色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第59回 遺産分割は、10か月以内に

2015/03/26

 相続税の基礎控除額が、本年1月1日から60%に縮減されました。そうなると、年間死亡者数120万人ないし130万人のうち、これまで5万人程度(4%程度)の被相続人が相続税の課税対象でありましたが、これからは1.5倍になると予想されています。したがって、これまで相続税とは無縁であった人が、申告せざるを得なくなり、放置していると、課税処分を受けるおそれもあることになります。

 

 妻と子供2人が相続人、遺産が、自宅(30坪―100㎡の土地とその上の建物)と預金2000万円と仮定しますと、基礎控除額が4800万円[1]となりますから、土地の路線価[2]が28万円を超えると、土地の評価額が2800万円を超え、預金を加えると課税されることになるようです。

 しかし、被相続人の居住用の宅地については、100坪(330㎡)以内であって、親族が同居し、保有を継続する場合には、課税価格が80%減額されることになっています[3]。これは、相続人の生活基盤を奪わないという趣旨です。

 してみると、土地の評価額は、560万円以上となり、相続税は課税されないことになりますが[4]、ただ、この減額適用を受けるためには、原則として、申告期限(相続開始の日―通常は死亡日―の翌日から10か月以内)までに、遺産分割を行い、申告を行うことが必要です[5]。

 

 前回のコラム[6]で、生命保険金や死亡退職金は、遺産分割の対象外であると述べましたが、これらの財産は、相続税の関係では、みなし相続財産として、課税の対象となっています。ただ、この場合でも、相続人が取得する場合には、一定額(500万円×法定相続人の数)が非課税とされています[7]。

 

 また、金銭債務は、課税価格から控除されますが、被相続人が確定申告義務を負っていた場合、被相続人が負担すべき債務や公租公課等を控除[8]するためには、死亡日の翌日から4か月以内に、(準)確定申告書を提出する必要があります[9]。

 さらに、民法にいう特別受益とは関係なく、相続開始3年以内の贈与財産は、贈与時の価格によって、課税価格に加算されます[10]。110万円の基礎控除以内の暦年贈与であっても、すべて課税の対象となり、贈与税額が、相続税額から控除されることになっています。

 

 このように、居宅などについては課税価格の特例適用[11]がある一方で、見なし相続財産や相続開始3年以内の贈与の加算などもあるため、被相続人死亡時の正味財産額のみで、基礎控除を超えていないと即断するのは危険です。

 

 以上のように、被相続人死亡後、4か月以内に準確定申告を行い、10か月以内に遺産分割を行うことが望ましいのですが、これができない場合には、法定相続分に従って分割したと仮定して、申告を行い、相続税を納税することが必要です[12]。そして、遺産分割が成立した後、更正の請求を行うことになります。

 

 その他遺産分割において、注意すべき点を指摘しておきましょう。

 相続放棄があれば、相続人ではなくなりますが、相続税の基礎控除等の計算には影響がありません[13]。但し、死亡保険金などを取得すると、遺贈により財産を取得したとして、相続税の納税義務を負うことがあります。

 

 預貯金からの死亡直前の不明出金については、誰が取得したか遺産分割の際に問題となりますが、取得者に対するみなし贈与ないし返還請求権として、相続税の課税対象となることがあります。

 

 被相続人から相続人が資金援助などの利益を受けていた場合、特別受益として、遺産分割の際に問題となりますが、課税の関係では、過去6年分は、贈与税の課税対象となり、贈与でなければ、貸借として返還請求権が相続税の課税対象となる場合があります[14]。

 

 遺産分割において、遺産を取得したものが、他の相続人に対し、代償を支払うことがよくありますが、この場合でも、注意を要します。代償を金銭で支払った場合、支払った者は、その価格を代償債務として取得した相続財産の価格から控除することができますが、取得した者は、代償金額が相続税の課税価格に参入されることになります[15]。しかし、代償として固有の財産を交付した場合には、交付者に譲渡所得課税がなされるおそれがあります[16]。 

 

 また、遺産の不動産を相続人全員で売却し、その代金を分割した場合は、相続財産の譲渡として、譲渡所得税が課税されることになります。

 遺言の内容と異なる遺産分割が成立することはよくありますが、この場合でも、遺産分割の内容に従って相続税は課税されます。但し、いったん成立した遺産分割をやり直した場合は、新たな課税がなされるおそれがあります。

 法人に対する遺贈[17]や、遺産分割ではありませんが、限定承認[18]を行うと、譲渡所得税が課税されるおそれがありますので、注意を要します[19]。

 

 相続税の基礎控除額が縮減された結果、相続税の課税対象者は増加することになりますが、もっとも減税効果の大きい制度は、小規模宅地の特例と、配偶者の税額軽減です。ただ、これらの適用を受けるためには、原則として、申告期限までの遺産分割が要件となっています。

 したがって、迅速に遺産分割を行うために、相続が生じれば、是非、弁護士に相談されることをお勧めします。

 


[1] 3000万円+600万円×相続人の数(3名)

[2] 路線価図は、国税庁のホームページから見ることができます。

[3] 租税特別措置法69条の4第1項、2項、3項

[4] 建物の評価は、固定資産税評価額による。

[5] 租税特別措置法69条の4第4項、6項

[7] 相続税法12条1項5号、6号

[8] 相続税法13条1項1号

[9] 所得税法125条

[10] 相続税法19条1項。但し、夫婦間の居住用不動産の贈与、直系卑属に対する住宅資金の贈与、教育資金の一括贈与などについては、非課税の特例があります。

[11] 配偶者は、法定相続分又は1億6000万円まで相続税が控除されます。相続税法19条の2

[12] 相続税法55条

[13] 相続税法15条2項

[14] 相続税法36条

[15] 相続税法基本通達11の2-9

[16] 所得税法基本通達33-1の5

[17] 所得税法59条1項1号

[18] 所得税法59条1項号

[19] 家庭裁判所で熟慮期間の延長が認められたとしても、税法上の申告期限は延長されません。したがって、延滞税や無申告加算税が発生します。

執筆者:中村 隆次

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