色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第104回 アマゾン(Amazon)とMFNと私(後編)

2017/07/07

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3 MFN条項の競争促進効果
 もっとも、本件の価格等の同等性条件について拘束条件付取引における公正競争阻害性が認められる(「不当に」に該当する)ためには、正当化事由の1つである競争促進効果も考慮する必要があります。

 この点、論説1及び2[1]並びにある外国文献[2]によれば、プラットフォームに関するMFN条項には、概ね次のような競争促進効果があると考えられます。こちらもやはり規範ではないものの、「⇒」以下で便宜上ザックリ当てはめてみます。

ア 長期契約の締結を促進し、取引コストを低減する。すなわち、自らのプラットフォームにおけるプラットフォーム利用者(買い手)の購入価格を、他のプラットフォーム事業者との関係で保証し、価格の変動によるリスクや市況調査、再交渉等の費用を予め低減することにより、MFN条項に守られたプラットフォーム事業者との間で長期契約に踏み切りやすい土壌を作り、低価格で迅速な商品の供給につながる
⇒マーケットプレイスでは膨大な量の商品が取り扱われていることからすると、これらのリスクやコストの低減というメリットは大きいのでは

イ 特に一定の時期を過ぎれば意味のなくなる商品(例えば、コンサートチケット等)や傷みやすい商品(例えば、生鮮食品等)については、時間の経過による価格の下落(一定の時期や品質劣化が迫ることによる値下げ)を予期するプラットフォーム利用者(買い手)が、意図的に取引開始を遅らせてより良い条件で購入しようとする、といった行動をとる可能性がある。そのため、出品者(売り手)とプラットフォーム事業者との契約にMFN条項を入れ、たとえプラットフォーム利用者(買い手)が早期に購入しても、その後他者との間で値下げがされれば、これに合わせて自分の価格が下がり、既払いの金額との差額を返金すること等を保証することにより、契約締結を促進する
⇒上記事情が妥当する一定の商品についてはこの点もメリットである

ウ いわゆるホールドアップ問題[3]の発生可能性を下げ、プラットフォーム事業者の関係特殊的投資、すなわち特定の取引先、たとえば出品者(売り手)を想定した他に応用が利かない投資に踏み切ることを可能にすることにより、効率性及び競争の促進につながる。換言すれば、せっかく投資を行ったにもかかわらず、その後他のプラットフォーム事業者において安価で商品が提供されてしまうという懸念を予め回避することができるため、安心してこのような投資が行われる
⇒アマゾン社が特定の出品者(売り手)に対して関係特殊的投資をしているとは思えないため、関係なさそう

エ フリーライダー問題を緩和する。すなわち、コストをかけてサービスを提供したにもかかわらず、もし他のプラットフォーム事業者においてより安価で商品が提供されるとすれば、サービス提供に消極的になり、その結果消費が停滞する、という事態が生じるため、MFN条項によりこのようなリスクを排除する
⇒マーケットプレイスに集まった商品や出品者に関するカスタマーレビューその他情報を参照し、他の電子商店街または出品者(売り手)から直接購入する、というユーザーは相当数存在すると思われ、妥当するのでは

 以上からすれば、一定の競争促進効果も認められるように思います。

 
4 結局違反なのか?
 このように見てくると、少なくとも入手可能な情報だけでは、公正競争阻害性が認められるのかどうかについて何ともいえないように思います。公正取引委員会は当然より詳細な情報に基づき事実認定をしているはずですが、それらの情報をもってしても、価格等の同等性条件が電子商店街運営事業者間の公正な競争を阻害するものであり、拘束条件付取引として違法だと断定できるかは微妙なように思います。
 そもそも、拘束条件付取引については20%のセーフハーバーが設けられている以上[4]、違法と判断する上ではアマゾン社の電子商店街運営事業者としてのシェアをある程度厳密に測定する必要があります。
 のみならず、実際に排除措置命令を出すとなれば、アマゾン社は、市場画定自体を争う可能性が高いと想像されます。つまり、電子商店街運営事業者間ではなく、例えば自社サイトで販売する事業者や実店舗運営事業者まで含めて競争している、さらには国内事業者に止まらず例えば越境ECサイトも考慮すべきではないか等、シェア算定の前提問題から喧々諤々の議論となることが考えられます。そうなると、公正取引委員会にとっては、本論に入る前から、かなりの理論武装や事実認定が求められることになります。

 
5 おわりに
 今回、事実上の確約手続[5]のような格好で本件は終了しており、経緯や判断に関する真相は藪の中です。独禁法分野における(少なくとも国内では)珍しい事例が蓄積される貴重な機会が失われたという意味では残念な面もあるものの、公正取引委員会、アマゾン社とも一応納得して独占禁止法上の懸念を早期に払拭できたということからすれば、あるべき1つの解決が図られたのではないかと思います。
 談合やカルテルばかり、特定の業界ばかり相手にしていると批判されることも多い公正取引委員会ですが、必ずしも十分ではないリソースの中、こういった現代的な分野にも取り組んでいることは評価されるべきことだと思いますし、これに応じて様々な企業においてこれまで以上に独占禁止法コンプライアンス意識が高まることにより、公正かつ自由な競争の促進、さらには国民経済の民主的で健全な発達が促進されることを願います。

 なお、2017年6月16日、米Amazon.com.Inc.によるWhole Foods Market, Incの買収(約1兆5000億円)が発表されました。国内へのインパクトは今のところ不明ですが、私自身も今後はついに生鮮食品までをもAmazonで購入することになるのか、ますます勢いを増すであろうAmazon.com.Inc.及びアマゾン社には、一ユーザーとして今後も目が離せません。

 あと、頼むから誰かオセロのコツ教えて。。

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[1]  論説1p12~13、2(下)p40~41

[2]  Potential pro-competitive effects of MFNs. Francisco Enrique Gonzalez-Diaz& Matthew Bennett. (2015) The law and economics of most-favoured nation clauses. Competition Law & Policy Debate.vol.1.issue3,pp34-35.

[3]  いったん実施すると元に戻すのが難しい投資を行った結果、相手に足元を見られて不利な条件を強いられるという問題。

[4]  流通・取引慣行ガイドライン第1部、3(4)参照。

[5]  TPP協定整備法に基づき本年1月19日に「公正取引委員会の確約手続に関する規則」が制定され、EUのCommitment Procedureに倣った確約手続の導入が予定されていたが、同月23日にトランプ米大統領がTPP協定離脱の大統領令に署名しており、施行は見通せない状況となっている。

執筆者:西本 良輔

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