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「弁護士に求められる資格・条件」について

以下は,色川幸太郎が平成元年に行なったスピーチ(抄)です。

 

弁護士が一人前になるというのは,いったいどういう資格・条件を要するんであろうかということを考えてみたんでありますが,箇条書き的に申し上げますと,第一はですね,いうまでもなく豊かな学殖。これは経済学・哲学・その他の隣接諸科学を含む。法律学については勿論いうまでもない。

 

第二は,相手方を圧倒するに足るだけの法廷技術であります。しかし,これは同時に品格がなければならない。そしてまた,弁護士というのは,言語媒体を駆使しての職業でありますので,しゃべること,それから文章で表現すること,いずれも的確であり,説得力がなきゃならん。
それから,対人関係におきましても,人の話をじっくりと聞くことのできる辛抱強さと,そして,例えば交渉事のような場合には,円転滑脱な折衝の方法を会得しなきゃならん。

 

第三はですね,これは徳目であります。人間として有すべきところの徳目は,これはまがりなりにも我々自身が身につけなきゃならん。で,私はその徳目の中でも,弁護士にとって特に必要な二つの点があるように思う。
ひとつはですね,これは他人の不幸に対する感応力であります。他人の不幸を見て悲しみ,その喜びを共にするだけの感応力がなければならない。簡単にいえば,孟子の惻隠の心になるかと思いますし,もっと大きくいいますと孔子の仁,あるいは仏教の慈悲にも通ずるんじゃないかと思うんでありますが,これがひとつ。それからもうひとつはですね,不正に対して憤る力であります。不正を許すことができないという,その感情を持ち続けなければ,弁護士たる値打ちはないと私は思う。
ただし,この不正と戦うという場合,匹夫の勇であってはならない。これはやはりバランスのとれた対応の仕方でならなきゃならん,ということを付け加えたいと思います。