色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第22回 ストーカー規制法改正に思う

2013/08/02

 (はじめに)

 平成24年、警察が把握したストーカー被害は2万件近くに上り、平成12年のストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律 平成12年5月公布)の施行後、過去最多だったとされています。このような状況に対応するため、法の適用対象範囲を拡大すべきであるという要望があったことなどからストーカー規制法の改正法が本年6月26日に成立し、7月3日公布されました。ストーカー規制法は初めての改正になります。

 ストーカー規制法の改正の主なポイントは、第一に「つきまとい等」の行為について、電話やファクシミリによるものの他、メールによる方法を追加したこと、第二に加害者に対する警告や禁止命令などを被害者の住所地を管轄する警察のほか加害者の住所地、犯罪が行われた地を管轄する警察署・公安委員会が出せることとしたことです。

 以上の改正により、つきまといに対する規制がより強化されることになりました。ストーカー規制法のつきまといに関する改正部分は7月23日から施行されました。その他の改正は10月3日から施行されます。なお、ストーカー規制法改正と同じ日に男女間の暴力行為について被害者を保護するというDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律 平成13年4月公布)が改正されましたが、同改正法は平成26年1月ごろに施行される見通しです。

 

 (ストーカー規制法の規制)

 ストーカー規制法は、平成12年5月24日に制定され、同年11月24日から施行された法律です。この法律は、「つきまとい等」と「ストーカー行為」を規制し処罰の対象とするとともに、被害者に対する援助等を定めています。この法律は平成10年10月のJR高崎線桶川駅前で発生した女子大学生が元交際相手等によって殺害された「桶川ストーカー事件」がきっかけとなって制定されたものです。

 同法では、「つきまとい等の行為」について、①「つきまとい・待ち伏せ・押しかけ」②「監視していると告げる行為」③「面会・交際の要求」④「乱暴な電話」⑤「無言電話、連続した電話、ファクシミリ」⑥「汚物などの送付」⑦「名誉を傷つける」⑧「性的しゅう恥心の侵害」の8つの行為とされていました。これらの行為が、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で「その特定の者又はその家族などに対して行われた場合が規制の対象とされていました。

 

 (改正のきっかけその1「逗子ストーカー事件」)

 今回の改正の論議のきっかけも「桶川ストーカー事件」と同様な痛ましい「逗子ストーカー事件」が発端となったとされています。    

 この事件は、マスコミでも報道がなされたとおり、平成24年11月、神奈川県逗子市の自宅で被害者(女性)が元交際相手の男性に刺殺され、その男性もその場で自殺したものですが、男性が平成16年ごろに出会った女性と交際していたところ、平成18年に女性から別れ話を告げられたことからその女性にメールで「刺し殺す」と連絡をしていましたが。これについては脅迫罪で逮捕され、有罪になりましたが、執行猶予中の平成24年春に「別の男と結婚した。婚約不履行で慰謝料を支払え」など20日間に1000通を超えるメールを送信しました。被害者の女性は神奈川県警逗子警察署に助けを求めましたが、同警察は、脅迫やストーカー規制法の「つきまとい」には該当しないとして捜査を断念したとされています。

 

 (改正点その1 メールによる行為を追加)

 今回の改正により、上記⑤の場合に「電話、ファクシミリ」に加えて「メール」による行為が追加されました。改正前も対策の必用性については認められていたようで、「メール」についても規定の解釈運用で対応できないかという意見もあったようです。しかしながら、何が犯罪でその制裁としての刑罰については法律によって定められなければならないという罪刑法定主義からして、構成要件の明確化(何が犯罪になるかは明確に法律によって成立要件が規定される必要があるという考え方)、類推(拡大)解釈の禁止との立場からは、解釈による規定の拡大(あるいは類推)は認められず、立法による解決が必要とされた訳です。

 

 (改正のきっかけその2「長崎ストーカー事件」)

 また、平成23年12月に発生した長崎ストーカー事件は、ストーカー被害を受けていた女性の母親と祖母が長崎県西海市で殺害された事件でした。この事件では、女性の実家がある長崎県、女性が居住していた千葉県、そして男性の実家がある三重県と関係先が3つの県にまたがっていました。女性やその父親はこれらの3つの県の警察署に事前に相談していました。しかしながら、ストーカー規制法ではつきまといなどを繰り返し行った行為を「ストーカー行為」として警告を出せるのは「被害者の住所地を管轄する警察」に限定されていました。そこで、女性の住所地を管轄する習志野警察署が、男性に口頭で警告を行っただけで、他の警察署はそれ以上の対応がとれませんでした。

 

 (改正点その2 警告などの申し出先を追加)

 今回の改正により、被害者の住所地のほか、加害者の住所地や実際にストーカー行為が行われた場所などを管轄する警察も警告を出せるようになりました。また警察に対し、加害者に警告を出した場合にはその事実を速やかに被害者に知らせ、警告しない場合は理由を書面で通知するよう義務付けました。
 元々、被害者は加害者に住所地を知られたくないので、被害者がその住所地の警察に相談することは一面では加害者の男性にも被害者がその警察署の管内に居住していることを明らかにすることにもつながるので、これを避けたいと思うのが通常です。しかしながら、これまでは警告を出せるのが被害者の管轄する警察署に限定されていたため、やむを得ず被害者が居住地の警察に相談していたのが実情だと思われます。

 

 (残された課題 「見直し規定」に基づく検証)

 今回の改正は、悲惨な事件が起こったことが背景にあり、比較的早期に改正が実現されたといえること、また、このような是正の途がひらかれることになったという意味では一歩前進といえましょう。しかしながら、この間の改正と今後の規制については以下のような課題があるように思われます。

 まず、「見直し規定」の活用に関する問題です。立法は国会の手続に則って行われることからある程度時間がかかることは避けられないといえます。ただし、今回の改正がストーカー規制法の制定当時と同様に悲惨な事件が発生してから行われているという点が問題ではないでしょうか。最近の立法では、一定期間経過後にそれまでの法律の施行状況を検証して、その後の改正の要否を決めるという「見直し規定」を法律の附則中にあらかじめ定めることが見受けられます。このような「見直し規定」がおかれた例としては、いわゆる裁判員裁判法において施行3年経過後に見直すという条項が定められていることが挙げられます。これをふまえ法曹三者ではこの見直しの要否についての検討を行い、意見を出しています。

 ストーカー規制法にも、附則第4条において「ストーカー行為等についての規制、その相手方に対する援助等に関する制度については、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況を勘案して、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるべきものとする。」とされていました。

 ストーカー規制法が成立した平成12年には、たしかに電子メールは現在のようには普及していなかったことから、当時においては「つきまとい等」の行為として電子メールに言及がなされなかったのは、やむを得ないのでしょう。しかしながら、その後携帯電話やパソコンを利用した電子メールの普及にはめざましいものがあります。今や日常の通信手段として普及していると言って良いでしょう。このような見直しが適切になれていれば、平成17年12月ごろには今回の改正点についても検討が開始されていたといえるかも知れません。

 

 (残された課題 加害者の治療など総合的な対策)

 次にストーカー対策としては、法律による規制だけでは足りないのではないでしょうか。

 ストーカー犯罪は再犯率が高いと言われています(逗子ストーカー事件でも同種の行為が繰り返されていました)。新たなストーカー行為が発生しないようにするためには、「犯罪行為」を処罰するだけでは不十分だと思われます。ストーカー行為を犯した人に対して、二度と同じ行為をしないように、その人に対する治療などの処遇がなされる必要があります。ストーカー対策としては、裁判手続と刑罰の執行という法律による厳正な対処だけでは十分ではなく、加害者に対するカウンセリングなどの「治療」というソフトの対策をあわせて行うことが必要といえます。このように法の規制とタイアップした対策がすみやかに立てられるべきだと思われます。新聞報道(朝日新聞平成25年6月27日朝刊など)によれば加害者に専門家の治療やカウンセリングを任意で受けてもらうような試みがなされるといわれています。当面は加害者の同意をベースに運用を考えるとしても、さらに一歩を進め加害者の同意がない場合であっても例外としてこのような措置ができる場合の要件を明確にする方向で検討をすべきではないでしょうか。

執筆者:森 恵一

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