色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第108回 失踪して行方不明となった従業員に対する解雇について

2017/09/12

1.会社からのご相談の中に、「ある従業員が、突然出社しなくなり、何の連絡もないまま2週間以上欠勤を続けています。届出の住所にも不在で、携帯にもつながりません。職場で調査しても失踪につながるような事情は判りません。同人を解雇したいのですが、できるでしょうか。できるのであれば手続を教えて下さい。」というものがあります。
 私の経験では、独身で、遠隔地に居住する親に聞いてもその所在はもとより、失踪の事実すら知らないので、対応ができない、という場合が多いというのが、私の印象です。妻帯者である場合や、同居の親がいる場合には、弁護士に相談するまでもなく、配偶者や親と協議して処理しているのではないでしょうか。
 会社としてこのような従業員を放置できないことは明らかなので、解雇できて当然ではないかと思われますが、法的には次のような様々な問題を含み、処理は容易ではありません。
  ①通常解雇もしくは懲戒解雇のいずれができるか、いずれもできるとすればどちらを
   選択すべきか。
  ②いずれかの解雇ができるとして、解雇の通知はどのようにすべきか。
  ③未払の賃金や賞与、解雇予告手当や退職金は、従前どおりの賃金や賞与の支払方法
  (口座振込)でよいのか。
 以下に私の考えを述べますが、これは失踪の原因が不明であるということを前提としています。従業員が失踪する原因としては、着服・横領等の非違行為が発覚しそうになった、とか業務上のメンタル不調が高じてということなどが考えられ、仮にそれらが原因であるとすれば、以下の回答も変わることがありますので、その点の調査は入念に行う必要があります。

2.①について
 いずれの解雇を考えるにせよ、まず就業規則の定めが問題となります。
 多くの会社の就業規則には、懲戒解雇について「正当な理由がなく無断欠勤が●日以上に及んだとき」という類の定めは見ますが、通常解雇については、そのような具体的な定めはなく、「本人の責に帰すべき事由があるとき」あるいは心身の故障がある、あるいは能力低劣である場合に解雇ができるといった定めが多いもの、と思われます。
 したがって、このような就業規則を前提とすれば、無断欠勤の日数についての要件にあたれば、懲戒解雇事由には一応該当するといえるのですが、そもそも無断欠勤の理由が判らないのであれば、「正当な理由」があるか否かが判りません。つまり、仮に、事故や事件あるいは突然の病気により出勤も連絡もできないというものであれば、該当しないことになります。また、懲戒解雇事由に該当したとしても、懲戒解雇が有効となるにはそれが社会通念上相当であることが求められ、その要件を満たすためには当該従業員の業務にかかわる多くの他の事情をあわせ勘案する必要があります。また、懲戒処分を行うに当たっては、本人に弁明の機会を与える必要もありますが、このような場合にはそれもできません。また、就業規則上、懲戒処分について社内の委員会の手続を経ることが必要とされておれば、本人へ委員会への出頭を求める通知をすることが必要となりますが、これも後述するような法的手続を経なければ不可能です。更に、懲戒解雇の場合には、退職金の減額・不支給が通常伴いますので、その配慮も必要です。
 このように様々な障害があることを考えると、本件のような場合に懲戒解雇を選択することは適当とはいえません。
 他方、通常解雇する場合については、「客観的・合理的な理由」が必要となります(労働契約法16条)が、懲戒解雇のような種々の要件やリスクをクリアする必要はありません。仮に本人において無断欠勤について何がしかの理由があったとしても、長期間の無断欠勤をする者を解雇することには、その理由のいかんを問わず「客観的・合理的な理由」があるといえますし、社会通念上も相当と考えられますので、法的にも安全であり、手続的にも簡便といえます。では、この場合、どの程度の欠勤期間をみればよいのでしょうか。私は、失踪後1ヵ月程度を勧めています。これは、1つには、その程度の期間をみれば、その間に本人からの連絡がありうること、あるいは、同僚や取引先等関係者あるいは警察等から本人に関する情報が入ることなどが考えられるからです。

3.②について
 解雇の意思表示は、労働者に到達しなければ効力を生じないということは、争いがないところです。同居の家族がいる場合、家族に通知すれば到達とみることが出来るとする裁判例もあるようですが、同居の家族もおらず、失踪したという本件ではそのような処理は不可能です。
 このような場合、民法98条が詳細に定めている公示送達という方法があり、費用と手間が必要ですが、法的に確実な方法といえます。

4.③について
 賃金については、口座振込が一般的と思われますが、③の質問に挙げられた支払金のうち、解雇予告手当は労働の対価として支払われるものではなく、労働基準法11条所定の賃金ではありませんので、口座振込は認められません。それ以外は口座振込は可能と考えられますが、失踪した従業員の銀行口座へ振り込むことは、通帳・印鑑が本人の支配下にない場合がありうることを考えれば危険であり、万善を図るのであれば供託する方が安心です。

5.以上に述べたとおり、本件について法的に厳格に処理しようとすればかなり厄介ですが、リスクや負担を軽減する上では、就業規則に次のような定めがあれば有益と思われます。
  ・解雇事由ではなく、退職事由として「無断欠勤が●●日以上続いた場合は退職す
   る」と定める(この場合、●●日は、解雇予告期間の30日と同一とするのが適当
   と思われます)と定めることにより、①②の問題は回避できます。
  ・通常解雇や懲戒解雇について「会社に届け出た住所に解雇通知を送付したときは、
   通常到達したと考えられる日を以て到達したものとみなす」と定めることにより、
   ②の問題は回避できます。

6.前述のとおり、妻帯者や同居の親がいる場合には、配偶者や親と協議をして処理していると思われますが、配偶者や親には解雇に関連して本人を代理しうる権限はなく、その処理について後日、法的な問題が生じうることがあるので、予め弁護士にご相談されることをお勧め致します。

以上

執筆者:夏住 要一郎

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