色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第99回 独占禁止法研究会報告書(平成29年4月25日)を読んで(後編)

2017/06/01

3 調査協力の促進

 本報告書は、公正取引委員会の調査への協力を促進するため、事業者の協力度合いに応じたインセンティブ・ディスインセンティブを高めることを提案しています。
 まずインセンティブから確認してみましょう。現行の課徴金減免制度は、減免を受け得る事業者数が最大5社に限られており[1]調査開始日から20営業日を経過するまでに減免申請をしなければならない[2]ため、これらの要件を満たさない事業者は調査に協力するインセンティブは全くありません。また、要件を満たす事業者についても、要件さえ満たせば失格にならない限りは自動的に減免を受けられるため、積極的に調査に協力するインセンティブはなく、例えば減免申請をしつつ後に命令を争う事業者も存在します。このような現状を打破し、実態解明を促進するため、本報告書は、減免を受け得る事業者数の上限を撤廃し申請期限を延長することが適当としています。さらに、インセンティブの裾野を拡大しても、特に全体像の把握による速やかな実態解明にとって有益な早期の減免申請に対するインセンティブが失われることのないよう、第1位の減免申請者への課徴金免除[3]は維持するとともに、第2位以下の減免申請者については減算率に幅を持たせ、証拠の付加価値(内容や提出時期等)に応じて公正取引委員会が具体的な減算率を決定することを求めています。
 証拠の付加価値という点に関して実務的に重要と考えるのは、公正取引委員会の恣意的な運用を排除するため、供述調書を評価対象としないことが適当とされていることです。事業者や弁護士の中には、現行の課徴金減免制度の下でも、事業者の従業員等が公正取引委員会の調査方針に迎合的な供述を行うことにより事実に反する供述調書が作成されているという問題点を指摘する声があります。そして欧米などと異なり、日本の独占禁止法の調査においては、供述調書が内容・分量のいずれから見ても最重要の証拠としての扱いを受けています。このような現状にかんがみれば、報告書がこのような懸念に配慮していることは十分に理解できますし、それに止まらず供述調書重視から報告命令に対する報告等の重視へと、審査実務のコペルニクス的転回を示唆しているのかもしれません。
 次にディスインセンティブです。現行の課徴金制度の下でも、調査妨害や合理的理由なく非協力的な対応をする事業者の従業員が存在し、違反行為の実態解明の妨げとなるケースが散見されます。そこで、本報告書は、減免申請者に継続協力義務を課し、違反した場合は減免失格にするとともに、調査妨害があった場合に課徴金を加算し、減免申請者については減免失格にするとしています。
 継続協力義務なるものの内容を見てみると、①違反行為に関係する全ての保有情報及び入手可能情報の迅速な提供、②情報提供依頼に対する迅速な回答、③従業員への供述調書応諾命令、④減免申請事実の守秘、⑤①から④全ての調査終了時までの継続、となっています。しかしこれは、過大かつあいまいな印象を受けます。とりわけ、①については、入手可能とはいかなる意味か(例えば、人的・物的・時間的コストを割いて徹底的な調査をすれば入手できる情報も必須なのか)が不明であり、「可能」を字面通り受け取ると、減免失格者が続出し、かえって減免申請が行われなくなるという本末転倒な結果を生み出す可能性も否定できません。今後、法律やガイドライン等である程度明確になってくるものと思われますが、慎重かつ具体的な検討が必要になると考えます。
 なお、調査妨害による減免失格についても、遵法意識の低い一従業員の行為によりこのような大きな効果を持たせて良いのか、コンプライアンスをどれだけ徹底しても完全には防げないのではないかといった議論もあり得るように思います。もっとも、この点については、そもそも談合やカルテルといった違反行為自体が、事業者全体というよりやはり遵法精神の低い一又は少数の従業員によりなされることが通常であることからすれば、許容範囲であると個人的には捉えています。
 いずれせよ、この点についても、これまで以上のコンプライアンスの推進が必要となってくることでしょう。

4 秘匿特権らしきものの導入
 本報告書には、いわゆる弁護士・依頼者間秘匿特権(Attorney-Client Privilege、以下「秘匿特権」といいます)を限られた範囲で認めるかのような記載がなされています。秘匿特権は、平成26年のクリスマスイブに公表された「独占禁止法審査手続についての懇談会報告書」でも今後の検討課題とされており、これを受けて検討した結果、今回「運用において、新たな課徴金減免制度の利用に係る弁護士とその依頼者との間のコミュニケーションに限定して、実態解明機能を損なわない範囲において、秘匿特権に配慮することが適当」とされました。
 しかし、運用において課徴金減免制度の利用に係る弁護士とその依頼者との間のコミュニケーションに限定実態解明機能を損なわない範囲配慮する、といった表現はいかにも歯切れが悪く、内容がよく分かりません。検討過程においては、導入推進派の意見を紹介し、秘匿特権を認めることによる課徴金減免制度の利用促進効果に一定の配慮を示しつつも、逆に認めないことによる弊害として主張されている点については、抽象的な懸念であって事業者に現実的な不利益が発生しているという具体的な実例は確認できなかったと切り捨てた上で、むしろ実態解明機能の阻害や他の法分野へのインパクトといったバランス論を主な理由とする導入反対派の意見を重視し、いわば一応入れてみましたといった格好になっています。
 秘匿特権については、欧米や主要なアジア諸国でも認められており、かねてより国内外の弁護士[4]及び事業者から導入の要望が強かった事項であり、関心の高い点であると思われます。ただ、実際に導入するとしても、判例の蓄積等もなく、そもそも日本は判例法の国でもないことからすれば、要件、対象となる通信、判断権者、弁護士の範囲、放棄とみなされる場合等の詳細を法律等で詰める必要があります。また、一応であっても秘匿特権が認められることになった場合、これが他の法分野も含め今後の秘匿特権導入拡大の突破口となるのか、逆にモデルケースとしての防波堤となるのか、関係各者による綱引きが注目されます。

5 まとめ
 以上、簡単ですが本報告書について私なりにまとめてみました。実際の法改正に至るまではまだ一定の期間を要することになりますが、今後の動きを注視していきたいと思います。

[1] 法第7条の2第11項、第12項柱書

[2] 法第7条の2第12項第1号、課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則第5条

[3] 法第7条の2第10項

[4] 例えば、「日本における弁護士・依頼者間秘匿特権の導入(上・下)」(NBL No.1067,1068)。なお、公正取引委員会時代に同論文の筆者であるScott D Hammond弁護士(元DOJ反トラスト局次長)の話を直接聞いた際も、秘匿特権の必要性を強調しておられた。

執筆者:西本 良輔

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