色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第61回 セクハラ最高裁判決

2015/04/16

1. メディアでも大きく取り上げられていたのでご存じの方も多いかと思いますが、平成27年2月26日、セクハラ発言を理由とする懲戒処分につき有効であるとする最高裁判決が出されました。先日はマタハラに関する最高裁判決[1]が出されたばかりであり、企業には、女性が働きやすい労働環境作りが求められています。以下、訴訟の概要を説明した後、若干のコメントを付したいと思います。

 

(1) 事案の概要

・X1、X2(以下、二人合わせて「Xら」といいます)は、大阪市が出資する第三セクターであるYに勤務しており、いずれも営業部の課長代理の等級に格付けされていた。

 

・Yの従業員の過半数は女性であり、Yは職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置づけ、全社員にセクハラ防止研修への参加を義務づけたり、セクハラ禁止文書を配布するなど、セクハラの防止のため種々の取り組みを行っていた。

・セクハラ禁止文書には禁止行為の類型が列挙され、それらの行為が就業規則上の禁止行為にあたることや、セクハラ行為者に対して懲戒処分をするにあたっての考慮事項などが記載されていた。

・Xらは、平成22年11月頃から平成23年12月までの間に、同じ営業部で勤務する女性従業員のAらに対し複数回のセクハラ発言をした。なお、X2は、以前にも女性従業員に対する言動につき苦情が出された経験を有しており、平成22年11月に上司から注意を受けていた。

・Yは、平成23年12月、Aらからの申告を受け、X1に対し30日間、X2に対し10日間の各出勤停止処分を行い、さらに、これらの懲戒処分を受けたことを理由として、Xらをそれぞれ課長代理から係長に降格させた(以下、出勤停止処分と降格処分を合わせて「本件各処分」といいます)。これらの処分により、Xらの給与等は減額された。

 

(2) 訴訟経過

・Yの本件各処分を不当としたXらが訴えを提起

第一審(大阪地裁平成25年9月6日判決)

本件各処分はいずれも有効であるとして、Xらの請求を棄却

第二審(大阪高裁平成26年3月28日判決)

懲戒事由にあたるセクハラ発言があったことは認められるものの、本件各処分は、その対象となる行為の性質・態様等に照らし、重きに失し無効であるとして、Xらの請求を一部認容

上告審(最高裁平成27年2月26日判決)

本件各処分はいずれも有効であるとして、Xらの請求を棄却。確定。

 

(3)最高裁判決の理由の概要

以下のような理由により、最高裁は、本件各処分を有効としました。

①行為の悪質性が高いこと

 Xらのセクハラ発言は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈
 辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切
 なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当
 該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。

Xらは本来セクハラを防止するよう指導すべき立場にあったこと
 Xらは、Yにおけるセクハラ防止研修を受けていただけでなく、Yの管理職としてセ
 クハラ防止を重要課題と位置づけるYの方針やセクハラ防止のためのY取組を十分
 に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわ
 らず、派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し、職場内において1年余にわ
 たり多数回のセクハラ発言を繰り返したものであって、その職責や立場に照らして
 も著しく不適切なものといえる。

③職場にもたらした悪影響が大きいこと
 Aは、Xらのセクハラ発言が一因となってYを辞めることを余儀なくされており、X
 らのセクハラ発言がYの企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難い。

④被害者から明確な拒否の姿勢がなかったとしても加害者に有利な事情とはならないこと
 職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪
 感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や
 抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊躇したりすることが少なくな
 いと考えられるので、Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、セクハラ発言も

 同人から許されていると誤信していたとしても、そのことをもってXらに有利
 に斟酌することは相当ではない。

⑤事前に警告等を受けていないことは加害者に有利な事情とはならないこと
 ア.XらはYの管理職であり、セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関するYの方針
 や取組を当然に認識すべきであったこと
 イ.被害の申告があるまで1年余にわたりXらがセクハラ発言を継続していたこと
 ウ.セクハラ発言の多くが第三者のいない状況で行われており、Aらから被害の申告
 を受ける前に、YがXらのセクハラ行為を具体的に認識して警告や注意等を行い得る
 機会がなかったこと
 からすれば、Xらが事前にYから警告や注意等を受けていなかったとしても、そのこ
 とをもってXらに有利に斟酌すべきでない

 

2. 上記(2)の訴訟経過にもあるように、本件では、高裁と最高裁の判断が分かれました。このように判断が分かれたポイントは、最高裁判決でいうと④と⑤の点にあります。高裁判決では、「Xらが、Aから明確な拒否の姿勢を示されたり、その旨Yから注意を受けたりしてもなおこのような行為に及んだとまでは認められない。」「事前の警告や注意、更にYの具体的方針を認識する機会もないまま、本件各懲戒該当行為について、突如、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは、Xらにとって酷に過ぎる」として、これらの事情をXらに有利に考慮していましたが、最高裁は、④⑤のとおり、これらの事情をXらの有利に斟酌すべきではないと判断しました。

 企業との関係では、特に⑤が重要になってくると考えられます。⑤では、企業はセクハラ行為を認識しても警告や注意をしなくてよいと判示しているわけではありませんので、企業がセクハラ行為を認識して警告や注意等を行い得る機会があったのに何らの警告や注意をしなかったという場合には、懲戒処分の有効性が否定される方向に働く可能性がありますし、そのような場合には、別途被害者側からの損害賠償請求も考えられます。

 企業としては、日頃からセクハラ防止のための研修等を行い、セクハラを許さないという姿勢を示しておくこと、加えて、従業員によるセクハラ行為を具体的に認識した場合には、適切に警告や注意、懲戒処分を行っておくこと等、日頃のコンプライアンス体制の整備が重要になってきます[2]。

 


[1]マタハラ最高裁判決は、小林弁護士の法律コラムに詳しく解説されています。

http://www.irokawa.gr.jp/law/archives/3637/

[2]セクハラに関する指針については昨年改正がありました。改正内容については田辺弁護士の法律コラムをご参照ください。

http://www.irokawa.gr.jp/law/archives/3178/

執筆者:伊藤 敬之

ページの先頭へ