色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第134回 民法改正と実務対応~④定型約款~(前半)

2020/02/27

 改正の重要トピックスを解説するシリーズの4回目です。今回は定型約款に関する改正点と実務対応について、前半と後半に分けてお届けします。なお、以下では、現行民法を「旧法」、改正民法を「新法」と表記します。

1.はじめに
 ご承知のとおり、新法では、①「定型約款」について定義を置いた上で、②どのような場合に定型約款に関する合意(みなし合意)が成立するのか、③どのような場合に定型約款の変更の効力が認められるのか、について条文を置いて明らかにしました。
 これまで私達が日常的に「約款」という用語で呼んでいた文書(インターネット上に表示されているものも含みます。以下、単に「文書」という場合にはインターネット上の表示も含むこととします)には様々なものがあり、それらの全てが「定型約款」に該当する訳ではありません。一方で、日常的に「約款」とは呼んでいなかった文書の中にも「定型約款」に該当するものがあります。
 事業者としては、まず、①何が「定型約款」にあたるのかを検討した上で、次のような点を検討すべきことになります。
 〔定型約款にあたる文書について〕
   ⇒ ②-1 どのように合意(みなし合意)を成立させるのか
     ③-1 定型約款を変更するために、どのような条項を置き、どのような手続を
       経て変更するのか
 〔定型約款にあたらない文書について〕
   ⇒ ②-2  合意(みなし合意ではない)を成立させるのか、それとも合意は不要か
     ③-2  定型約款にあたらない文書を変更するために、どのような条項を置き、
       どのような手続を経て変更するのか
 以下では①~③のそれぞれについて、実務で対策を講じる上での考え方をご紹介します。

2.何が「定型約款」にあたるのか(①)
(1)  定義
 新法では、「定型約款」について定義を置いていますので、事業者は、現在使用している文書が「定型約款」にあたるかどうかをまず検討することになります。
「定型約款」の要件は、以下のとおりです(新法548条の2第1項)。
 (a) 定型取引 つまり
 (a-1) 不特定多数の者を相手方として行う取引であって
 (a-2) 当該取引の内容の全部又は一部が画一的であることが両当事者にとって合理的
     である取引において、
(b)契約の内容とすることを目的として定型約款準備者により準備された条項の総体

(2) 「定型約款」該当性の濃淡
 事業者がビジネスを行う上で準備している文書には、様々なものがあります。
「定型約款」に該当することが明らかな例としては、例えば、インターネット上の取引のためにweb上で掲載している「規約」(会員規約、アプリ利用規約など)が挙げられます。一方で、インターネット上での手続について説明した文書は、(b)の「契約の内容とすることを目的」という要件[1]を満たさないと思われるため「定型約款」には該当しないと思われます。
  上の二つの例は、誰から見ても明らかな例ですが、実際に事業者が準備している文書には様々な内容が記載されているため、「定型約款」に該当するかどうか判断が難しいものもあります。例えば、インターネット上で掲載している「特定商取引法上の表示」や、インターネット上で取引をする中で表示する画面上の注意文言(それが一文だけであれば「条項の総体」とは言えないように思われますが、いくつも箇条書きとなっているような場合には、上記(b)の要件を満たすものもありそうです)などが挙げられます。
 また、(a-1)「不特定多数の者を相手方として行う取引」については、例えば住宅ローン契約については、借主の与信審査を行うため誰とでも契約を締結する訳ではないことから「定型約款」には該当しないという見解がある一方で、与信審査は定型的・画一的であることから「定型約款」に該当するという見解もあります。
 更に、(a-2)取引内容の「全部又は一部が画一的であることが両当事者にとって合理的」という要件については、文書を予め準備しているものの、多くの取引先との間で取引条件を変更している場合には(a-2)の要件は満たしませんが、ほんの僅かな取引先との間でだけ取引条件を変更している場合には、(a-2)の要件は満たすと考えることもできそうです。
 このように、事業者が現在使っている文書は、「定型約款」に明らかに該当するものから、明らかに該当しないもの、その中間に属するものがあり、中間に属するグレーゾーンには、定型約款にあたる可能性が高いものから低いものが、グラデーションのように存在しているものと思われます。「定型約款」に明確に該当するとは言えない文書についても「定型約款」に関する新法の条項が類推して適用される余地がありますので、その実務対応については後述します。
 
3.どのような場合に定型約款に関する合意(みなし合意)が成立するのか
 民法の原則では、個別の条項を確認・認識した上で契約の申込みをすることにより、個別の条項についても合意したことになります。しかしながら、前述の「定型約款」については、個別の条項まで逐一確認・認識していないまま申込みをすることが通常である実態を踏まえ、新法は、このような場合に契約の成立(合意)を認めるために、一定の要件のもとで、個別の条項についても合意が成立したものと「みなす」ものとしています。
(1) 要件
 新法では、以下のいずれかの場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすとされています[2](新法548条の2第1項)。
 (ア) 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
 (イ) 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方
   に表示していたとき

(2) 定型約款にあたる文書につき、どのように合意(みなし合意)を成立させるか(②-1
 実務的には、 (ア)としては、例えば、申込書に「私は、貴社との取引に○○約款が適用されることに同意した上で、申込みを行います」という一文を記載した上で、申込手続を行わせることが考えられます。
 (イ)については、単に「公表」するだけでは足りず、取引を実際に行おうとする際に相手方に対して「表示」する必要がありますので[3]、例えば、申込手続を案内する書面に「この取引には○○約款が適用されます」と記載しておくことが考えられます。
 厳密には、(ア)の場合にも、また(イ)の場合にも、個別条項そのものが相手方に見えるように表示しておくことは要件ではなく、定型約款を契約の内容とする旨を表示することで足ります。相手方から要求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を示さなければなりませんが、事業者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付したり、又はこれを記録した電磁的記録を提供している場合には、内容を示す必要はありません(新法548条の3第1項)。
 しかしながら、要求を受ける都度、書面を交付するといった個別対応は事業者にとって手間ですので、実務的には、(ア)や(イ)によりみなし合意を得る場合にも、相手方が個別条項の内容をすぐに確認できるように、インターネット上の取引であれば、○○約款にリンクを貼るとか、ページの下部に○○約款を記載するなどして、申込者が当該約款をすぐに確認できるようにサイトを構築することが適当です。また(インターネット上ではない)対面取引の場合には、可能であれば、○○約款を申込書裏面に印刷しておく[4] 、相手方の目に見えるところに個別条項を掲示しておくといった対応が適当と思われます。

(3) 定型約款にあたらない文書について、合意(みなし合意ではない)を成立させるか、それとも合意は不要か(③-1
 (ⅰ) 契約として位置づける必要がない文書について
  前述のように、例えば、インターネット上での手続について説明した文書は、それに
 よる法的な効果までは意図していないことが多いと思われます。そのような場合には、
 相手方との合意を成立させる必要はありませんので、合意を成立させるための実務対応
 は不要となります。
 (ⅱ) 「契約」として、相手方を拘束して法的な効果を発生させたい文書について
  このような文書について、「定型約款」による「みなし合意」が成立しない場合に
 は、本来的には、民法の原則に基づいて相手方との合意を成立させる必要があります。
  旧法には「定型約款」に関する規律は一切ありませんでしたが、個別条項を相手方に
 見える所に掲示しているなど相手方が個別条項を容易に確認することができる状況下で
 あれば、実務上、当事者間で「黙示の契約」が成立していたものとして扱われていまし
 た。従って、新法施行後も、旧法におけるのと同様の考え方によって、契約成立が認め
 られるものと考えられます。
  また、厳密には「定型約款」には該当しない文書についても、(前述のように「定型
 約款」に該当するかどうか直ちには明らかではない文書も多数存在します)特段の事情
 がない限り、「定型約款」に関する新法の条項が類推して適用されることも予想されま
 す。
  そうすると、このような「定型約款」に該当する可能性がある文書については、新法
 に従って「みなし合意」による成立が認められるよう、(ア) 定型約款を契約の内容とす
 る旨の合意をするか、(イ) あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に
 表示する、といった対応を講じておくことが望ましいと言えます。

⇒後半に続く


[1] 立法過程では「契約の内容を補充することを目的として」と定義されており、その後、最終的には「契約の内容とすることを目的として」となりましたが、これにより趣旨が変わったとは考えられていません。

[2] 不当条項については、みなし合意の対象から外されていますが(548条の2第2項)、この法律コラムでは、説明は省略します。

[3] 電車やバスでの旅客運送取引、郵便事業等については、定型約款を契約の内容とする旨を(相手方に「表示」しなくても)あらかじめ「公表」しておくことにより、個別条項について合意したものと見做す旨が特別法で定められています。

[4] このような場合には、約款の個別条項を確認、認識した上で申込みが行われることもあるため、民法の原則によっても個別条項についての合意成立が認められることもありますが、「定型約款」として「みなし合意」も併せて成立することが想定されています。

執筆者:小林 京子

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