する旨の理事長の議決権行使は無効であると判断しました。

(3)検討
 会社提案など事前に議案内容が分かっているような場合には、総会までに会員の意思確認ができますので特段問題は生じません。問題となるのは、本件のように事前に会員の意思確認を行うことができない動議です。
 裁判所は、このような場合でも、あくまで持株会の理事長の議決権行使は、株主である各会員の意思に基づくことを前提にしています。したがって、修正動議に賛成する旨の代理権行使は代理権の授与者である各会員の意思に反する無権代理ないし権限濫用だとして、議決権行使の場面でも民法・商法上の代理と同様に考えるという姿勢が示されています。

 
3 争点②
(1)概要
 争点②は、事前に議決権書を提出していた法人株主の担当者が総会当日に入場したことをもって、事前の議決権行使が撤回されるか否かが問題となりました。
 すなわち、O銀行は事前に会社提案に賛成する議決権行使書を提出していましたが、総会当日、O銀行の担当者は書面投票の際、Y社に対して傍聴に来ているに過ぎないと述べた上で白紙の投票用紙を提出しました。この白紙の投票用紙か、事前の議決権行使書のいずれが有効となるのかが争われました。

(2)裁判所の判断
 第1審では、O銀行の担当者を職務代行者であると述べた上で、O銀行は当日出席という扱いになったため、事前の議決権行使が撤回されたと判断されています。
 他方、控訴審は、書面による議決権行使の制度は株主の意思をできる限り決議に反映させるために株主自身が株主総会に出席することなく議決権行使できるためのものであると判示した上で、Y社が確認している株主の意思に従って議決権行使を認めるべきだと述べ、結論としては、当日の白紙投票ではなく、事前の議決権行使書を有効だと判断しました。

(3)検討
 控訴審は、法人株主の使用人が会場に入場して物理的に「出席」していても、議決権行使の代理権が授与されていない場合には法律的には出席したとは評価できないため、「株主総会に出席しない株主」(会社法298条1項3号)に該当し、事前の書面による議決権行使は撤回されないと判断しています。
 実際上、書面による議決権行使を行った法人株主の使用人が会社から代理権[5]まで与えられることなく総会当日に入場することはままあることですし、総会当日の担当者の行動よりも事前に提出された議決権行使書の方がより正確に法人株主の意思が反映されていると考えられるのではないかと思われます。その意味で控訴審の考え方は株主の意思を重視しつつ、結論としては現実に即した妥当な判決であったと思われます[6]

 
4 教訓
 争点①②いずれにおいても、控訴審は総会当日における法人株主の議決権代理行使について、「代理権」理論に基づいて判断しています。実務的観点からこのことが意味するところは、当日入場する法人株主の担当者の代理権次第で議決権の取扱いが異なってくるということであり、したがって、株主総会を開催する会社にとって重要なことは、法人株主の担当者の代理権の(有無及び)範囲[7]をきちんと確認することだと思われます。以下、(1)平時と(2)有事ないしは有事が想定される場合に分けて検討します。

(1)平時の場合
 平時においては、事前の準備においても、当日の受付においても、従前通りの対応で問題ないと思われます。
 実務上、特に議決権数の多い法人株主に対しては事前に議決権行使書を送ってもらうことが多く、大半のケースでは総会前に賛否が決しています。当日は、出席の大株主の賛否さえ確認できれば決議結果を判断できるため、採決の際には拍手によるなど厳密に票計算しないのが通常で、代理権の有無が問題となるケースは基本的には考えられません。
 また、手続的動議に備え大株主に出席してもらう場合も、代理人の資格を証明する資料として委任状や職務代行通知書が発行され、そこに権限事項も明記されているはずです。
 このように平時の場合には、代理権の有無及び範囲を逐一確認する必要性はありませんので、円滑な受付業務を優先するべきだと思われます。

(2)有事の場合
 これに対し、厳密に票を集計する必要が生じることが予想されるような場合や臨時報告書にて正確に議決権数を報告する必要があるような場合には、平時と異なり、代理権の有無及び範囲を正確に確認する必要性があります。その場合は、総会当日までの事前準備としては株主から委任状を送ってもらうとともに委任範囲を確認するなどの対策をしっかりと行い、事前確認ができていない代理人が現れた場合は、受付でどのようにして正確に代理権を確認するかを十分に検討し、準備をしておくことが必要になります。

(3)最後に
 「そのようなレアなケースに備えて準備する必要があるのか?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。しかしながら、最近では“物言う株主”が増えています。たとえレアであっても、いざ株主提案がなされ書面投票に至った場合には、上場会社では臨時報告書によって会社提案議案だけでなく株主提案議案についても議決権行使結果を遅滞なく開示しなければなりませんし、万一、決議が取消しとなった場合のコストや手間、レピュテーションリスクは大変大きなものとなります。実際に上場企業でこのような“レア”ケース[8]が起こったわけですから、他人事だとは思わずに、今一度、社内態勢を見直してはいかがでしょうか。

 
 
 
 

               【 事 案 の 概 要】

【登場者】

X

被告Y社のもと代表取締役。本件の原告

Y社

東証一部上場企業。本件の被告

J

Y社株主4社の代表取締役であり、Y社の持株会理事長

O銀行

Y社株主

N生命

Y社株主

A

Y社代表取締役であり、総会の議長(後にTに議長交代)

T

Y社株主の職務代行者であり、Xと交代後の議長。

 

【事実経緯】

総会当日まで

・Y社は、「取締役7名選任の件」として7名の取締役(Xも含む。)選任を会社提案として招集通知を発送。

・Y社持株会事務局から会員に対して、会社提案につき特別の指示を与える場合には書面にて連絡を要するが、賛成の場合には連絡は不要である旨通知。

→Y社持株会は電子投票により会社提案に賛成する議決権を行使。

※Y社持株会会員から会社提案に反対する旨の特別の指示はなされていなかった。

・O銀行、N生命は会社提案に賛成する議決権行使書を送付。

 

総会当日(前半)

・Aが議長、J、O銀行担当者、N生命担当者、Tが総会に出席

・会社提案の審議の際、Jが6名の取締役選任の修正動議提出(そのうち、会社提案に含まれている取締役は3名)され、書面投票が実施(投票用紙はJが準備していたものを使用)。

・Jは修正動議に賛成との議決権を行使。

・N生命担当者は投票用紙を提出せず、O銀行担当者は傍聴に来ているだけであると説明の上、Y社担当者に白紙の投票用紙を交付。

 

総会当日(後半)

・会場の予約時間内に集計が完了しなかったため、約4時間後にY本社に場所を移して総会が再開

・議長のAが議長席にて再開宣言をする前に、議長不信任の手続的修正動議が提出され、JがTを新たな議長として指名する旨の発言を行った。Aがこの発言を動議として取り扱い賛否を諮ったところ、動議が可決されたものとして、新たにTが議長になった。

以 上


[1]  平成30年(ワ)第27434号事件

[2]  平成31年(ネ)第1603号事件

[3]  事案の概要は最後に記載していますので、ご興味のある方はご覧下さい。

[4]  会社提案と修正動議は3名の取締役については共通していますので、地位確認の対象となったのは、会社提案のうち修正動議には含まれていない4名の取締役です。

[5]  代理人は、使者と異なり、自由に意思決定を行うことができます。

[6]  もっとも、Y社としては、総会の入場時においてはO銀行の担当者を代理人であると認識していた可能性が高く、そうであれば、担当者が入場した時点で法律的にも出席と評価できる余地があると考えられますが、この点について、控訴審では特に述べられていません。

[7]  例えば、手続的動議については代理権を授与しなかったり、特定の議案についてだけ代理権を授与しないという場合もあり得るため、代理権がどの範囲について与えられているのかについても確認する必要があります。

[8]  本件では、Y社が書面投票になることを予想していなかった可能性があり、そうであれば、Y社としては事前準備及び受付の段階では平時における対応を取らざるを得なかったといえます。

執筆者:堀田 克明

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