色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第135回 民法改正と実務対応~⑤契約不適合責任~(前半)

2020/03/05

 民法改正の重要トピックスを解説するシリーズの5回目です。最終回となる今回は契約不適合責任(現行民法下における瑕疵担保責任)に関する改正点を取り上げます。なお、以下では、現行民法を「旧法」、改正民法を「新法」、また、民法改正に伴い商法も改正されましたが、現行商法を「旧商法」、改正商法を「新商法」と表記します。
 主要な改正点として、①契約不適合責任の性質・要件、②追完請求権、③代金減額請求権、④解除・損害賠償請求、⑤期間制限、⑥請負における契約不適合責任について説明します。その上で、契約書への影響について説明します。
 

第1 主要な改正点
 以下の1から5については売買契約を前提にしていますが、旧法・新法いずれについても559条により、性質上許さない場合以外は、売買以外の有償契約に準用されます。
 6については、請負契約特有の規定について説明しています。

1 契約不適合責任の性質・要件
(1)旧法
  旧法下では、瑕疵担保責任の性質について、判例の立場は明確ではなく、学説上も法
 定責任説と契約責任説が対立していました。伝統的な通説であった法定責任説は、特定
 物売買においては、当該物の給付さえすれば債務不履行の問題は生じないものの、買主
 保護の観点から法律が特別に認めた売主の責任が瑕疵担保責任であるという考え方で
 す。この考え方によれば、不特定物売買には瑕疵担保責任が生じないと考えることにな
 ります。
  また、瑕疵担保責任の要件として、「隠れた瑕疵」があることが必要とされていまし
 た。この「隠れた」については、契約時における瑕疵についての買主の善意無過失をい
 うと解されていました。

(2)新法
  旧法が制定された当時とは異なり現代では、特定物と不特定物を明確に区別すること
 は困難であり、法定責任説のようにいずれの売買かによって取扱いを異ならせることは
 実態に沿わないと批判されていました。
  そこで、新法では、特定物か不特定物かを問わず、担保責任は目的物の瑕疵に関して
 適用される債務不履行責任の特則であるとする契約責任説の考え方を採用することとし
 ました。
  また、「瑕疵」については、旧法下でも最高裁判所平成22年6月1日判決等において
 契約不適合をいうものと解釈されていたと考えられるものの、その用語からは客観的に
 キズがあれば責任が生ずるとの誤解を招くおそれもあり、「契約の内容に適合しない」
 との表現に改められました。
  さらに、「隠れた」という要件については、隠れていない欠陥があったとしても、契
 約内容に適合しない場合は担保責任を負うべきであることから、廃止されました。

 
2 追完請求権
(1)旧法
  旧法には、契約不適合の場合に、目的物の修補等、買主の追完請求権を認める規定は
 なく、また、法定責任説によれば、特定物売買においては目的物を引き渡せば足りると
 考えられていました。

(2)新法
  新法では、特定物か不特定物かを問わず契約内容に適合した目的物を引き渡す義務を
 負い、適合しない場合は債務不履行にあたるものと整理され、買主の救済方法の1つと
 して追完請求に関する規定が設けられました。具体的には、引き渡された目的物が種
 類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないときは、買主は売主に対して、目的物
 の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完の請求ができることにな
 りました(新法562条1項本文)。
  売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異な
 る方法による履行の追完をすることができます(同項但書)。また、不適合が買主の責
 めに帰すべき事由によるものであるときは、履行の追完の請求をすることができません
 (同条2項)。

 
3 代金減額請求権
(1)旧法
  旧法には、いわゆる数量指示売買における数量不足については、買主に代金減額請求
 を認める規定があったものの、目的物の品質等の不適合について代金減額請求を認める
 規定はありませんでした。

(2)新法
  新法では、契約不適合の場合であったとしても、買主が減額することで当該目的物を
 了承するという合理的な解決方法として、代金減額請求に関する規定が設けられまし
 た。
  具体的には、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の
 追完がないとき、買主は、不適合の程度に応じて代金減額請求ができるとされました
 (新法563条1項)。ただし、履行の追完が不能な場合等については、催告をすること
 なく直ちに代金減額請求ができるとされました(同条2項)。
  追完請求と同様、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、代金
 減額請求はできません(同条3項)。

 
4 解除・損害賠償請求
(1)旧法
  旧法では、瑕疵担保責任の性質について、判例の立場が明確ではなく、学説上も考え
 方が対立していたことから、損害賠償請求に売主の帰責事由が必要か、賠償の範囲は信
 頼利益(買主が瑕疵を知らなかったことにより生じた損害)のみか履行利益(目的物の
 瑕疵が存在しなかったとすれば買主が得たであろう利益)までか、解除するにあたって
 買主が履行の追完の催告をすることが必要か等について議論がありました。

(2)新法
  新法では、契約責任説を前提としており、債務不履行の要件が適用されることが明確
 にされました(新法564条)。具体的には、損害賠償請求に売主の帰責事由が必要であ
 り(新法415条1項但書)、賠償の範囲は履行利益までとなり(新法416条)、解除す
 るにあたって買主に原則として履行の追完の催告が必要となりました(新法541条)。
  なお、新法における、買主の救済方法と帰責事由に関するまとめは以下のとおりで
 す。

 

買主の救済方法 買主に帰責事由 双方帰責事由なし 売主に帰責事由
損害賠償請求 不可 不可
解除 不可
追完請求 不可
代金減額請求 不可

 
5 期間制限
(1)旧法
  旧法では、売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、買主は瑕疵があるとの事実を
 知ってから1年以内に解除・損害賠償請求をする必要がありました(旧法570条、566
 条3項)。
  また、損害賠償請求に関して、1年以内にどのような内容の請求をする必要があるか
 については、最高裁判所平成4年10月20日判決は、「具体的に瑕疵の内容とそれに基づ
 く損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主
 の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」としていました。
  なお、商人間の売買については商法に特則があり、買主には目的物を受領したときは
 遅滞なく検査する義務が課され、また、検査により瑕疵又は数量不足を発見し直ちに通
 知したときか、直ちに発見できない瑕疵がある場合において6箇月以内に瑕疵を発見し
 通知したときは、解除、代金減額請求、損害賠償請求が可能とされていました。ただ
 し、売主が瑕疵又は数量不足につき悪意の場合は期間制限の規定は適用されません(旧
 商法526条)。

(2)新法
  この点、買主からの担保責任追及に備えて証拠を長期間保存することを売主に求める
 のは過度の負担となるという事情は旧法下と変わらないものの、期間制限が買主の権利
 を制限することにも配慮して、新法では、引き渡された目的物の種類又は品質に契約不
 適合がある場合には、知った時から1年という期間制限の規定が設けられました(新法
 566条本文)。ただし、売主が引渡しの時に不適合を知り、又は重過失によって知らな
 かったときは、期間制限の適用はありません(同条但書)。
  また、新法では、旧法のように1年以内に解除・損害賠償請求をすることまでは求め
 ず、通知で足りるとしています(同条本文)。この「通知」については、法務省による
 と不適合の種類やおおよその範囲を通知することが想定されています。
  新商法526条は旧商法526条から大幅な改正はありませんが、検査により発見し直ち
 に通知する場合の適用対象が、「瑕疵又は数量の不足」から「目的物が種類、品質又は
 数量に関して契約の内容に適合しないこと」に、買主の救済方法が、「契約の解除又は
 代金減額若しくは損害賠償の請求」から「履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害
 賠償の請求及び契約の解除」に、6箇月以内という期間制限の適用対象が、「瑕疵」か
 ら「目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないこと」にそれぞれ改められ
 ました。

 
6 請負における契約不適合責任
(1)旧法
  旧法では、仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は請負人に対し、相当の期間を
 定めて瑕疵修補請求ができ(瑕疵が重要ではなく修補に過分の費用を要するときを除き
 ます)、また、瑕疵の修補に代えて又は修補とともに、損害賠償請求ができるとされて
 いました(旧法634条)。
  また、仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達成できないとき
 は、注文者は契約を解除できる(建物その他の土地の工作物を除きます)とされていま
 した(旧法635条)。
  さらに、担保責任追及の期間制限について、原則、目的物の引渡し等から1年以内の
 権利行使が必要とし、例外的に、建物等の建築請負では引渡しから5年以内、建物等が
 石造、金属造等の場合は引渡しから10年以内とされていました(旧法637条、638
 条)。

(2)新法
  新法では、特に売買の担保責任と異なる規律を設ける合理性理由に乏しいことから、
 従前の規定を削除して新法559条により売買の担保責任の規定を準用し、そのうえで、
 請負特有の規定を設けています。
  請負特有の規定としては、まず、請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合し
 ない仕事の目的物を注文者に引き渡した等の場合、注文者は、注文者の供した材料の性
 質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報
 酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない(請負人がその
 材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときを除きます)とされま
 した(新法636条)。
  次に、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないとき、
 注文者は、不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請
 求及び契約の解除をすることができない、また、仕事の目的物を注文者に引き渡した時
 等において、請負人が不適合を知り、又は重過失によって知らなかったときは、期間制
 限の規定は適用しないとされました(新法637条)。

 
 以上

執筆者:加古 洋輔

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