色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第102回 アマゾン(Amazon)とMFNと私(前編)

2017/07/07

(中編はこちら)

(後編はこちら)

1 はじめに

 藤井聡太、ついに敗れる―。2017年7月3日、将棋界のスターである藤井四段の連勝が、29でついにストップしました。残念ではありますが、まだ弱冠14歳でもあり、連日の藤井フィーバーで過度なプレッシャーを感じ続けて大変だったでしょうから、一息ついてこれからまた改めて将棋界を盛り上げていっていただければと思います。

 しかし、実は遡ること2時間半前、我が家ではもっと衝撃の敗戦がありました。私はAmazon.co.jp(以下「Amazon」といいます)なしでは生きられない人間で、食料品から日用品まで、Amazonで買わないのはもはや生鮮食品ぐらいといっても過言ではありません。そんな私が、子供たちの娯楽&教育として先週Amazonでオセロを購入し、簡単なルール(はさめば色が変わる、カドっこを取れば有利程度)を教えがてら数回遊んだ後、この日、息子(超弱冠5歳)との真剣勝負に挑みました。一度教えながらやった際は50枚ほど取って父の威厳を見せることに成功したのですが・・・。なんと今回ボロ負けしたのです。角を4つとも取られて、22対42とほぼダブルスコアでした。「まだ5歳に負けるわけにはいかねぇんだ」「36歳なんかに負けるわけにはいかないんだ」と言い合っての真剣勝負でしたので、ショックからまだ立ち直れません。

 という強引な出だしから、本日はAmazonの話をしたいと思います。2017年6月1日、公正取引委員会が、2016年8月8日の立入りを契機に続けていたアマゾンジャパン合同会社(以下「アマゾン社」といいます)に対する審査を終了することを発表しました[1]。自発的な措置を速やかに講じるとの申出がアマゾン社からなされ、当該措置が独占禁止法違反の疑いを解消するものと判断したことが理由のようです。

 本件で問題となったのは、契約上、当事者の一方が他方に対し、取引上最も有利な条件を提供することを約束する、いわゆるMFN条項(Most-Favored-Nation clause/最恵国待遇条項又は最恵顧客待遇条項[2])です。欧米では、本件に類似したAmazon対ドイツ連邦カルテル庁事件や、有名なE-Book事件[3]のほかいくつかの事例の蓄積が存在するものの[4]、国内で論点となった事例は見られないように思います。私にとっては、Amazonユーザーという立場でも若干気になるニュースではありますが、本コラムではMFN条項に関する独占禁止法上の問題という観点で確認してみたいと思います[5]

 
2 MFN条項の反競争性
(1) 公正取引委員会の認定によれば、アマゾン社は、Amazonマーケットプレイス(アマゾン社のWeb上に開設された電子商店街、以下「マーケットプレイス」といいます)に出品者が商品を出品するための出品関連契約に、次のような条項を盛り込んでいたようです。

出品者がマーケットプレイスに出品する商品の販売価格及び販売条件について、購入者にとって、当該出品者が他の販売経路で販売する同一商品の販売価格及び販売条件のうち最も有利なもの[6]又はこれと同等なものとする(価格等の同等性条件)

 端的に言えば、マーケットプレイスより有利な条件で他所(自社による直接販売を含むと思われる)で売ることは禁止、ということになるでしょうか[7]。伝統的なMFN条項は相手方に対して「自己」への最待遇を求めるものであるのに対し、本件は近年増加しているいわゆるプラットフォーム事業者による拘束、すなわち「自己のプラットフォーム利用者」への最恵待遇を求めるものである、という特徴はありますが、本件の価格等の同等性条件はまさにMFN条項に該当するといってよいと思います。

 MFN条項は、独占禁止法上、

「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」

に当たり得るとして、拘束条件付取引(一般指定12項、法第2条第9項)と捉えることが最も素直だと思われます。
 実際、公正取引委員会もその疑いで審査をしてきたと発表しています。

(2) MFN条項について整理された論説「最恵待遇条項(MFN条項)と独禁法」[8](以下「論説1」といいます)、及びこれに近時のオンライン取引にかかる事例及び検討を追加した論説「最恵待遇条項(MFN)・価格均等条項と独占禁止法(上・下)」[9](以下「論説2」といいます)によれば、プラットフォーム事業者がMFN条項を利用する場合の競争制限効果には、売り手間、プラットフォーム事業者間の競争それぞれにおいて、主には次のものがあるとされます。

ア 出品者(売り手)間
・ 出品者(売り手)があるプラットフォーム上における販売価格(プラットフォーム利用者〔買い手〕の購入価格)を値下げすると、MFN条項を課しているプラットフォーム事業者のプラットフォーム上でも値下げしなければならなくなる。その結果、出品者(売り手)が値下げをするインセンティブが低いものとなり、売り手間の価格協調が促進される。さらにカルテルが行われている場合には、その促進及び実効性を確保する効果がある。(協調促進効果

イ プラットフォーム事業者間
・ MFN条項を課しているプラットフォーム事業者と競合するプラットフォーム事業者が、仮に出品手数料の値下げやプラットフォームの機能改善等といった活動を行ったとしても、自社のプラットフォーム事業者における販売価格だけを下げてもらうことができなくなるため、このような競争的行動に出るインセンティブを低下させ、競争を減少させる。さらには、そのようなビジネスモデルにより差別化を図ろうとする既存事業者を排除したり、潜在的事業者の新規参入を阻止する等、競争事業者を相対的に不利な地位におく(競争減少、他者排除効果[10]

(中編へ続く)

(後編はこちら)

[1]  「アマゾンジャパン合同会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について」(平成29年6月1日)

[2]  均等待遇条項(parity-clause)と呼ばれることもあります。

[3]  この件の主論点はApple及び大手出版5社間のカルテルで、いわゆるハブ&スポーク型の一種であることですが、共謀の手段としてMFN条項が利用されていました。

[4]  例えば、流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会報告書資料4「欧米におけるオンライン取引に関連する垂直的制限行為についての主な判決・決定等」参照。

[5]  念のため、立入り当時私は公正取引委員会に勤務していましたが、本件については担当していないどころか資料の閲覧や事案の概要を聞いたことすらなく、報道で知る以上の情報は持っていません。

[6]  最も有利な条件を求めるものはいわゆるMFNプラス(追加優遇型)とも呼ばれますが、以下では特に断りのない限り併せて単にMFNと呼びます。

[7]  実際の事件ではこの「価格等の同等性条件」のほかに、「品揃えの同等性条件」(出品者が他の販売経路で販売する全商品について、全バリエーションをマーケットプレイスに出品する)も問題になっていますが、紙幅の関係もあり、今回は「価格の同等性条件」に絞って見ていくことにします。

[8]  本多航、和久井理子(法学研究47号、2015)。買い手側が利益を受ける場合を中心に論じています。

[9]  和久井理子(NBL No.1093・1094)。なお、和久井先生には公正取引委員会に勤務していた時代に「独占禁止法入門」という研修でお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

[10] ここでいう「他者排除効果」は、2017年6月6日付けで改正された流通・取引慣行ガイドラインでいう「市場閉鎖効果」とほぼ同旨に考えて良いと思います。

執筆者:西本 良輔

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