色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第66回 私、怒ってます。

2015/08/18

 橋本環奈さんが怒っているのは、キミの部屋の汚れた空気やお肌の手入れや車の臭いですが(注1)、私が怒っているのは、商法・会社法についてです。なお、以下に書くことは、私の個人的な見解、否、感想程度のものであることをご了承ください。

 

(社外取締役)

 社外取締役が俄然脚光を浴びてきています(注2)。そもそも日本で社外取締役が話題となったのは、平成2年、日米構造協議(Structural Impediments Initiative)で、米国が、日本に対し、独占禁止法の運用強化などと併せて、社外取締役制度の導入を求めてきたのが最初であると言っても過言ではありません。(確かに、それまでも、不祥事対策に社外役員の導入が議論になったことはありますが、「結局は形式化することは明らかであり、問題解決のきめ手とはなりえない」(注3)ということで沙汰止みになっています。)ところで、米国では、1960年代から、法律ではなく証券取引所の規則で社外取締役の参加が義務付けられていました。基本は不祥事対策にあったようです。平成2年当時の日本経済は、(バブルでしたが)空前絶後の絶頂期で、米国が参入障壁だとかなんとかいちゃもんを付けて来たのですから、当然、米国は、社外取締役制度をやっかいなものと考えてそれを押しつけようとして来たことは想像に難くありません。日本は、米国には弱いのですが、平成5年改正で、社外監査役制度を導入してなんとか勘弁してもらいました。しかし、その後も、この問題はくすぶり続け、社外取締役制度が不祥事対策にはならないことが知れて来ても(米国のエンロン事件や日本のオリンパス事件参照)、効率化と結びつけたり(日本が不況のまっただ中にあったころ、米国が好調なのは、社外取締役のおかげだという訳です。)、そして最近は、(少数)株主の代弁者だと言ってみたりして(聞くべきは声なき声・サイレント・マジョリティの声であって、声高な一部株主の声ではないように思いますが)、色々と理由付けしてくるのですが、実際のところ、法律で選任を強制すべき理由なんてあるわけありません。

 平成14年改正で社外取締役が必須の委員会等設置会社(注4)制度ができ、いろいろなインセンティブを付けて、「制度間競争」(注5)だと謳ったものの、結局、委員会等設置会社は監査役会設置会社に勝利することはなく、今度は、これまた社外取締役が必須の監査等委員会設置会社(有り体に言えば、監査役会設置会社の「監査役」をそのまま「取締役」に読み替えたような会社)制度を作ったり、社外取締役を置いていない場合に、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」(置かなくても相当である理由ではありません。)という殆ど説明不能の事項を説明しなければならないという、とんでもないサンクションを法定(会社法327条の2)したりするといった姑息な手段を使って社外取締役の設置を誘導しようとしています。海外の機関投資家等のご機嫌をとって、資金を回してもらいたいといった辺りが本音に違いないと私は思っています。

 確かに社外取締役は、人を得れば、その会社の発展に寄与するでしょう。それは否定しませんが、逆に会社が我が儘な社外取締役に翻弄されることもあります。人選が大切です。

 

(内部統制)

 昔は、法律の分野で「内部統制」と言えば労働組合の内部統制の問題(労働組合の方針に組合員を従わせることの可否)であって、会社の内部統制などという概念は無かったといってよいと思います(「内部統制」で判例検索すれば一目瞭然です。)。もともと内部統制は、会計の言葉で、これまた会計不祥事の対策として米国で出てきた概念(注6)をおそらく平成に入って、日本が会計監査の分野で取り込んだものです。これが法律の世界に出てくるのは、あの、世の上場会社役員の肝胆を寒からしめた大和銀行事件判決(注7)からです。この判決以降、どのような組織でも当然ある筈だった「内部統制」というものが会社法上特別の意味を持つようになりました。(もっとも、賢い法務省の会社法の立案担当者は、法令上は「内部統制」とは一言も言っておらず、世間が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」を勝手に内部統制体制と言っているだけですし、その具体的な内容は必ずしも明らかになっていません。内容は会社によるということです。)たまたま銀行が代表訴訟の当事者となり、当時の役所の検査マニュアルあたりが証拠に出たから、裁判所が内部統制という単語を便利に思って使ったので、内部統制という言葉が脚光を浴びるようになった訳で、銀行ではない普通の事業会社の判決であれば、このような言葉は出てこなかったかもしれません。こんなものを取締役会で決議して公表しなければならないなんて面倒以外の何者でもないと私は思います。おまけに会社は、この会社法の所謂内部統制と(似て非なる?)会計の分野の内部統制の直系である金融商品取引法の財務報告の信頼性を目的とした内部統制報告書との両方に対応しなければならないのですから大変です。それで何か不祥事があれば、後出しじゃんけんみたいに内部統制に不備があったと言われるのですから救われません。

 確かに最近の会社の清廉性(integrity)は、昔に比べて格段に良くなったと感じます。しかし、それは、社外取締役でも内部統制のおかげではありません。まさに大和銀行事件判決のおかげだと私は思っています。

 

(会社法)

 昔話ばかりして恐縮ですが、昔、会社法は講学上の概念で、商法第2編、有限会社法、商法特例法等の会社に関する法律の総体でした。そのころは、会社法も、断片的な条文を、そこから導かれる原理原則から、解釈で間隙を埋めるといったごく普通の法律で、法律家はその解釈に腕を振るうことができました。ところが、平成10年前後の改正から(このころから毎年のように大きな改正が続きます。)、だんだんと原理原則が崩れて行き、いろいろなことが出来るようになります。その極めつけが平成17年改正の会社法です。この会社法は、商法の中から会社に関する条文を独立させ、規則と相俟って、必要なことはすべて書き込まれたような法律です。それでどうなったかというと、解釈に腕を振るう余地は、極端に狭まり、もう知っているか知っていないかの世界になってしまいました。その上、変なところで原理原則に忠実であろうとして複雑です(注8)。会社法のできるきっかけとなる法制審議会への諮問は、会社法の現代化ということで、その答申である要綱もそれほど大きな改正とは思えないような内容でした。ところが、出来上がって条文化された内容は、正に驚天動地、新たな会社法という単行法ができるだけでなく、法務省が勝手に法制審議会の要綱以外の大幅な改正が加えたもので、普通の弁護士はもう会社法を取り扱うなといわんばかりのものでした。おまけに、複雑な条項が多くなったこともあって、明らかに誤っている説明が書籍や雑誌に掲載流布されるようになってしまいました(注9)。

 どうも商法・会社法の世界は迷走しているように見えます。もしかすると、大学の商法の講座は、無くなるか、マイナーな選択科目になってしまうのではないかとも思えます。以前は、民法の法人の規定がしょぼかったので、会社法の部分が法人一般についての基本となっていましたが、現在では、会社法とよく似た構成の「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」という法律のおかげで、その必要は少なくなっています。株式、手形、小切手等の有価証券は、どんどん時代遅れのものになりつつあります。商行為法については、民法との統一が進んでいます。そもそも、商法は、「商人」概念を指導原理としているところ、最近では、「消費者」との対応で、「商人」によく似た「事業者」という概念が大手を振って使われています。そう商法の居場所はなくなりつつあるのです。ちょっと淋しい気もするのですがいかがですか。

 

 いろいろ筆に任せて書いてしまいましたが、最後にもう一度申し上げます。このコラムは本当に私の気まぐれに過ぎないものであって、もし、お気に召さない方がいらっしゃるようでしたら、平にご容赦賜りますようお願い申し上げます。(注10)

 

(注1) 多くのおじさんは知らないかもしれませんが、橋本環奈さんは、Rev. from DVLという福岡を拠点とするアイドルグループの一員で、2年ほど前から、「千年に一人の逸材」、「天使すぎるアイドル」としてブレイクしています。「私、怒ってます」は、彼女が出ていた某社のキャンペーンで、もう(平成27年5月19日)終了しています。

(注2) 証券取引所の『コーポレートガバナンス・コード』に、「上場会社は・・・独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである」(4-8)とあることも理由の一つかもしれません。証券取引所も、米国のように正々堂々と上場要件にすればよいものを、『コーポレートガバナンス・コード』のような中途半端なところに書き込むあたり、往生際が悪いとも思います。

(注3) 石井照久「前注(§§230の2-280〔会社の機関〕」12頁大森忠夫外編『注釈会社法(4)株式会社の機関』(有斐閣、昭和43年)

(注4)「委員会等設置会社」は、後に「委員会設置会社」となり、さらに「指名委員会等設置会社」にと、名前が変わっていきます。何か流浪の民のようです。

(注5) 私が勝手に「委員会等設置会社」制度と「監査役会設置会社」との間の「制度間競争」と言っているのではなく、当時の立案担当者がそう言っています。

(注6) 米国における企業の粉飾決算や経営破綻に対応するために、トレッドウェイ委員会支援組織委員会((COSO:the Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission))が1992年に公表した「内部統制の統合的枠組み」という報告書(COSO報告書)における「内部統制」の概念が現在の内部統制概念の基本にあります。

(注7) 米国で、大和銀行(当時)ニューヨーク支店の嘱託行員井口俊英氏が、取引で出した損失を取戻そうとアメリカ国債の簿外取引を行います。ところが、同支店の管理体制の不備からこれがなかなか発覚せず、損失は11億ドルにも膨れあがります。簿外取引が破綻した井口氏は、銀行上層部に手紙で告白、銀行上層部は日本の大蔵省にはこれを報告しますが米国金融当局(FRB)への報告は遅れてしまいます。FRBは、これを隠蔽と判断し、銀行は、3億4000万ドルもの罰金を支払い、米国から撤退せざるをえなくなります。

 銀行が被った損害についての代表訴訟の判決で、大阪地方裁判所は、平成12年9月20日、被告の元ニューヨーク支店長に約570億円、他の被告11人に約260億円の支払いを命じます。これが大和銀行事件判決です。(なお、この事件は、結局控訴審で和解により終結することになります。)実際のところ、この事件では内部統制の問題は本来は重要ではありませんでした。元ニューヨーク支店長については、ちゃんと仕事していたら見つけられたと言えばすむ話でしたし、他の取締役は内部統制システムの構築に問題があったとはされていないからです。

(注8) 例えば、会社法のできた平成17年改正で、「全部取得条項付種類株式」という株式を利用して、100%減資したり、敵対的買収の防衛をしたりすることが出来るようになったのですが、そのために、通常の株主総会と種類株主総会の両方を(同時に)開くといった話を聞いた時は、はっきり言って、仰天してしまいました。

(注9) 例えば、計算書類等の承認について、株主総会の決議がいらない場合を定めた初期の会社計算規則は、非常に分かり難かったので、誤った解釈が出回っていました。その当時、私がこのことで質問を受けて(正しい)回答をしたのですが、相談者に、違うことが書いてある雑誌の記事を示されて、閉口したことがあります。その後、会社計算規則は、もう少し分かり易く改正されています。

(注10) もっと自信を持てばよいのに、こんなことを書くのは私がヘタレである証しであることは十分承知しています。でも、ヘタレだってセンターは取れるのです(注)。

(注10の注) このコラムの出だしや、注9などもそうですが、これまでのコラムを見て、私のことを、いい年をしてアイドルおたくだと言う人がいます。そんなことはありません。

執筆者:三浦 彰夫

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