色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第54回 証拠保全の手続~カルテを題材に

2014/12/03

1 当事者は,あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは,裁判所に対し証拠保全を申し立てることができます(民事訴訟法234条)。証拠保全における証拠調べの方法は条文上制限がないため,証人尋問や書証の取調べ等もできますが,実務上そのほとんどは検証によると言われています。そして,証拠保全がなされる最も多いケースは,医療事故事件において「カルテが改ざんされるおそれがある」と主張する患者側の申立てによりカルテの証拠保全がなされるケースです。

 そこで,以下では,カルテの証拠保全の手続の流れを簡単に説明します。

2 患者側は裁判所にカルテの証拠保全を申し立てます。裁判所は証拠保全の申立てに対し,カルテが改ざんされる具体的なおそれがあるか否か(「医師にカルテを改ざんした前歴がある」「医療事故の原因の説明を求めたが,明確な説明はなかった」等の事実があるか否か)を検討します。裁判所は,カルテが改ざんされる具体的なおそれがあると判断した場合,証拠保全を認める決定を出し,患者側と証拠保全を実施する日程を調整します。

 病院側は,証拠保全がなされる1~3時間程度前に執行官から証拠保全の決定書謄本等を受領します。病院側はこの時点で初めて証拠保全がなされることを知ることになります。

 裁判官や書記官,患者側代理人等が病院に来て,カルテの提示を求め,コピーや写真撮影の方法によりカルテの写しを作成します。

3 以上のとおり,病院側の立場からすれば,証拠保全がなされる1~3時間前に突然決定書謄本が送達され,あっという間に証拠保全が始まってしまいます。証拠保全の手続自体には強制力はありませんが,協力しなければ後の訴訟で患者側の主張が真実と認められるおそれもあるところですので(民事訴訟法232条1項,224条),病院側は証拠保全に協力すべきです。証拠保全において病院側が注意すべき点は主に以下のとおりです。

 ①決定書謄本に添付されている検証物目録の内容をチェックし,事前に目的物の有無を確認しておきます。目的物が現場にない場合には,その理由(「離れた場所にある倉庫にて保管している」等)を裁判官に説明します。この場合は後日写しを送付するなどして対応することとなります。

 ②カルテとは異なり,医療事故報告書等を提示しなければならないか否かは争いがあります(東京高裁平成15年7月15日決定参照)。いずれにしろ,普段からカルテ以外の関連資料(本来カルテに綴る必要のない資料)をカルテに綴らないよう注意する必要があります。

 ③カルテ内に病棟日誌など他の患者に関するプライバシー情報が含まれている場合には該当部分を紙などでマスキング処理した上で提示します。

 ④患者側代理人が裁判官に対し適宜気づいた点(「この点が修正されている」「頁が欠落している」等)を検証調書に記載するよう要請することがあります。このとき,病院側はその内容に間違いがないかを確認し,間違いがあればその場ですぐに裁判官に指摘します。

 ⑤後日,裁判所に対して検証調書(カルテの写しが添付されています)の閲覧・謄写請求を行います。当日においても証拠保全時におけるカルテの写しを作成しておけばよりベターです。

4 証拠保全に慣れていない病院の方々は,裁判官らが来るというだけで慌てふためいてしまい,証拠保全の手続中ずっと手が震えていたというエピソードを聞いたことがあります。証拠保全の手続はあくまで証拠調べ手続の一種であることを理解し,落ち着いて対応していただくことが,担当者の方にとって重要かと思います。

 なお,日常の診療において,カルテは常に正確にかつ過不足なく記載しなければならないことは言うまでもありません。しかし,診療の現場では時間に追われてしまうため後で記載しようと思って忘れてしまうなど必要な記載が欠けることがあります。診療に携わる医師一人一人が注意しなければなりません。

執筆者:有岡 一大

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