色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第126回 債権者による破産申立て (申立代理人の立場から)

2019/05/31

1 はじめに
 債務者が支払不能になったよう場合には、自ら選択して自己破産の申立てがなされることが多いといえます。
 しかしながら、まれに、債権者が債務者に対して破産申立てをすることがあります(以下、「債権者破産」といいます。)司法統計によれば、平成29年に全国で申し立てのあった破産事件7万6015件のうち、自己破産が7万5640件、債権者破産が375件(約0.5%)でした。また、大阪地裁については、同年に申し立てられた破産事件5835件のうち自己破産が5800件、債権者破産が35件(約0.6%)でした。
 以下では限られた件数ではありますが、債権者破産の申立代理人と破産管財人の双方の経験をふまえ、債権者破産について主に申立代理人の観点から概観し、破産管財人として経験したことを付加して説明いたします。

2 債権者破産が利用される事案
 どのような場合に債権者破産が申し立てられるのでしょうか。
 文献などでは、以下のような目的で利用されることが多いとされています(たとえば「実践フォーラム破産実務―手続選択から申立て・管財まで」289頁以下)。
 ① 違法な活動を停止(あるいは防止)させるため
  消費者被害を受けた債権者から破産が申し立てられた例があります(古くは豊田商事
  事件、比較的最近では振袖ハレノヒ事件など)。
  このような事件は、まずは債務者の財産管理処分権をはく奪し事業活動を停止させる
  ために利用されるわけです。同様な被害者が多数存在し、平等に取り扱う必要がある
  ことと、個々の債権者の債権額が少ないことなどから、集団的な被害回復が求められ
  る事案といえます。
 ② 債権回収 ⑥の場合を除けば債権者がこの目的で利用する場合が大半といえます。
 ③ 経営実態等の事案を解明する
  経営実態を把握し、資産が外部に流出していたり、財産隠匿がなされていないかなど
  を破産管財人に調査してもらうために利用される場合です。
 ④ 経営者の責任を追及する
  経営者としての善管注意義務違反などの有無や経営破たんの原因を調査することによ
  り、経営者に対して責任を追及する目的で利用される場合です。③の実態解明の上で
  ④の目的が実現できることも多いといえます。
 ⑤ 否認権行使を通じて破産財団を回復する
  破産手続を利用することにより破産管財人が否認権を行使して手続開始前に流出した
  財産を破産財団に返還させることが可能です。このように否認権を行使するために利
  用される場合です。
 ⑥ 損金処理
  債権額が高額で債権者がいわゆる黒字会社の場合には、税務上損金処理(貸倒損金算
  入)を行うために利用される場合です。
 以上の①ないし⑥の目的は、究極的には②の債権回収あるいは⑥の損金処理のために行われますが、②の目的すなわち破産配当を受けるには、①の違法な事業を停止させ、破産財団を増殖させる必要があります。他方破産管財人が③④⑤の業務を遂行した結果、破産財団が増殖することとなります。このように増殖した破産財団から破産配当がなされます。これに関連して、従業員が未払賃金債権の支払いを求めて債権者破産が利用されることもあります。以上のとおり①から⑥の利用目的はどれか一つというよりは重複して認められる場合がほとんどといっても過言ではないでしょう。
 私が経験した事案でも債権者の目的はやはり②の債権回収にある場合がほとんどでした。ただ、上記③から⑤が重複していたことが多かったといえます。
 関係者や関連会社等へ資金が流出し、財産隠匿行為や偏頗行為が多数ある場合には、債務者による自己破産の申立てを期待することができません。そこでこのような場合には、債権者破産が利用されることにつながりやすいといえましょう。
 その他に債権者破産がなされるパターンとしては、破産法人が子会社に対して債権を有する場合や代表取締役に対して債権を有する場合に破産管財人が破産申立てをする類型(いわば関連申立て)があります。

3 予納金
 債権者が申立てをする場合には予納金(大阪地方裁判所では最低100万円とされており、個々の事件ごとに裁判所が定める金額を予納する必要があります)を申立時に納付することが必要です。債権者破産の場合、破産管財人が資産調査や換価業務を行うに際しほとんど債務者の協力が得られないといってよいでしょう。そのような困難な作業を行う破産管財人の「報酬引当金」として、一定額の予納金が必要とされることはやむを得ないものがあるように思われます。
 納付した予納金が債権者に返還される保障はありません。破産管財人が破産財団に属する財産を換価処分した結果、予納金を上回るだけの金額が確保できた場合には、予納金の一部あるいは全部が返還されることがありますが、そうでない場合には破産管財人の報酬が優先しますので、予納金は債権者には返還されません。
 したがって債権者としては、債権が回収できないだけでなく、予納金をさらに負担してでも破産の申立てをする必要がある場合しか、実際には債権者破産を申し立てることができないといえます。

4 申立ての準備
 債務者の破産手続開始原因(以下、「破産原因」といいます。)を債権者が主張、疎明することが困難な場合もあります。私の経験では債務者から、過去の決算書の提出を受けていた債権者の場合には、ある程度破産原因の主張と疎明が可能ですが、そうでない場合もあります。このような場合には、債権者としてできる限りの主張と疎明を尽くし、それを踏まえ債務者の言い分を聞いて審理が進められます。

5 審理の時間
 審理にはかなり時間がかかります。最近経験した例では申し立てから破産手続開始決定(以下、「開始決定」といいます。)まで約4か月程度かかりました。
 自己破産であれば申立てから開始決定までの間に1~2週間くらいかかる場合がありますが(この間に破産管財人の人選が行われますので)、債権者破産の場合にはその数倍から10倍くらい時間がかかる事件もあります。
 このように時間がかかる原因としては、債権者破産の場合には、申立人である債権者が開始決定前に相手方の資産等を調査することは困難であることや、債務者が債権者の申立債権の存在や支払不能という破産原因を厳しく争ってくることが挙げられます。
 開始決定がされた際の効果や社会的影響の大きさに鑑みると、債務者に相応の主張疎明を尽くさせることがやむをえない事案も少なくないようにも思われます。
 そのような事案では、開始決定までに相応の時間を要し、この間に債務者が財産や重要な資料を散逸させることも懸念されますが、その反面、開始決定前の審尋は、債務者の決算書や保有財産等の詳細な情報を得る絶好の機会ともいえます。そこで、この場を十分に活用するのも一方法ではないかと考えられます。

6 いつ開始決定がなされるか。
 自己破産の場合には、実務ではいつ開始決定がなされるかについて事前に裁判所から連絡がなされます。これに対して債権者破産の場合には、事前に債務者にそのような連絡をすることが困難です。そのため、申立人である債権者にもわからないことになります。実際には裁判所に問い合わせるしかありませんが、明確な回答が得られる保障はありません。私の経験でも、開始決定を受けた破産管財人からの連絡で初めて開始決定がなされた事実を知ったことがありました。

7 不服申立て
 債務者は開始決定に対し即時抗告の申立てをすることができます。
 自己破産の場合には考えられませんが、債権者破産の場合には、債務者が破産原因や債権者の申立て資格(債権者であるか)を徹底的に争っているようなケースがあります。そのようなケースでは、開始決定がなされると、即時抗告が申立てられることが比較的多いといえます。ただし、この申立てには執行停止効がありません。そこで、総債権者のための一般的な執行手続である破産手続が開始されている以上、抗告審では申立人の破産債権の存在は問題にはならないとの説があります(もっとも、無条件に問題外である考え方と、一定の条件を満たした場合には問題にならないとする考え方があります。詳しくは条解破産法[第2版]292頁など)。このような説からすれば、抗告審での判断事項は破産原因に限定されることになります。私は個人的にはこの説が妥当であると考えます。
 これに対し、即時抗告が申し立てられた場合において、開始決定と同時に選任された破産管財人はどのように対応すべきでしょうか。実務では、破産財団に属する財産の価値が劣化するので、換価処分できる財産がある場合には換価処分を進めていくことになります。要するに即時抗告の申立てがなされても通常通り管財業務を行うことが多いとされています。ただ、実際には破産者とされた債務者が協力しないので、破産管財人が業務を遂行するには支障が多いといえます。

8 開始決定後の対応
 開始決定後においては、債権者としては破産管財人の資産調査・換価処分などの業務に協力することになります。
 しかしながら、その協力には限度があります。これに対して、破産者とされた債務者は破産法により破産管財人に対して説明義務(40条1項)、重要財産開示義務(41条)を負担しています。したがって、このような義務があるにもかかわらず、破産財団に属する財産調査などに協力しない破産者(法人の場合には代表者本人)については、破産手続開始後に裁判所で審尋手続をとってもらうことが考えられます。私が破産管財人として経験した事件(破産者は法人でした)では、審尋期日を開き続行期日を数回重ね、審尋期日当日に即答できない事項については次回までに書面により説明してもらい(代理人がいる場合は代理人に)、当日代表者が説明した事項も書面にまとめてもらうようにしました。その事件では代表者に代理人弁護士がついていたので、弁護士の協力がえられたことがよかったと思われます。

9 評価(満足度) 目的達成できたのか 債権回収できたか
 翻って、債権回収のために債権者破産を申立てた結果、どの程度初期の目的が達成されたか(たとえばどの程度債権回収ができたか)、申立てをしてよかったのかなどの評価(いわば「利用者満足度」)については、ケースバイケースとしか言えないと思います。また、債権者破産は、冒頭に述べましたとおり利用される事案は限定されております。とはいえ、適切な事案を選別して利用されることにより、債権者間で平等な満足を得るという条件のもとで債権回収に資する手続として、その有用性は否定できないものといえましょう。
                                                          以上

執筆者:森 恵一

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