色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第118回 消えない投稿、デジタルタトゥーと法律実務

2018/08/08

  • デジタルタトゥー

デジタルタトゥーという比較的新しい用語があります。ウェブ上ではデータやログがいったん記録されたら永続的に残り続け、消すことはできない、という意味で用いられる言葉です[1]

 

  • 小学生YouTuberの時代

ソニー生命の平成29年度の調査[2]によれば、男子中学生がなりたい職業の3位はYouTuberなどの動画投稿者であり、回答者の実に17%を占めています[3]。また、YouTubeなどの動画サイトでは、小学生が顔と名前を出してお菓子などをレビューする動画、歌って踊る動画が散見されます。
一方で、現代では、企業の採用担当者がインターネット上で検索を行い応募者の情報を収集することも珍しい行為ではなくなりました。
こうした状況において、応募者としては、就職活動を意識していなかった頃に投稿したあんな動画やこんな動画を消去したいと考えるのは当然のことです。
また、企業に就職してからも、会社の上司から、あなたのSNSのこの投稿はわが社のSNSポリシーに反しているから消しなさい、と注意されることもあるでしょう[4]

 

  • ログインできなければ削除は困難である

しかしながら、現代では、サービスの流行の推移も激しく、投稿が問題となった時点で、問題となる投稿をしたサービスに長期間ログインしておらず、パスワード等を忘れてしまってログインできない、したがって問題となる投稿を削除できない、という事態もしばしばあります。
このような場合、パスワード等を再発行してログインできればよいのですが、再発行のために設定していた過去のメールアドレスを利用できない、サービスの運営者に直接連絡しても対応してくれないなど、あれこれ手を尽くしてもログインすることができず、八方塞がりとなるときがあります。

 

  • 本人投稿の削除は法的にも困難な問題を含む

ログイン不能の状況で過去の投稿を消去することは、法的にもなかなか困難です。
他人による投稿であれば、人格権侵害等を理由に運営者に対し削除を請求することも考えられますが、自分で投稿したものが自分の人格権を侵害するという理由付けの当否については定説がなく、運営者によって対応が異なるのが現状です。
そこで、他人による投稿であるとうそをついて削除を請求する場合もあるようです。しかしながら、この手のやり取りがいきなり削除請求から始まることは少なく、まずは身分を明かしてパスワード等の再発行を求める交渉が先行することが多いと思います。再発行を断られた後に、やっぱり他人による投稿でしたと主張しても、運営者は軽々に認めません。
また、問題となる投稿については、そもそも人格権を侵害する程度が大きくないものも多く、この点も削除を困難にしています。例えば、お菓子をレビューする動画、単なる日記程度のブログ記事などは、本人からすれば恥ずかしい過去でも、客観的にみれば普通の投稿であり、法的な削除請求権を認めなければならないほど人格権を侵害する程度が大きいとは限りません。

 

  • 弁護士としての対応

以上のように、本人投稿については削除の可否の判断が非常に難しく、弁護士として投稿者側又はサービスの運営者側から相談を受けた場合にも、個別具体的に突き詰めて考えていくほかありません。
投稿者側を代理する際は、運営者側から「掲載に同意があるはずだ」と反論されることが多いので、投稿当時は未成年であったから掲載同意を取消すとか、同意を撤回するとか、長期間にわたり掲載する同意まではしていないとか、同意が付随する利用契約自体を解除するから投稿も原状回復として消去してほしいとか、様々な構成を考え交渉しているのが現状です。経験的には、法的構成をしっかりと立て、運営者側の事情を汲みながら粘り強く交渉していると、最終的には削除に応じてもらえることが多いと感じています。
また、運営者側の立場で助言・代理する際にも、人格権の侵害までは認められなさそうであるが、規約によれば人を不快にさせる投稿は運営者の判断で削除できることになっているからこれを適用して削除してあげてもよいのではないか等、相当な根拠に基づいて円満かつ公平な解決ができるように消去する方向で助言することもあります。経験的には、明らかに本人による投稿の場合、これを削除することにより重要な利益が失われるという事態は想定し難いこともあり、弁護士から相当な根拠を提供した場合、運営者側でも、最終的には削除に応じるという結論を出されることが多いと感じています。
定説がない以上、現場の実務家としては、問題の解決に資するよう、一件一件、一生懸命に考えるしかありません。

 

  • ガイドラインの設置

しかしながら、上記のような対応は、結局のところ対症療法にすぎません。
近い将来、誰もが物心つく前からインターネットを使用する時代が到来することは間違いありません。
少なくとも、未成年であった頃の記録の消去修正の可否については、今のうちから十分に議論し、一般的な基準を形成することが望まれるように思います。

以 上


[1] http://www.sophia-it.com/content/Digital+Tattoo デジタルタトゥー。

[2] http://www.sonylife.co.jp/company/news/29/nr_170425.html#sec6

[3] ちなみに、当該ソニー生命の調査を受けた別の調査では、子どもを持つ親の「子どもになってほしくない職業」の1位はYouTuberであり、回答者の実に59%を占めています。https://nikkan-spa.jp/1462289

[4] 企業の採用担当者の行動、従業員に対する指導等の当否についてはここでは措きます。

執筆者:増田 拓也

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