色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第26回 労働者派遣法の行方

2013/11/05

 平成24年10月に改正労働者派遣法が施行されてから1年が経ちます。

 新聞などの報道を見ると世の中は派遣労働者だらけのような錯覚を覚え,「派遣労働」という形態は「悪」で「正社員」は「善」であり,できるだけ派遣労働はなくした方がいいという価値観が支配しているような気がしてなりません。しかしながら,実際には全労働者のうち派遣社員の占める割合は2.8%に過ぎず(厚労省:「平成24年派遣労働者実態調査」),派遣労働者が派遣という働き方を選択する理由(複数回答)としては「正社員として働ける就職先がなかった」という消極的理由が約42%であるのに対して,「働く時間・時間を自分で決められる」が約38%,「時間を有効に活用できる」が約33%,「勤務地を自分で選べる」が約29%,「多数の中からやりたい仕事を選べる」が約28%,「スキルアップになる」が約20%,「賃金が高い」が約19%,「職場の人間関係に拘束されない」が約19%などと派遣という就労形態を積極的に評価している派遣労働者も多く存在し(一般社団法人日本人材派遣協会:平成24年2月29日付「派遣スタッフWebアンケート調査(調査結果の概要)」),また,派遣労働者が今後希望する働き方に関するアンケートでは正社員が43.2%に対して,派遣労働者のままというのも43.1%とほぼ同じ割合で存在することも事実です(厚労省:「平成24年派遣労働者実態調査」)。このようなアンケート結果からすれば,派遣を「悪」と捉えるのは必ずしも正しい評価ではなく,労働市場に多様な働き方を提供し,ワークライフバランスを重視する労働者にとっては,むしろ働きやすい就労形態と言えるのではないでしょうか。また,「正規雇用」と「非正規雇用」の2つの選択肢のみを取り出して,「非正規雇用を減らして正規雇用を増やすべき」との声も聞こえますが,実際には2つの選択肢だけではなく,「働きたくても働けない」(失業)という状態もあるのであって,会社が派遣などの非正規雇用であっても職を提供するのであれば,失業よりマシであるとは言い過ぎでしょうか(勿論,正社員として勤務することを望む派遣労働者をどうするかという問題はあり,会社としても正社員を増やす努力をすべきかもしれませんが,経営状況などからして出来る範囲には限度があります)。

 平成25年8月20日には厚労省の有識者会議「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が今後の労働者派遣法改正の方向性を示すものとして報告書をまとめました。同報告書で注目すべきは①専門26業務の撤廃,②自由化業務であったとしても3年を超えての派遣受入を可能とする(但し,各派遣労働者の派遣期間の上限は3年)③派遣期間の上限(3年)に達した派遣労働者について,派遣元は派遣先に直接雇用の申し入れをする,新たな派遣先を提供する,または派遣元で無期雇用に転換するなどのいずれかの措置を講じる,④派遣元と無期契約を締結していれば同じ派遣先でも派遣期間の上限を設けないという4点だと思います。

 現在,報告書をたたき台として労働者派遣法改正に向けて労働政策審議会において議論がなされており,労使間の隔たりは大きいようですが,上記のように派遣を「悪」として捉えるのではなく,実際に派遣労働に従事する方からは派遣という就労形態を積極的に評価する声があることは忘れて欲しくないと思います。一方で派遣が増大することによって職を奪われる派遣先社員がいることも事実であり,常用代替防止ということも考えなくてはなりません。通常の雇用契約においては2者間(雇用主・労働者)の利害対立ですが,派遣の場面においては,派遣労働者,派遣先社員,派遣先,及び派遣元という4者の利害対立を考えなくてはならないので問題は複雑です(あちらを立てればこちらが立たず・・・というのが入り乱れるわけです)。皆さんは4者間のバランスのいい落としどころはどこにあるとお考えになるでしょうか。

                                      以 上

 

執筆者:田辺 陽一

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