コラム

Column

第111回 最近の判例から解釈の違いの原因を考える

破産事件の配当に関する最近の最高裁判所決定(最高裁第三小法廷決定平成29年9月12日〈裁判所HP、金融法務事情2075号6頁〉。以下本決定といいます)について紹介し、地裁・高裁・最高裁の解釈判断がなぜ異なったのかその理由について考えてみたいと思います。

1 本決定の要旨
本決定の要旨は以下のとおりです。
「破産債権者が破産手続き開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合にお
いて、破産手続開始時の債権の額を基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額
を超過するときは、その超過額は当該債権について配当すべきである。」

2 事案の紹介
以下のような事案でした。
破産手続開始後に物上保証人Aから債権の一部の弁済を受けた破産債権者Xが、破産
手続開始時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額のう
ち、実体法上の残債権額を超過する部分(超過部分)を物上保証人Aに配当すべきもの
とした破産管財人Y作成の配当表に対して、異議申立てをしたものです。
これを時系列で具体的に紹介すると、以下のとおりです。
① 破産者甲が金融機関に対して借入金債務を負担し、その保証をしていたXが、元本
全額、破産手続開始日の前日までの利息及び遅延損害金の一部である5651万12
33円を代位弁済しました。そして、代位弁済により取得した求償債権の元本等を破
産債権(以下本件破産債権といいます)として届け出ました。
② その後Xは求償債務を担保するために物上保証人Aが根抵当権を設定していた不動
産の売却代金より本件破産債権の弁済として2593万9092円の支払いを受けま
した。その結果本件破産債権の残額は3057万2141円となりました。
③ 物上保証人Aは代位弁済したことにより取得した求償権2593万9092円を予
備的に破産債権として届け出ました。
④ 破産管財人Yは、債権調査において、本件破産債権を認めました。また物上保証人
Aの予備的届出について、「本件破産債権の残額が配当によって全額消滅することに
よる、破産法104条4項に基づく求償権の範囲内での原債権の代位行使という性質
において」認めました。
⑤ 本件配当表の「配当することができる金額」には、以下の記載がされました。
本件破産債権 3057万2141円(上記②記載の残額)
備考欄に、「計算上の配当額は4512万4808円であるが、本件破産債権の
残額を超えての配当はできないため」と記載されました。
物上保証人Aの求償権 1455万2667円
備考欄に、「本件破産債権の残額が配当により全額消滅することによる、破産法10
4条4項に基づく原債権の代位行使に対する配当として(本件破産債権の計算上の配
当額と残債権額との差額の配当として)」と記載されました。

3 何が争われたのか(争点)
以下の2点が争われていました。
争点1 物上保証人Aが破産手続において権利行使するための要件(弁済により一般破
産債権である求償権を取得した物上保証人Aは、債権者Xが劣後的破産債権部分
を含めた債権全額の弁済を受けるまで求償権者Aの配当参加が制限されるか)
争点2 破産債権者Xの届出破産債権の実体法上の残額を超過する配当部分(以下超過
部分といいます)の取り扱い
この2つの争点について裁判所の判断が分かれましたが、以下では争点2に絞って取
り上げたいと思います。

4 これまでの議論は
争点2についてはこれまで以下のような見解がありました。
① 不当利得説 債権者にそのまま配当する。超過部分は連帯保証人が債権者に不当利
得請求できる。
② 共同義務者帰属説 債権者は実体上の残債権を受領でき、超過部分は連帯保証人が
受領できる(連帯保証人は債権者の原債権を代位行使できる)。
③ 破産財団帰属説 債権者に計算上の配当額を配当したときは、超過部分を破産財団
に不当利得として返還するか、債権者には実体法上の残債権を配当し、超過部分は
破産財団に帰属させ、当該債権者を除く他の債権者への配当原資とする。

5 本件での裁判所の判断
本件では以下のように地裁、高裁、最高裁で判断が分かれました。
① 大阪地方裁判所堺支部(原々審)
超過部分は予備的に破産債権届出を行っていた求償債権者に配当すべきであるなどと
して債権者の異議申立てを却下しました。これは共同義務者帰属説をとったもので
す。
② 大阪高等裁判所(原審)
超過部分は、まず他の一般破産債権者の届出に係る一般破産債権に対する配当に充て
るべきであるとしました。これは破産財団帰属説をとったものです。
③ 最高裁
破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合におい
て、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された
配当額が実体法上の残債権額を超過するときは、その超過部分は当該債権について配
当すべきであるとしました。これは不当利得説をとったものです。
今回の決定により最高裁はこれまで様々に分かれていた考え方を統一しました。

6 このような考え方の違いはどこから来るのでしょうか
ポイントは、破産手続内で超過弁済にならないように処理してしまう(破産手続内で
自己完結させる)かどうか、いいかえれば、問題を一回で終局的に解決する(いわゆる
「紛争解決の一回性」を重視する考え方といえます。)かどうかだと思われます。
この点共同義務者帰属説は問題を手続内ですべて解決するという立場です。これに対
し、不当利得説及び破産財団帰属説は、不当利得説超過配当を受けた債権者と求償権者
との不公平の調整を別の手続にゆだねるというものといえましょう。紛争解決の一回性
という観点からは共同義務者帰属説にひかれます。
他方、時間・手続費用などの視点も破産管財業務上、ゆるがせにはできません。とり
わけ速やかに配当金を受け取りたいという債権者の立場からは、この視点は重視すべき
ことになりますが、不当利得説及び破産財団帰属説はこのような要請に応えるもので
す。
手続内ですべてを解決しようとすると、ややもすれば時間がかかります。その分他の
債権者に対する配当が遅れることが懸念されます。上記の各説の違いは、破産手続は速
やかに終了させて手続外で調整を図るのがよいか、それとも若干時間がかかったとして
も、手続内ですべて解決をするのがよいかという見方の違いのように思われます。
以上のとおり結論が先にありきのような説明をしましたが、法律の議論ではテーマに
もよりますが、理由を積み重ねて結論を出すというよりは、結論の妥当性を決めて理由
付けを考えるという思考パターンすなわち理由と結論の検討の順序が逆になる場面があ
ります。
決定書には明示されておりませんが3つの決定の背景にはそのような価値判断がある
といえるのではないでしょうか。

7 実務の現場では
破産手続では破産管財人は今後問題がないようにできるだけ手続内で(…すなわち後
の問題を残さないように)問題を処理していると思います。私自身もこの方向は正しい
ように思われます。ただ、破産管財人ひとりでそのような処理ができるわけではありま
せん。そのような処理ができるためには破産債権者の理解・協力が得られることが前提
となるといえます。
実際には、債権者が実体法上100%の満足を受けた場合、破産管財人から届出名義
の変更(破産法113条)をすすめ、これに債権者が応じていることが多いのではない
かと思われます。債権者がこれを拒否する理由はないと思われるからです。今回の最高
裁の決定が出た後も、このような実務上の運用はそれ自体意味のあることと思われま
す。
ただし、債権者の協力が得られない場合には(本件ではまさに債権者の協力が得られ
なかったケースです。破産管財人が苦労して債権調査を行い、配当表を作成したことが
決定文からもうかがわれるところです。)、破産管財人は今回の最高裁の決定に従うこ
とになると思われます。