コラム

Column

第114回 スヌーピー

世界で最も有名な犬スヌーピー(註1)。世界的に有名な第1次世界大戦の撃墜王であり、小説家(註2)であり、宇宙飛行士(註3)等々です。(おまけにスポーツ万能で、ゴルフまでできます。)凡庸で運動神経が鈍い私からすると、実に妬ましい限りです。とはいっても、どうもすべては彼の妄想ではないかと思える節もあります。私も適当な妄想をすることがありますから、同じようなものかもしれません。媒酌人である筈の兄スパイクと婚約者だったコヨーテとが駆け落ちするという可哀想な過去もあるようで、実は可哀そうな犬とも言えるのです。

スヌーピーは、弁護士でもあります。(完全に子ども向けということではなさそうですが)スヌーピーが登場するようなコミックにも弁護士という職業が出て来るほどですから、米国において、弁護士が身近なものであることが分かります。米国大統領の職業も(最近やや減る傾向にはありますが)歴代の過半数が弁護士です。(バラク・オバマ元大統領も弁護士でした。)

もっとも、米国における弁護士のイメージは必ずしも良好ではないようです(註4)。米国にはロイヤー・ジョークという主として弁護士等の法曹を揶揄するジャンルの笑い話がたくさんあります。もう10年以上前ですが、『国際商事法務』という雑誌にジェーン・ドウ(平野晋監訳)「”法と文学”と法職倫理」という記事(註5)が連載されていて、いろいろなロイヤー・ジョークが紹介されていました。私はこれを愛読していました。ここでは弁護士に対する不満に満ち溢れています。

○ 役に立たない。
事件担当の弁護士を換えてもらっても、タイタニックで船室を換えてもらうようなものという話。(国際商事法務Vol.29,No.8(2002)pp.1010)(註6)

○ ずる賢くて信用できない。
亡き男の埋葬に立ち会った友人の3名が、故人があの世で金に苦労しないよう棺の中に志を入れる段になって、内2名の友人は、それぞれ100ドル札を入れたが、最後の弁護士である友人は、「300ドル」と記入した小切手を入れ、おつりに棺の中から2枚の100ドル札を取り出したという話。(国際商事法務Vol.29,No.11(2001)pp.1401)(註7)
サンタクロース、森の妖精、正直者の弁護士、酔っ払った年寄りの4人が、歩いていたら、道に100ドルが落ちていた。拾ったのは誰か。答えは酔っ払った年寄りで、他の3名(?)は実在しない想像上のキャラクターだからという話。(国際商事法務Vol.30,No.1(2002)pp.99)(註8)

○ 多すぎて、競争が激しい。
救急車を追いかけない弁護士は、もう引退した弁護士だという話。(国際商事法務Vol.30,No.6(2002)pp.840)(註9)

○ 報酬が高額。
聖ペトロが、天国の入口で弁護士を優遇してくれる理由というのが、その弁護士が、依頼人に請求した時間をすべて足すと200歳近くまで生きていたことになり、聖ペトロは、その長命に敬意を表したからという話。(国際商事法務Vol.30,No.8(2002)pp.1143)(註10)
隣の弁護士の飼い犬に肉を盗まれた肉屋が、その弁護士に「もし飼い犬が肉を盗んだら、飼い主は代金を払う義務があるか」と質問すると、弁護士は「勿論」と応えたので、事情を話して肉の代金を支払ってもらったところ、後日、弁護士から法律相談料名目の高い請求書が送られてきたという話。(国際商事法務Vol.30,No.9(2002)pp.1292)(註11)
弁護士に報酬価額を尋ねると、「3つの質問で50ドル」と答えたので、「ちょっと高すぎないか」と尋ねると、弁護士は、「そうですね」と答え、続けて「で、3つ目の質問は?」と尋ねてきたという話。(国際商事法務Vol.30,No.10(2002)pp1447)(註12)
(外にも面白いジョークがたくさん載っているので、一度探してお読みになることをお勧めします。英語も載っているので、英語の勉強にもなるかもしれません。)

日本の弁護士は、まだこれほど嫌われてはいないと思います。(そのように切に願っています。)私は、以前から「能除一切苦眞實不虚(能く一切の苦を除き、真実にして虚しからず)」(註13)をモットーとして、皆さまのお役に立ちたいと考えておりますし、ずる賢いと言われるほど賢くもありません。報酬については、決して高額ではないと考えています。私が企業の法務部門で働くようになった約30年前、外から見る弁護士はなかなか優雅なものだと思っていました。ところが、昨今は、弁護士も増えて、競争が激しくなって来ていることをひしひしと感じるようになりました。今後の弁護士業界どのようになっていくのかは五里霧中です。海図のない海を帆走するには勇気がいるのです(註14)。皆さん応援してください。


(註1)スヌーピーについてご存じない方は少ないでしょうが、『ピーナッツ』というコミックに登場するビーグル犬で、丸い頭の男の子チャーリー・ブラウンの飼い犬です。勿論、スヌーピーの外にもいろいろ有名な犬(のキャラクター)はいます。例えば、「ラッシー」とか、「ロンドン」とか、「グーフィー」とか、「リンティンティン」とか、「ヨーゼフ」とか、「チーズ」とか。「定春」(註1の註)とか。「世界で最も有名な」というのは、ちょっと言い過ぎかも知れません。
(註1の註) すみません「定春」は、犬ではありませんでした。では、「定春」は何かって?もう大人の人達にいちいち説明するのは疲れてしまいました。

(註2)いつも”It was a dark and stormy night”で始まる小説を書いているようです。この出だしは、ネタもとがあって、19世紀の小説家ブルワー・リトンの『ポール・クリフォード』という小説の、英文学上最悪の冒頭文として有名です。因みに「ペンは剣より強し」(” The pen is mightier than the sword”)という「表現の自由」との関係でよく引用される格言も、このブルワー・リトンの『リシュリュー』という戯曲の台詞です。もっとも、この台詞は、フランス王国の国王ルイ13世の宰相だったリシュリューが、自分のペンで命令書に署名さえすれば、自分に刃向かうものは、逮捕もできるし、死刑にもできるという趣旨で言っているものですから、実は「表現の自由」とは全く正反対と言ってよいほどの内容です。表現の自由でこの「ペンは剣より強し」を持ち出すのは、披露宴で「愛の賛歌」を歌うようなものです。

(註3)スヌーピーは、米国のアポロ計画のキャラクターでもあり、初めて月面に到着した犬でもあります(?)。

(註4)本文にもあるとおり、大統領も輩出しているわけですから、悪いばかりのイメージではないのでしょう。弁護士の数も多く(約100万人いるそうです。)、社会の中で重要な役割を果たしており、しかも「悪人」の見方をするといったところで、目立つので、ちょっとからかってみたいということなのでしょうか。

(註5)『国際商事法務』という雑誌のVol.29,No.4(2001)からVol.31,No.10(2003)にかけて、不定期に連載されていました。今となっては、図書館にでも行かないと読めないかもしれません。単行本にすればよいのにと思います。因みに「ジェーン・ドウ」という名前は偽名に違いありません。米国で、訴訟における仮名として男性は「ジョン・ドウ」、女性は「ジェーン・ドウ」を良く使います。日本なら、甲乙とか某などを使うようなものです。身元不明の死体なんかにも使うそうです。そう言えば、『ジェーン・ドウの解剖』というちょっと怖い映画がありました。良い子には決してお勧めしない映画ですが。

(註6)でも弁護士はよく選ぶに越したことはないと私は思います。

(註7)ちゃっかりしています。くれぐれも申し上げますが、私にはそんなことはできません。出典は忘れましたが、似た話で、3人の友達というのが、それぞれ、アイルランド人、イングランド人及びスコットランド人で、小切手を使うのがスコットランド人というのがあったような気がします。

(註8)正直な弁護士などいないということです。耳が痛い。

(註9)米国の弁護士が”ambulance chaser”と呼ばれていることは、夙に知られています。

(註10)時間制報酬は合理的な面もあるのですが、私のような小心者はいつもかかった時間全部を請求してよいものかと戸惑います。企業の法務部門にいたころ、某弁護士からの請求に、あれだけで、こんなに時間がかかるの?と驚いたこともあります(詳しいことは差し支えがあるのでここでは書けません。)。因みに聖ペトロは、新約聖書のマタイによる福音書の中で、「天国の鍵」を授かったという記述があることから、天国の門の前で閻魔大王みたいなことをしているというのが西洋の定番ネタです。

(註11)ひどい話なのでしょうが、ちょっとやってみたい気もします。

(註12)「3つの願い事を叶えてくれる」伝統的なおとぎ話のパロディです。ジェイコブズの『猿の手』を思い出します。

(註13)般若心経の一節です。

(註14)It takes courage to sail in uncharted waters. – Snoopy -『四月は君の嘘』という深夜アニメで、このように言ったヒロインが、主人公から「誰が言ったの?」と尋ねられ、犬の顔になって「スヌーピー」と答えるシーンがあります。