色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第131回 民法改正~①保証~

2019/11/05

 ご存じのことと思いますが、平成29年に民法(債権関係)の大改正が行われました。一部の規定を除き、令和2年(2020年)4月1日から施行されます。各社で改正対応を進めておられるものと思いますが、施行日が近づいてまいりましたので、色川法律事務所では今回から連載で、改正の重要トピックについて解説していきます。初回となる今回は「保証」を取り上げます。
 保証の主要な改正事項として、保証人保護等の観点から、①情報提供義務、②個人根保証契約と極度額、③事業用融資の第三者個人保証における公証人による保証意思の確認が挙げられます。設例を用いて以下説明します。

1 情報提供義務
(1)主債務者による保証人への情報提供義務
 メーカーA社は販売会社B社と製品販売の取引基本契約を締結したが、その際、B社の資力に不安があったため、A社は、B社のC社長だけではなく、Cの友人Dにも、B社からの委託により保証人になってもらった、という設例を前提に検討します。
(設例1-1)
 C社長は、B社の財産及び収入の状況等について説明をしなかったものの、DはB社に十分な財産があるものと誤信して、A社と保証契約を締結しました。Dから、B社に十分な資力があることを保証契約の基礎とする旨の表示はありません。後日B社に主債務を弁済するための十分な資力がないことが判明した場合、Dはどのような法的主張をすることが可能でしょうか。
(改正内容)
 本設例では、錯誤(新法95条1項、2項)や第三者による詐欺(新法96条2項)による取消しの主張が難しいと考えられます。このような場合でも、本民法改正により、個人に事業上の債務の保証等を委託する場合には、財産・収支の状況、主債務以外の債務の有無・額・履行状況、担保として提供するもの等について、主債務者は、委託を受ける者に情報提供する義務を負うことになりました。
違反した場合、保証人が主債務者の財産状況等を誤認し、また、主債務者が保証人に情報提供しなかったことを債権者が知っていたか、知ることができたときは、保証人は債権者との保証契約を取り消すことができます(以上、新法465条の10)。
(設例の問題点)
 この設例では、C社長はB社の資力等についてDに説明をせず、Dが誤信して保証契約を締結しています。CはDに対し虚偽の説明をしたわけではなく、B社に十分な資力があることを保証契約の基礎とする旨の表示したわけでもないものの、C社長がDに情報提供しなかったことを、A社が知っていたか、知ることができたときは、DはA社との保証契約を取り消すことができます。
(改正への対応)
 保証人による取消しリスクを軽減するため、保証契約締結にあたり、債権者は、主債務者から保証人に対し情報提供がなされているかどうかを確認し、保証人にチェックリストを作成・提出させてエビデンスとして保存することが考えられます。主債務者と保証人の連署による形式としたり、表明保証条項を付記すると、より実効性が高まるように思われます。
なお、チェックリストについては、後述の1(2)、3でご説明するチェックリストも用意する場合は、それらのチェックリストと一体化させて1つの書面とすると管理が容易になります。

(2)主債務者の履行状況に関する債権者の情報提供義務
(設例1-2)
 A社は、DからB社の債務の履行状況について質問を受けましたが、他社の情報を安易に開示するべきではないと考え、お答えすることはできないと回答しました。
 A社の回答に問題はないでしょうか。
(改正内容)
 債権者は、法人も含む委託を受けた保証人から請求があったときは、主債務の元本・利息等に関し、不履行の有無、残額等について遅滞なく情報提供をする必要があります(新法458条の2)。
(設例の問題点)
 A社は、委託を受けた保証人であるDから主債務の履行状況について質問を受けておりますので、情報提供義務を負います。
もし、開示しないことでDに損害が生じた場合、A社はDに、債務不履行による損害賠償義務を負うこともあり、また、解除権を行使される可能性もあります。ここでいう「損害」としては、例えば履行遅滞により生じる遅延損害金のうち情報提供請求時以後のもの等が考えられます。Dが請求した際にB社の履行遅滞に関する情報が提供されていたとすれば、Dは速やかに弁済しそれ以降の遅延損害金が発生することを防ぐことができたと考えられるからです。
なお、本設問では個人情報の提供を想定しておりませんが、仮に本人の同意なく個人データを提供する場合であったとしても、「法令に基づく場合」に該当し問題はありません(個人情報保護法23条1項1号)。
(改正への対応)
 保証人は委託を受けて保証契約を締結するケースがほとんどかとは思いますが、保証契約締結にあたり、契約書の中で「委託を受けた保証人」であることを明記することが考えられます。そうすることで、受託保証か否かの判断に関する社内の管理が比較的容易になるからです。また、保証契約締結にあたり、債権者は、保証人に対し主債務者からの委託の有無について確認し、保証人にチェックリストを作成・提出させてエビデンスとして保存することも考えられます。
その後、委託を受けた保証人から主債務者の履行状況に関する情報提供を求められた場合には、情報提供をすることになります。情報提供については、所定の書面を作成して通知する方法が考えられます。

(3)期限の利益喪失に関して債権者の保証人に対する情報提供義務
(設例1-3)
 B社は破産申立てを行い、A社はその旨を知ったにもかかわらずDに通知することを怠りました。破産申立てから4ヵ月後、Dに対し保証債務の履行請求の通知をしました。破産申立てに関しDに通知はなく、D はB社の破産申立ての事実を知りませんでした。A社は遅延損害金も含めて、本来B社に請求することができた債権を全額、Dに請求することができるでしょうか。
なお、AB間の取引基本契約書には、破産申立てがあったときは当然に期限の利益を失う旨の規定があります。
(改正内容)
 個人保証で、主債務者が期限の利益を喪失した場合に、債権者が保証人に対して、それを知った時から2か月以内に通知しなかったときは、債権者は、期限の利益を喪失した時から通知するまでに生じた遅延損害金について、保証債務の履行を請求することができないことになりました(新法458条の3)。
 もっとも、この場合も、主債務者に対しては遅延損害金を全額請求することができます。
また、解釈上、主債務者が期限の利益を喪失したことを保証人が知っていた場合、期限の利益を喪失した旨の通知は不要と考えられています。
(設例の問題点)
 B社は破産申立てをし、かつ、取引基本契約書に破産申立てにより期限の利益を喪失する旨の規定がありますので、破産申立て時に期限の利益が喪失したことになります。
 その結果、破産申立て時から遅延損害金が発生することになりますが、A社がB社の破産申立ての事実を知ってから2ヶ月以内に通知をしなかったため、実際に通知した4ヶ月後までの遅延損害金を、A社はDに請求できないことになります。
(改正への対応)
 日頃から主債務者の財産状況等の情報収集を心がけ、主債務者が期限の利益を喪失したことを知った時には、速やかに保証人に書面で通知することが考えられます。

2 個人根保証契約と極度額
(設例2)
 A社では、従業員との雇用契約締結にあたり、身元保証書を提出させています。当該身元保証書は、本民法改正の影響を受けるでしょうか。
(改正内容)
 本民法改正前も、個人根保証契約で主債務に貸金等債務を含む場合、極度額の定めが必要でしたが、主債務に貸金等債務を含まない場合は不要でした。それが今回の改正で、すべての個人根保証契約で、極度額の定めが必要になりました(新法465条の2)。
 なお、本民法改正前から存在する身元保証に関する法律では、保証期間として期間の定めがない場合は3年(同法1条)、最長で5年(同法2条)、事情変更があった場合の使用者から身元保証人への通知義務(同法3条)、その場合の身元保証人の解約権(同法4条)、裁判所の裁量による保証の責任限度(同法5条)について定められています。本民法改正に合わせて身元保証に関する法律が改正されたわけではありませんが、本民法改正により狭義の身元保証人(狭義の身元保証とは、被用者の帰責事由に基づき損害賠償義務が生じた場合をいい、性質上、保証契約に当たると考えられております。なお、広義の身元保証は、被用者の賠償義務の有無にかかわらず使用者に与えた損害を補填する身元引受を含みますが、この身元引受は、性質上、保証契約ではなく損害担保契約であると考えられています)が個人の場合は書面の作成や極度額の定めが必要となりました。
(設例の問題点)
 本民法改正による影響ですが、設例の身元保証について、それが狭義の身元保証に該当する場合には、極度額の定めを設けることが義務になりました。この場合、極度額の定めのない身元保証契約は無効になります。
(改正への対応)
 多くの身元保証書が影響を受けるものと思われますので、極度額の定めに関して、ひな型の見直しを検討すべきです。
 また、身元保証以外で、例えば、賃貸借契約の借主に根保証契約の保証人をつけるケースでも同様です。

3 事業用融資の第三者個人保証における公証人による保証意思の確認
(設例3)
 B社において事業上の資金が必要となり、A社は融資を行うことになりました。
 そこで、B社の社長Cは友人Dに保証人になってもらうこととし、保証契約書を作成、Dの署名押印を得ました。
 どのような問題があるでしょうか。
(改正内容)
 事業のために負担した貸金等債務の保証契約等については、公証人があらかじめ保証人になろうとする者本人から直接その保証意思を確認し、保証契約締結前1カ月以内に作成した保証意思宣明公正証書で保証債務を履行する意思を表示しなければ、無効になります(新法465条の6)。これは、あくまで保証人になろうとする者が作成するもので、債権者が作成するものではありません。
 もっとも、この制度も、主債務者が法人である場合の取締役等や、主債務者が個人である場合の主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者等は、適用対象外になります(新法465条の9)。
 なお、保証意思宣明公正証書を作成していたとしても、その内容と保証契約の内容とが異なる場合、保証契約が無効となる可能性もあります。どこまで内容が異なれば無効となるのか、無効となる場合は全部無効となるのか、それとも一部無効にとどまるのかは、今後の判例・学説の動向を待つほかありません。もっとも、個人に保証のリスクを十分に理解させるため、新法465条の6第2項第1号に規定される事項(主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息等の定めの有無、その内容等)について公正証書の記載事項とした趣旨からすれば、当該事項についての相違については、無効と評価される可能性が高いのではないかと考えます。
(設例の問題点)
 DはB社の取締役等ではありませんので、制度の適用対象者となります。
 設例でも、保証契約締結にあたって保証意思宣明公正証書の有無やその記載事項を確認する必要があります。もし作成されていないようであれば、保証契約を締結したとしても無効になりますし、作成されていたとしても、記載内容が異なる場合は保証契約が無効となる可能性があります。
(改正への対応)
 本改正に関しては、債権者としては以下の順序で検討することになります。
・事業性融資に該当するかどうかを検討します。事業性融資かどうか悩ましい場合は、無効リスクを避けるために保証意思宣明公正証書の作成を求めることも考えられます。
・事業性融資に該当するとして、制度の適用対象外の者か、例えば、保証人になろうとする者が、会社の取締役、理事、執行役や主債務者の配偶者であったりしないかを確認をします。その際は、保証人にチェックリストを作成・提出させてエビデンスとして保存することが考えられます。
・制度の適用対象者である場合、保証意思宣明公正証書の有無を確認します。確認にあたっては、保証意思宣明公正証書のコピーを入手し保存することが考えられます。

以上

執筆者:加古 洋輔

ページの先頭へ