色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第98回 独占禁止法研究会報告書(平成29年4月25日)を読んで(前編)

2017/06/01

1 はじめに
 ご案内のとおり、本年4月25日付けで、独占禁止法研究会報告書(以下「本報告書」といいます)が公表されました。公正取引委員会は、本報告書を踏まえ課徴金制度の見直し等について、具体的な制度改正案等の検討作業を進めることとしており、その参考資料とすべく、本報告書を本年6月30日までパブリックコメントの手続に付しています。
本報告書の内容については、本報告書又は本報告書の概要(Word版、PowerPoint版)をお読みいただくのが一番なのですが、せっかく昨年末までの2年間を公正取引委員会で審査専門官として過ごしておりましたので、若干の経験談も交えつつ、皆様にとってポイントであると私自身が考える点について、かいつまんでご紹介しようと思います。
 具体的には、

・ 課徴金額の増大(後記2)

・ 調査協力の促進(後記3)

・ 秘匿特権らしきものの導入(後記4)

という3つに分けて、順に触れることにします(なお、やや長くなるためコラムは2回に分けて掲載します)。

2 課徴金額の増大
 端的に言って、本報告書に沿った法改正が仮になされれば、課徴金額はほぼ間違いなく増大します。改正の前後で比較すると、実務上最も重要な不当な取引制限(カルテル、談合等。独占禁止法〔以下「法」といいます〕第2条第6項)を例に取ると、主に次表のように構造になっているからです(なお、調査妨害によるペナルティについては後記3ご参照)。

改正項目 現行 改正後
算定基礎となる売上額[1] ・商品又は役務につき、違反行為による相互拘束が及んだこと又は具体的な競争制限効果が発生したことを要求

・基礎売上額がない場合は課徴金を賦課できない

・相互拘束や具体的な競争制限効果は問わず、違反行為の対象とされた商品又は役務の売上額は一律算定基礎とするよう法定

・基礎売上額がない場合も課徴金を賦課できるよう基礎利得額を類型化して法定

算定期間[2] 最大3年間 上限見直し(例えば最大10年間)
基本算定率[3] 10%等 課徴金制度全体として課徴金額の水準を引き上げるよう、必要に応じて見直し
業種別算定率[4] 小売業3%、卸売業2%等 廃止
中小企業算定率の対象[5] 資本金の額等又は常用従業員数により機械的に決定 一部を除外(例えば大企業グループに属する企業)
早期離脱に対する軽減[6] 2割減等 廃止(課徴金減免制度の改正の中に取り込む)
企業グループ単位での繰り返し違反の割増算定率 なし 導入を検討

 これは、そもそも本報告書の出発点が、硬直的な現行の課徴金制度の下では、多様かつ複雑な経済実態に柔軟に対応して違反行為の抑止を効果的に図る、という課徴金制度の目的を達成できないという問題意識にあることからも、いわば当然の結果と思われます。
そのため、企業としては、米国の罰金や欧州の制裁金のように巨額になるかはともかく、日本における課徴金賦課についてもこれまでのように甘くはない時代が近いうちにやってくるものと考えて、日頃取り組んでおられるであろうコンプライアンスをさらに推進することが求められます。
 上記表のうち実務上影響が大きいと考えるのは、算定基礎となる売上額として、「商品又は役務」該当性を判断する上で、相互拘束や具体的な競争制限効果を問わない、とする改正が実現した場合です。特に談合事件においては、個別の落札物件について具体的な競争制限効果が及んでいたか否かの審査及び審判に甚大なコストが投入されており、事業者側及び公正取引員会側の負担の増加及び事件処理期間の長期化を招いています。したがって、これらの作業を省略しても売上額及びこれに基づく課徴金の算定が適切になされるという前提であれば、基本的には歓迎されるべきものと考えます。
 なお、余談にはなりますが、本報告書では義務的課徴金の賦課については現行法が維持されており、また上記表からも明らかなように公正取引委員会の裁量が入る余地はそれなりに限定されているからか、かつて言われていたような「裁量型課徴金制度」という呼称は使用されていません。

(後編へ続く)

[1] 法第7条の2第1項
[2] 法第7条の2第4項
[3] 法第7条の2第1項
[4] 法第7条の2第2項
[5] 法第7条の2第5項
[6] 法第7条の2第6項

執筆者:西本 良輔

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